読書録📚気候危機を解決するためのアクションプラン　speed＆scale

担当翻訳者(土方奈美さん)自身が、分厚くて高くて、これは売れないだろうな‥と嘆いていた本書、気候変動を解決するためのアクションプラン。

二酸化炭素排出と温暖化、のっぴきならない状況だし、世の中どう変化していくんだろう？とぼんやり考えながら読んでいます。

#171 今年の翻訳書3冊+α | 土方奈美（翻訳家）「翻訳家の縁側ブルース in D.C.」/ Voicy - 音声プラットフォーム

Speed & Scale（スピード・アンド・スケール）　気候危機を解決するためのアクションプラン (日本経済新聞出版)

著者は、GoogleやAmazonの最初期の投資家でもある世界的ベンチャーキャピタリスト。
アル・ゴア氏の気候危機に関するドキュメンタリー「不都合な真実」を見ていた際、娘に言われた言葉

お父さん、この問題を生み出したのはあなたたちの世代よ。ちゃんと解決して。

著者が娘に言われた言葉

この言葉から意識が変わり、現在はクリーンテックやゼロエミッション投資に取り組んでいる。
そんな著者が温室効果ガスを削減する明確な行動計画(アクションプラン)を示したものが本書。
OKRという方法(KPIみたいなやつ)に基づき作成されています。

交通、電力、食料、自然保護、産業、あらゆる方面から炭素削減に向け何をすべきか？
各国企業の取り組みも紹介されているので、今後おそらく企業側にも環境問題対処が迫られるなか、自分の仕事ってどうなっていくんだろう‥と環境問題の面から考えてみたい方おすすめです。

以下が行動計画↓

その前に、温室効果ガスってなに？

温室効果ガスは、太陽エネルギーの一部を蓄積し、再び地表へ戻すもの。
最も多いのは二酸化炭素。
うんざりするほど長持ち。一度排出されると数世紀に渡って大気中にとどまる。
他にはメタンガス。家庭の暖房やガス調理器の火をつけるのに使われる。牛も大量に放出。大気中にとどまる期間は二酸化炭素よりははるかに短いが、蓄積する熱量が何倍も多い。

2050年までに「排出量ネットゼロ」が目標

世界の二酸化炭素排出量は、年間59ギガトン(590億トン)。
これを2050年までに、排出量ネットゼロ(排出削減＋ガスの除去・貯留を足してゼロ)にする。
そして気温上昇を1.5℃以下にとどめること。

温度上昇ってだめなの？

気候変動により、ハリケーン、ゲリラ豪雨、巨大台風、洪水、海水面上昇、干ばつ、大量の難民発生。
4℃上昇で恒久的な気候恐慌がはじまる。
南半球を中心に世界経済に破滅的影響、その規模は2008年の世界金融危機をはるかに超える。

ここから本題。
2050年までに年間排出量59ギガトンを→0にするのための行動計画とは？

かなりざっくりのまとめ↓

①交通の電化

2050年までに交通からの温室効果ガス排出量を年8ギガトン→2ギガトンに削減

• EV車を内燃エンジン車並に安くする

• 自家用車を2040年までに95％EVに

• バスをすべて電動、トラックを95％ゼロエミッション車両に

• 航空機をカーボン・ニュートラルな燃料、船舶を「ゼロ仕様」に

②電力の脱炭素化

発電と暖房による温室効果ガス排出量を24ギガトン→3ギガトンに削減する。

• 世界の電力をゼロエミッションに

• 太陽光発電と風力発電

• 蓄電コスト削減

• 石炭と天然ガスを使う火力発電所をゼロに

• 石炭など採掘場でのメタンガス漏出ゼロに

• 暖房調理のガス、石油の使用半減

• クリーンエネルギー生産性をあげ、化石燃料への依存↓

③食料の見直し

農業からの温室効果ガス排出量を9 ギガトン →2 ギガトンに削減する。

• 土壌の健全性を高め農地の炭素含有量を引き上げる

• 窒素系肥料の過剰な使用をストップ、グリーンな代替品を開発、肥料からの排出量を半減。

• 牛肉と乳製品の消費量を50%削減

• 稲作農業からのメタンガスと亜酸化窒素の排出量を50％削減

• 食品廃棄物の割合を33％→10％に引き下げ

④自然保護

自然界からの温室効果ガス排出量を6ギガトン→マイナス1ギガトンに転換する。

• 2030年までに森林破壊のネットゼロ達成。原生林の破壊行為、伐採に終止符を打つ。

• 深海底引き網漁を廃止し、50％の海洋を保護(海底は二酸化炭素を多く貯留してくれている)

• 自然保護区を現在の15％→50％に拡大

⑤産業をクリーンにする

産業からの温室効果ガス排出量を12ギガトン→4ギガトンに削減する。

• 鉄鋼生産の炭素集約度を90％削減

• セメント生産の炭素集約度を90％削減

• その他産業(プラスチック、化学、製紙、アパレルなど)からの排出を80％削減

世界のプラスチックごみのうち、リサイクルされているのはわずか9%
残りは焼却され二酸化炭素排出源に(12％)、あとはすべて埋められ最終的に海洋へ流れ出す。
プラスチックは製造と廃棄で二度、環境を汚染する。

コンクリートは、製造される量とほぼ同量の二酸化炭素が大気中に放出される。しかし、コンクリートは私達の生活に必要不可欠で、これにかわる新たな技術を導入するインセンティブがないことが課題。

以上。ここまでやれたとしても、まだ年間10ギガトンの炭素排出が残っている！

ここから「炭素を除去する」課程が始まります。
ここまで287ページ、全体の半分以下です。。読み応え‥

翻訳者(土方奈美さん)が語る本書の読みどころ↓

#173 改めて『SPEED & SCALE』と翻訳家という仕事について | 土方奈美（翻訳家）「翻訳家の縁側ブルース in D.C.」/ Voicy - 音声プラットフォーム

#174 続SPEED&SCALE の読みどころ　ベンチャーキャピタリストのマインドセット | 土方奈美（翻訳家）「翻訳家の縁側ブルース in D.C.」/ Voicy - 音声プラットフォーム

感想

本書のアクションプランは、基本的に、テクノロジーの発展により環境問題をなんとかしようとするものだと思います。

経済活動により炭素が増えるよりも早く、企業へのインセンティブ設計とテクノロジーの発展により炭素排出を封じ込める。経済活動はそのままに。というイメージ。

これに対し、最近読んだ本↓

人新世の「資本論」 (集英社新書)

こちらは、これまでと同じようにテクノロジーや便利さの恩恵をただ享受するのではなく、それを地方分散型で市民営化し、ゆるやかに脱成長していこうよ、と提案しているもの。

資本主義の恩恵を受けつつ、環境問題も格差社会も解決する。そんな一挙両得で一石三鳥な現実は訪れるんだろうか‥。
けど、ジョン・ドーア氏のspeed＆scale計画を読んでいると、なんだかそれが可能のような(格差社会のことまでは書いてないけど)、テクノロジーに期待してしまいたくなるような、あっちへこっちへ心が揺れる本でした。

最近、環境問題と、どこへ向かって行ったらいいんだろう？という問いで頭がいっぱいです。
保育園帰りに子どもたちと海岸清掃をしているのですが、そのなかで思うことも色々あり。またそのことについてはいつか。

人新世の「資本論」は、
↓3/14日10時からこちらで読書会予定です。

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