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朝と鳥

朝が嫌いだった。
起こされて嫌々学校へ向かう。そこまでの過程も何もかも嫌いだった。
寝坊した朝に登校するまでの時間は好きだった。町の景色に煩わしさがない。生きてることを楽しんでいる気がしたからだ。
まあ、ちゃんとその後学校について怒られるのだが。

社会人になってからはより嫌いだった。
嫌いな人に会うためにわざわざ頑張る意味がわからなかった。
が、大学で怠惰な朝を過ごしていたにしては頑張って会社に向かっていたと思う。勿論遅刻もあったが、深夜残業早朝出勤が多かった中、大事な仕事の日の遅刻はほとんどなかった。自分を褒めてやりたい。
全くじゃないのか、とか野暮なことを言わんでくれ。
ニンゲンダモノ。

会社をやめて数週間、僕は死んだように朝の時間を貪った。
朝というものを忘れるほど、ずっと眠っていたのだ。
その代わり夜は明け方まで起きている。こんな乱れた生活を繰り返していた。誰のためでもなく誰にも何も言われない、誰にも会わない日を何日も続けることが当たり前のように。

ふと、朝に外へ出た。
漫画やドラマみたいなくらい、鳥の声がしている。近所の自動販売機に、こんなにも朝日が当たるのかと不思議な気持ちが満ちていく。面白いくらい影が濃い。
朝は綺麗だった。
何故かその日、祖母から誕生日に貰った世界の写真集を開いた。
そこには、朝日に照らされるモロッコのシャウエンという街が写っていた。
コーヒーを淹れて、その本を眺めながら飲んでみる。

ゆとりを持てなかったから朝が嫌いだったんだと、こんな年で気づいてしまった。コーヒーってこんな美味しかったんだなとか、思ってみたりもした。

「嫌いじゃなかった、ごめんよ」

心のなかでちょっと呟いてみた。


【朝と鳥】という詩を書いた。

悪いものとか勝手に思ってたこととか、朝の声は何処かへ飛ばしてくれる。
変わっていく景色を見えるようにしてくれる、朝っていいな。
どこかの街の少年が朝の景色を駆けていく。
そんな風景が見えた気がしたのです。

寝間着から着替えて顔を洗い、前日から作っておいたお茶を飲む。椅子に座って自分が朝を生きていることを実感する。
幼いままで変われないと思っていたことも、少しずつ変わっていくんだ。
なんだか嬉しくなって、また一口僕はお茶を飲んだ。



………でも今夜僕は友人と深夜にコーラとポップコーンを買って仮面ライダーを観る。
明日の朝とはどうやら会えない。
夜との仲の良さは、当分変われそうにないなぁ…。


朝と鳥




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