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世界が浮かぶ椅子

父が亡くなって、彼の部屋は時間を止めた。
主が居なくなった場所というのは不思議なもので、途端に光を失った様に暗く感じていた。当時中学3年生になった僕は、わずかにタバコの匂いが残る誰もいない部屋に入り、おもむろにPCの電源を入れた。好奇心は、そこから繋がる未知の世界を求めていたのだ。黒く大きな革の椅子は、初めて受け入れる体重に聞いたことのない音を立てる。
PCの電源がついた時、部屋が少し明るくなった。

気づけばそこは僕が絵を描く部屋になっていた。
机上には僕の物で溢れ、紙とペンがそこら中に散らかっていた。母にしょっちゅう叱られたっけか。
父が座っていた大きな椅子はすっかり僕の定位置になった。中学校を卒業し、高校を卒業し、大学を卒業してからもそこは僕の作業の定位置になっていた。

そして僕には変な癖ができていた。
身長180センチを超える大柄な父が使っていたその椅子は、座面が比較的大きな作りをしていた。僕は正しく椅子に座る向きから90度まわり、椅子の肘掛けに頭を置き、座面に背中を付け、腰を反対の肘掛けに当てて壁に足を伸ばした姿勢で絵を描くようになった。

何を言っているのか分からないって?安心してほしい、僕も分からない。
書いてるこの文章を何度読んでも間違ってないのだ。
きっと間違っているのは過去の僕だ。

しかし不思議とこの状態は頭が冴えた。なんだか絵が描けるのだ。
不思議だ。何度も言うが不思議としか言いようがない。
…不思議だ。

「世界が浮かぶ椅子」という絵を描いた。

世界が浮かぶ椅子

どんな状態だったか、やっとご理解いただけただろうか。
把握はできても理解とはいかないかもだが。
実際の椅子は真っ黒なものだったが、イメージを運んでくれるこの場所を僕の好きなもので飾ってみたのだ。少し前のものだが、気に入っている作品である。
言葉をつけるならこれだけだ。

そのままの言葉だ。
僕には世界が見えたのだ。

今、僕は実家を出て新しい定位置に座っている。たまに立って作業がしたいので、新しく邪魔にならないカウンターチェアを買ったのだ。ここが今の僕の世界が浮かぶ椅子だ。次はどんな世界をここから作っていけるだろうか、今から楽しみである。
あなたの世界が浮かぶ椅子はどんな形で、どんな場所だろうか。もし良かったら教えて欲しい。

ちなみに、僕が使っているキーボードはBluetoothのものだ。どんな場所でもどんな体勢でも使うことができる。
そうだ。
癖というのは、なかなか抜けないものなのだ。
場所を変えても、椅子を変えても…。



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