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素晴らしき哉、20代!



 ナイル川単独カヤック行の記事がまだまだ途中なので、少し話題が逸れますが、私、青沢タカユキは、先日11/30をもちまして、めでたく30歳の壁を越えまました。

 壁を越えるといえば、ナイル川下りでは途中、大きなダムにぶち当たり、カヤックを畳んでダム壁を一心不乱によじ登っていたら警察に捕まり、パスポートを取り上げられ一度連行されましたが、それはさておき、今回の30歳の壁は容易によじ登ることができ、その壁の上から20代を振り返る余裕さえありました。

 20代、長いようで短いようで。浅いようで深いようで。濃いようで薄いようで。人生の内容や体感の時間なんて他人と比較できるものでもないし、部分部分を切り取ればいくらでも編集の効く記憶になり得るのだけど、やはりそれでも胸を張って言えるのは、良き20代であった!!ということ。


1つのドラマ

 話が前後するが、今回のナイル川単独カヤック行は、エジプトにて幕を閉じ、首都のカイロより日本へ帰国した。

 帰国便までの4日間をカイロで過ごした。以前、僕は、バックパッカーとして世界一周旅行をしていた頃に、このカイロに立ち寄ったことがあった。それ以来、約10年ぶりのカイロである。

 大都会のカイロではさすがにキャンプはできず、安宿に滞在した。どこに泊まるかは決めていた。10年前にも泊まっていた、「ホテル サファリ」である。

 コロナ禍で観光客が激減している中、未だサファリが営業しているのか疑問であったが、なんとなく見たことがあるような道をたどり、いざ行ってみると何事もなく、当時のまま開いていた。

 サファリは、エジプトを旅行する日本人バックパッカーには言わずと知れた安宿で、相部屋で1泊500円ほど。廃墟ビルの最上階の6階にある。ちなみに2階にスルタンホテル、5階にベニス細川屋というこれまた有名な安宿が鎮座している。


 昔からボロボロのこの宿は、10年経った今でもボロボロであった。エレベーターはあるが、当時から故障していて一階で埃をかぶっている。なので6階までは階段を登らないといけない。

 10年前は多くの日本人バックパッカーで賑わっていたサファリも、今はエジプト人客が主なようで、1番安い大部屋は、エジプト人が数人と、他はスウェーデン人、セネガル人、アゼルバイジャン人、ロシア人という、なかなかカオスな部屋になっていた。時期は酷暑のエジプトにも関わらず、もちろん部屋にエアコンはついていない。代わりに、頼りないシーリングファンがどこかに飛んでいきそうなくらいのフル回転で音を立てている。

 ホテルのフロント部分にはロビーとも呼べない小さな共有部分があり、その脇の大きな本棚には、歴代の旅人たちが残していった本やマンガ、世界各所の情報が書き寄せられた情報ノートなどが置いてある。歴史を感じるなかなかディープな空間である。


 ぼんやりとしか覚えていない当時のことが知れるかと思い、本棚にあった一冊を手に取った。

 「サファリゲストブック」情報ノートなのかなんなのか、何が書かれているかはわからなかったが、ペラペラとページをめくっていると、それは当時そこに泊まっていた旅人たちが思い思いの丈を雑に記したものであるということがわかった。

 SNSが盛んな今では、なかなかこういうものは形として残っていないなあ、と可笑しみながら読み進めていると、ひときわ内容の浅い、見覚えのある汚い字で書かれたページがあった。

 僕だった。20歳の僕だ。書いたことすら覚えていなかった。10年前に、10年後の自分に向けて放った無責任な言葉を、10年後の今、本当に戻ってきて僕が見たのだった。今冷静に読み返すと、内容はここに載せるのが恥ずかしいくらい阿保なことを書いているが、見つけた瞬間は、この見慣れた文字でこれまでの色々なことが思い出させれ、何かに胸を掴まれたような、例えようもない感情に涙が流れてきた。

 この恥ずかしいくらい青くて尖った20歳の自分。

 常識とはなんぞや、自分の存在意義とは、システムから脱却するには。大学出て就職して家庭を築いてマイホーム買って、そんな人生でいいのか。そんなことばかりを考えて周りと温度差を感じ浮いていた若かりし頃を追憶し、この歳になってもなお、ナイル川下りなんてやって、社会人の経験もないまま30歳を迎える自分が、「なんだかんだよくやってるよ、思いのままにやってるおれは(お前は)今幸せだよ」と10年前にこのノートの前に座っていた20歳の青年と会話できたような気がして、適当にやってきたこの10年がなんだかんだ価値のあるものであったんだと思える瞬間であった。




10年後のおれよ。
30歳のお前はまだ路頭に迷っているよ。まだ余裕なんてない。10年後何を考えているかわからないが、40歳だからとりあえず島は手に入れているだろう。自分を曲げず、欲望に素直に従い、思いのままに生きていてくれ。たのむ!



最後にもう一度言う、良き20代であった。

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