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茉莉花の夜風


この時季は、歩いているといろんなところから甘い匂いがする。白くて香りの甘い花が多い。沈丁花から始まって、マグノリア、芍薬、ジャスミン、蜜柑や梔子。初夏までは、そんな花の季節が続く。
春は桃色や黄色の花のイメージが優しいけれど、初夏は白の花と香りの印象が強い。

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庭の花も、五月の連休にはジャスミンが満開なのが常だった。最近は年々早まって、桜が散る頃には咲き始めて、連休には残っているかどうか。

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ジャスミンよりも空木が早く咲き始めるけれど、今は殆ど時季が重なって、庭の白い花の季節は一息に盛りを終えてしまう。

この庭では、梅が咲いて、雪柳と馬酔木が咲き、空木が咲いて、ジャスミンが咲き、白の季節を終える。

ちなみに空木の花は紅茶色の硝子ペンや、水晶に咲いたような写真が撮れたので、また販売に回す。鉱物と花ばかりでワンパターンだとも思うけれど、陽射しに輝く花と石の煌めきが好きで、やはりそれを並べておきたい気持ちがある。朝のその数時間が、石も花もいちばん強い光を浴びて綺麗だと思えるから、それを誰かに見て欲しいと思いながら撮っている。……本当はこちらもいちばん忙しい時間帯なわけだけど。

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ウツギと同じ時季に咲く胡蝶花。

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続いてクレマチスとラベンダーの紫、目の覚めるようなゼラニウムの銀朱、鮮やかな薔薇が次々咲く。今は蕾が日々大きく育っている。本当はライラックもあるんだけれど、ここ数年、葉ばかりで花を咲かせなくなってしまった。ライラックの茂みを見れば、ムーミンを思い出せるのに。

深紅の御柳梅は冬の終わりからずっと咲き続けて、今は少し花が少なくなってきた。

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夏はあまり花が咲かないので、殆ど深緑の庭になる。

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今のこのジャスミンの季節は、ちょうど金木犀の咲く頃と同じ強さで庭は香りに溢れ、窓を少し開いて夜風を入れると、夜の湿度とジャスミンの濡れたような芳香が部屋を通る。

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ベッドでジャスミンの風に触れながら、長野まゆみの『野ばら』を読むのが好きだった。
あれはタイトルの通り、白い野ばらの垣根をモチーフにしているけれど、描写と香りがよく合うようで、ジャスミンの香りの夜に読むのが、この部屋では一番ふさわしい気がしている。

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野ばらの作品は、野ばら以上に強く描かれている柘榴の描写が印象に残りやすい。

柘榴には子供の頃から魅せられていて、校庭に落ちていた割れた実から溢れる赤が宝石のようで、あまり綺麗だから、本当に毎年それを飽きずに座り込んで眺めていた。

後に大好きなガーネットの石の和名が柘榴石だと知った時、感動した。柘榴石の形を知っている? 十二面体。あんなに美しい形に結晶するなんて。

野ばらの作品では、口から溢れて止まらなくなる柘榴の美しい悪夢が、想像すれば柘榴色の輝く血のようで、あの白皙に紅玉の唇、ばら色の頬の長野少年がそれを吐き続けるのは、退廃と幻想の美しさなのだろうと想像できる。

好きな作品として挙げるなら別の作品を並べるのだけど、野ばらが印象的なのは確かだ。

知人の家には、ちょうど真っ白な野ばらの垣根があり、今は満開で、通り掛かる度にこの物語を思い出す。野ばらは本当に棘が鋭く、あまり家庭的な花ではなくて、やはり野の茨だなぁと思う。

初夏といえば碧空の作品を愛しているけれど、それはもう少し後の季節に書けたら……。その前に数年前に撮った蓮の写真を載せようかな?
季節がすぐに変わってしまうから、写真を撮るのも精一杯でnoteが追いつかない。季節が巡るたび、長野まゆみ作品の事を書きたくなる。思い出話も、まだ書きたい日の事がたくさん。

スノードロップや花水木のデザインも描きたかったけれど……
北海道時間なら、花水木はまだ間に合うかなぁ。

もちろん柘榴のデザインも考えている。あれは秋だから、描けるといいな。
いつまでこうして創作していられるか判らないので、焦燥感が強い。その割に心身も思い通りとはいかず、進みが遅い。自分はどこまでいけるだろう?
庭の花ばかり、次々咲いては散っていくけれど。

インスタに載せた庭の動画。

良かったら庭を覗いてみてください。

ちょうど鶯が啼いていて、四月の庭らしく撮れた。


これまでサポートくださった方、本当にありがとうございました!