見出し画像

Lucifer 薔薇の哲学、堕天の美学篇


前回に引き続き、Lucifer Luscious Violenoueの話を。


薔薇の哲学、堕天の美学
これには付属の冊子が付いていて、これはなかなか入手困難かもしれないけれど(自分は定期的に検索してなんとか入手した)とても素敵な本。

画像1

すごく細かい字が改行少なく並んでいて、読むのが大変だった。それでも内容が好きで三回読んだ。

画像2


この物語、Paranoid Androidは、Radioheadが元ネタというか、銀河ヒッチハイクの小説に出てくる憂鬱なアンドロイドという記号的なタイトルだと思うけれど、それだけでなくキーワードとしても本編に出てくる。これはセクサロイドの話。

レプリカントという言葉も出てくるので、これはブレードランナー(アンドロイドは電気羊の夢を見るか?)の世界観も浮かべられると思う。個人的には、あの映画でのセバスチャン宅のゴスな廃墟みたいなシーンが舞台としてこの物語と繋がるような印象を持っている。


内容は、細部を省いて好きなところだけ書くと……


人間から低俗に扱われることに嫌気の差したセクサロイドのルシファが、廃墟に逃げ込むところから場面は進んでいく。古い映画を読んでいるみたい。

老朽化したビルの一室でルシファが本を読んでいるんだけれど、それは森がひとつ水晶化して仕舞い、やがてそれは世界中のあらゆる物へと波及して行く。そんな本だったとあった。

これには衝撃だった。何年も前に書いた自分の小説のままだった。まあ今にして思えば、誰でも考えそうな事だと解るけど、その時はショックだった。

自分の小説は、チェリストが洞窟で性別のない水晶で出来た天使を拾って、一緒に生活し始めるけど、最初は楽しんでいた街や人間の裏の汚さに、天使は徐々に気付き始めて、穢れに耐えられなくなって、洞窟に戻り、その森から水晶化させて街を呑み、世界を水晶に閉じ込めてしまう小説だった。

でもやっぱり陳腐だったんだなと思って、葬った。時の彼方へ…
天使禁猟区の読み過ぎだったんだな。


話を戻して、ルシファはやがてバベルの塔と呼ばれた高層マンションの廃墟へ行き着く。それは生活に必要な施設の全て入った高級マンションで、人々はこのマンションに引きこもってしまい、外部が気付いた時には中で殺し合いが起きて一人残らず発狂していたという、曰く付きのマンションだった。

そこで舌にダイヤのピアスをした美しいセクサロイドに出逢う。

良かったよ、きみがセクサロイドで。誰か話し相手が欲しいって、思ってたところさ。でもきみが人間だったら、僕は幽霊女のふりをするか、でなきゃあ一発お見舞いするか、そのどっちかを選ばなきゃならなかったからね

彼はそう言った。
真紅の絨毯、大理石の壁、毛皮に宝石、ドレス、アンティーク家具、シャンデリア。そんなものが閉じ込められた廃墟のペントハウスにフランシスは住んでた。

ここから始まる彼との生活が、本当に夢のようで、憧れそのままの形をしていた。
アルコールランプで缶詰を暖めて食べたり、ワインを飲んだり。
ふたりで選び合ったドレスを着て、似合う色を探してメイクやネイルをし合ったり、ハイヒールを履いて毛皮を羽織って、下の階からバカラのグラスや、版画を略奪してきたり。彼がドレスを着ると、まるでボンドガールだった。

マンションには全てが揃っているから、セクサロイドの二人はずっと永遠に生活ができるはずだった。

けど、フランシスのボディはもう寿命だった。

ペントハウスの月球儀に照らされて、たくさんの香り立つ薔薇が咲いている。永遠に枯れない薔薇の研究装置。

彼が心を込めて永遠の命を吹き込もうとしている、月と花とを見た。
僕が永遠になってもらいたいのは花なんかじゃなくって、他ならぬきみなのに。
だけど、ほら、花はね、成長していく。僕らには真似出来ない事さ。僕らは壊れたパーツのスペアを、どこか他から調達しなくっちゃ成らない。花はパーツを自分で作るよ。僕らは……月の永久運動の方に、近いのかな?
でも、それでも、欠けない月はね、未だ今のところ無いんだよ。

最後の夜は、ツリーとイルミネーションと、キャンドルのクリスマスだった。


物語の核の本筋や、この円盤の仕掛けについては触れなかったけれど、作品のリンクも面白いので、興味のある方には入手してみて欲しいな……もしそんな方がいらっしゃったら、本当に見つかると良いんだけど。

暗闇にきらきら光る色硝子みたいな、幻惑的な夢のカレイドスコープの中。白黒の活字なのに、頁から銀河のように、夜の薔薇のように浮かび上がる言葉。時間の埃のなか、曇った鏡に映る幻。極彩色の布の中で、宝石を撒き散らしたような輝き。

セクサロイドの孤独や自問自答、美しい描写、時を留めたくなるような綺麗な場面、洋画みたいな言葉の遣り取り、人間よりも美しい存在の、心の動きが書かれていて、どうしても誰かに話したくなるのに、誰もこの物語を知らない… 読んだことのある人に会った事がない。だから、せめて此処に書き残しておこう。


曲の方からも、すてきな詩を抜粋しておく
ので、物語を知るヒントにして貰えたら。


翼を折られたヴァンパイア


傷付く翼で空に見放され、開かぬ瞳の色を知りたくて。
きみが望むなら、きみの為になら、神に背いても。世界を売っても。だから、差し伸べるこの手、離さずに、どうか死なないで、僕のヴァンパイア


Eternal You

狂ったテクノロジーの神殿では月はもう満ち欠けを忘れて仕舞い
今、はなびらは燃え出し、恋焦がれて、燃え尽き、やがては氷り浸いて、息を止めたまま

この曲の最後に入っている台詞は、

そこで君は自由になる。そしてともかく飛んでいく
『見つけたよ、』
『なにを、』
『永遠。空と海とが、溶けるよ』

これはランボーの地獄の季節に入っているフレーズのオマージュ。

また見つかった、
何が、永遠が、
海と溶け合う太陽が。
俺の永遠の魂よ、
お前の誓いをおこなえ
夜も燃える日も
人々の賛同から
人々の熱から
お前は飛んでいく

この詩も何度も読んだ。けどランボーの話は、また別の記事で。

月と薔薇

月と花がみな、水晶に凍り付き、この、人工楽園の棺の中でなら、死ぬことなど考えず、ずっとずっとしあわせで
バイロンの詩の中の騎士の姿で肩を、僕の腕に預けて、ワルツを踊っている。
造りものの世界での輝く墓場では、死ぬことなどありえなく、あの日のままで…
きみの望みは、かけない月で、果て無い夜で、枯れ無い薔薇で、終わらぬ恋で、果て無い想い、涸れない命、永久のくちづけ


贋作の月から眺めた世界

滅んだ星の文明で、存在のすべての中でただひとつ、神を怖れないあなたひとりが、本物で
あなたが手折る薔薇が重く薫り立ち、肌に纏わり理性を狂わせ、優しい闇の色と凍る静けさに、いま息絶える世界を見下ろす


Airport

きみを見失いバランス崩した、世界は、儚いクリスタル
境界線のターミナルから、あなたが、いつも怖れていた、外の世界に続いて行って
最後は、どんな感じがするの?
落日の日差しに、溶けてしまいそうな、亜麻色の…
ごらんよ。ほら、ここから永遠まで。太陽を溶かし込んだ、海さ。


そして、この円盤を焼いて、好みに合いそうな友人のakiさんへ贈った事がある。一緒にプレゼントしたプリザーブドフラワー。

画像3




これまでサポートくださった方、本当にありがとうございました!