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短篇「君を見つけてしまった」8-1/8

 ⁑ 8-1 ⁑
 電車の中で、暗い車窓に今日のいろいろなことを映し出していた。
 彼女の話し方、彼女の笑い声、彼女の反応、その一つ一つが不思議に僕を包んだ。けれど、幸福感の隙間にふっと浮かぶのは彼女の語る様々なエピソードの信憑性。
 もしかしたら、と僕は唐突に思い当たる。彼女の話は話しているというよりは、むしろ書いているという作業に近いのではないかと。だから文節は長いし、助詞は几帳面に言いなおされる。話のすじが時間を追って変化するのだって、より珍しい話に昇華させるためともいえる。
 そうだ、彼女は脳内の消しゴムで消しては書き直す推敲作業をしているんだ。それは詩人の娘としての宿命なのか。でも、そもそもその母親の話だって本当のことなのかは分からない。
 確かなのは、彼女はダッフルコートが似合っていて、赤い手袋をしていること。マフラーから髪の毛がはみ出していて、いつもはねていること。歩き方が勇ましいこと。一人ですべてを背負って生きているということ。
 目を閉じて僕は彼女へのクリスマスプレゼントを考える。

 学生たちがすべての試験に解放されて、キャンパス内は華やいでいた。
 頭が空っぽになった分心が満たされているんだ。
 高揚感と幸福感。それが僕らをクリスマスへと押し出している。
「試験はどうだった?」
 ホワイエで待ち合わせて僕は彼女に聞いてみる。
「試験どころじゃなかったの。私の名前が名簿から洩れていて、受ける前にひと悶着あったんだから。これからまた学生課にいってくる」
「ひどいなあ」
「うん、あ、今日またバイトだから後で連絡する」
「あの店で?」
「ううん、別な友人の代わり。今度はクリスマスプレゼントのセーターが間に合わない子のピンチヒッターよ。ねえ、クリスマスイブ、ウチにきてね、お料理作るから。ふたりでパーティーだよ」
「わかった」
 僕は彼女の勇ましい後ろ姿を見送った。彼女の歩き方は冬に似合っているんだ。

つづく
⁂イブ、この期に及んでつづき・・・だなんて、あわてんぼうのサンタクロースさんに笑われます🎄

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