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小説詩集「純粋福袋」


ピンポーンで目が覚めて、モニターに弟とパパの恋人だった今はお母さんな人が映ってた。

ロックを解除すると、ドヤドヤ荷物を抱えて入って来たのでため息がでた。

「福袋もってきたわよ」

て言うのが第一声で、あけましておめでとうはその後だった。

実家を出て一人暮らしになってからの初めてのお正月だったから、その騒々しさが気圧の変化みたいなのだった。

「これおせちのお裾分け、って言うか来てくれたらよかったのに」

て、お母さんが言うところの福袋から小さなお重がでてきた。

「いや、これから行こうと思ってたところです」

とか言っておきながらパジャマ姿なのが妙だった。

「これはね、パパからよ」

取り出したのは、小さな袋に入ったお年玉で、「なんだ、いいのに、」とか言いながら受け取った。

「姉ちゃん、これは俺から」

とか弟が取り出したのはクラフトビールで、おお、こんなの飲んだことないぞ、って思って即座に受け取った。

「それじゃあ、乾杯でもしますかね」

て、申し出て「はっぴーにゅーいやー」とか大晦日のアルコールが抜けとらん感じでフニャフニャとビールを高くあげた。

のみながら、家族の福袋の中に「ダイヤモンドの家宝」なんかが入ってたらどうだろう、とか思う。欲しくないな。

入っていたのは小さく詰めてくれたおせちで、お母さんが家族に作ってくれたのだと思いながらも自由度が波打ぎわのフジツボみたいに侵食されるのだった。無害なのはお年玉だけれど、パパの思いの交錯が胸にゆっくり沈んでいく。弟だって、何も持って来てくれなくてもよかったけれど「よっ」て声かけてくれた感が福だったのかも。

「福袋ってさ、大抵いるもんと、いらんもんが入ってるよな」

とか弟が言うから、

「家族の福袋に何かいらないものでも入ってた?」

てお母さんが返す。返したけれど、その後おしだまった。

機微?がそこに姿をみせて、私はビールみたいにグイッとのみほした。

「いらんもんはビールだよ、二日酔いなんだから、わ、た、ひ、」

とか言う。

こうして来てくれた訳だから、いる物といらん物とのその間に、純粋な何かがあるわけで、純粋なそれだけでよかったのだけれど、これが我が家の福袋なのだった。


おわり


❄️ああ、年の初めから何だってこんな暗い話あげてしまったのか、的な妙な年の始まりになりましがた、それでもはじめて見る朝日みたいな希望を感じます。
純粋な嗜好だけに目を向けて、あるいは選択して歩いてゆきたみたいな願いがあります。だからそんな道を歩いて行きます。はっぴーにゅーいやー🎍



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