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小説詩集「みっつの場面」



「ねえ、兄さん、タロット占いやろうよ」

「またか、」

て、当然兄はしぶる。しぶるけどやっぱり付き合ってくれる。

私たちが占うのは、未来のこと。

「死神が出て、ペンタクルのエースも出てるわけだから、やっぱり何かが終わって何かが始まるんだ」

「こうやって、毎日占っているけど、二人で部屋から一歩もでないでテーブルに頬杖ついているわけだから、これ占う意味あるか」

兄さんが言う。確かにそうだ、じゃあこのコーヒーを飲み干したら出かけてみる。

出かけてみる、て言ってからさらにコーヒーを入れ直し、ケーキも食べた。今日の飲み会やっぱ出るよ、て連絡してたら、兄さんに玄関まで押し出された。


一軒目のお店を出て、ぐだぐだしているうちに、誰かが二軒目を検討しはじめる。それを待ってたら、近くにあったモグラ叩きのゲームに誰ともなくコインを入れた。最初は順番に叩きまくっていたけれど、そのうち私たちは叩くのをやめて、たこ焼き器みたいなのからあちこち顔を出すモグラ達をみていた。

「何かに似てる」

「似てるね」

「たとえば何?」

「たとえば、先輩や同期たちね」

「それからゼミの教授とか、バイト先の店長とか」

みんなひょっこり顔を出すものだから、つい同じモグラと思い込んで、あることないこと話すよね。だけど、ひょっこり出した顔はほんの先端で、本当はウツボみたいに長いんだ。その実態は誰にもわからない。それでいて測ってみるときっと同じ長さなんだ。とか言ってたら誰かが「次行くぞ」って号令を出した。


そのお店は地下にあって、私たちはガヤガヤ言ってふらつきながら狭い階段を降りた。うるさいお店だったからまるで怒鳴り合うみたいに話した。それがなぜだかおかしかった。そのうち隣あった男の子が、実家にあった柿の木の話を始めた。柿の実の造形が好きな私は身を乗り出した。彼は懐かしい子供時代の話もした。兄さんとタロット占いしてる時みたいに、私は頬杖ついてそれに聞き入った。なんだ、兄さん、外に出たって家にいるのとあんまり変わらないよ、私は兄さんに言った。階段をもっと下へもっと下へと降りるように私は彼の子供時代に入ってゆく。

「おまえ、もっと面白い話をしろよ」

て、割り込んできた人がいたけれど、え、これ面白くないの?って驚いて、兄さんに語りかけててた。やっぱりタロット占いは当たってたよ。何かが終わって何かがはじまるんだよ。

おわり


❄️タロット占いと何かが始まるお話、そして三つの場面がキーワード、みたいな話を書きました。偶然は連鎖する、それとも意識するから連鎖するのかしら、的な気持ちです。
でも、ほとんどのことが三つのステップを踏むっているのも不思議ですね。
夏があせたさびしさと、秋が深まってゆく予感に微妙な心の揺らぎを感じます。
また、書きます。(いつもさぼってしまうの、ろば_sa_bo)






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