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小説詩集6「いま自分製造機から出てきたの」

「私ってある意味シンデレラだったの」

初めて入ったカフェで冷たいものをズズズーって飲んでる男の子の前に座って言った。

「彼女、なかなかこないようね、飲み物もなくなってる」

呆気にとられるその人のことなんか構ってる余裕はなかった。

「私がシンデレラだったっていうのはね、」

自分でも呆れるけれど、もう説明し始めていた。


子供の頃友達とさよなら、って別れると、次の曲がり角があるでしょ。するとね、私妄想するの。お嬢さんなかなかの個性ですね、て突然その世界のプロから、今度スタジオに来てみませんかって声がかかるんじゃないかって。

「でもね、いくら待ってもそんなことは起こらなかった」

彼がちょっと笑っているようにも思えて、気分がわるくなる。


「ところがね、ある日、海外赴任している両親からクリスマスプレゼントが送られてきたの」

箱を開けてみると、遠心分離機的な、というかちょっと大きめな炊飯器みたいなのが入ってて、取説に自分製造機って書いてあるの。面倒を見てくれているおばあちゃんと一緒におどろいたけれど、外国でありがちなジョークなんだって笑った。でも試しに体を折り曲げてその炊飯器みたいなのに入ってみたの。もちろんスイッチはおばあちゃんが押してくれた。

「使い方?願うのよ、流れ星にするみたいに。するとね、遠心分離機みたいに回り出して、私細切れになっちゃうんじゃないかって怖くなったんだけれど、アッという間に分子レベルに分解されて、願った自分になっちゃってたの」


 もちろん私はアイドルスターになった。踊って歌って、握手して、八面六臂に大活躍―っていいたいところだったけれど、それが何か自分の性分に合っていなかったのね。やらされてる感があって、操られてる感じが。だからね、

「次はお金持ちになったの」

そしたらさ、お金が次から次へと湧いて出てくるんだよ。おばあちゃんと山分けしながら、しばらくはしあわせだったけれど、お金以外のものが何もなかったの、ただの完全なるお金持ちになっちゃってたのね、来る日も来る日もトーストにトリュフとキャビをのせまくった。

「あきたわね、ああゆう珍味って飽きが来るのも早いものなの」

「次?焦らないで、今思い出すから。そうそう、有能な人間になったんだった。お金はないけど、お金持ちを牛耳るような」

そしたら、世界が何もかもうまく回り出した。お金持ちはますますお金持ちになるし、それ以外の人たちも能力を伸ばして自由を謳歌してる世界になってたの。でも、虚しくってね、喉の渇きがとれないの。誰にも賞賛されずに、一人置いてきぼりになってたから。

「それで、今度こそ最高の自分になるんだって、また自分製造機に入ったの。うん、おばあちゃんは、面倒臭そうだったわね」

もう高望みはしなかった。平凡の極みを望んだの。美術館で資料の整理をするごくありふれた一職員の生活が始まった。


美術品を整理するのは楽しいわね、圧倒的にすごいんだもの。でもね、エッシャーが出てきちゃったの。これどこに分類すればいいの。他の美しいだけの絵画とはちがうじゃない。なんなら謎解きとか、騙し絵じゃない。でも何故だか絵画に近い。もうわけわかんなくなってきて、外へ出たわ。走って走って気がついたら橋の欄干にもたれて川を見つめてたの。流れが緩やかで石がゴロゴロしてた。

「そしたら石達が言い出したの。僕らも分類してって」

明らかに、ケースに陳列されてるルビーやサファイヤとは違うわけだから見た目で簡単に分けることもできなかったし、そんな気にもなれなかった。だって、変成岩だとか火成岩だとか熱心に取り組めばできそうな気もしたけれど、そんなくっきりとしたやつらじゃなかったのよ、あの石達。

「それでね、また駆け出してて、イヤホンから聞こえてくるこの歌だって、どれも違うけどよく似てて、あのーそこに入れないんです、っていう音楽があるんじゃないかって思えてきてもう気分が悪くなってしまったの。でも、待って、結局は、わかりやすい何かになるんじゃなくって、わかりずらい自分を分類できる誰かに見つけてもらうことが大事なんじゃないかって思ったの。それで、元々の自分に戻ろうと家に帰って自分製造機にはいったんだけど、

「これがなかなか難しかった。自分が一体どんなんだったか思い出せなくって」


「多分ぼく、その最後に製造された君を待ってたんだと思うけど」

彼は、ようやくそんなふうに口をひらいた。

「いや、そこをわかってよ、あなたしか私の価値がわからないわけなのだし」

「まずは、ごめんだろ」

「まあ、そうね」

とか言いながら、素直に謝ることができなくって、彼という自分製造機がなかなか機能してないなって思うのだった。

おわり

❄️分類ってむずかしいですよね、何かに属しててうまく分類されたら楽なんだけど、的なことですね。かといって、そんなに同じでいたくない。といいうところもあって、うまいポジションどりができてたら最高に幸せで楽ちんなんなのかなあ〜、的な気持ちで書きました。



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