小説詩集「ふたごと迷路」
木蓮の木の下でミツバチの巣をみていたら、
「お母さんの木ですか?」
って、聞いてきたので、
「お母さんの木です」
て答えた。
「妹ですか?」
て聞いてきたので、
「お兄ちゃんですか?」
て聞いた。
彼がうなずいたので驚いたけれど、昔別れ別れになった双子の兄なのだとわかって嬉しかった。
「君がさ、まじまじとお母さんのすきだった木蓮をみてたものだから、もしかして、って思ったんだ」
頷いたけれど、私がほんとうに見てたのはお母さんのすきだった木蓮の木に作られたミツバチの巣だった。その巣の中の六角形の小さな部屋だった。
「お兄ちゃんはどこか遠くに住んでるんだと思ってた」
「研究室がね、この近くなんだ、」
「研究室?」
「ラットをね、観察して条件下の行動を統計にかける仕事なんだ」
私は感心した。
「私のはね、ラットみたいに条件下でかけずり回されて絶望する、みたいな仕事なの」
「疲れそうだな、」
「つかれてる、」
パラレルワールドな別物な生き物たちが、顔を合わせるたびに辻斬りみたいな目にあうの。
「壮絶だな、」
「それでね、今ミツバチの巣をながめてて、あの小さな六角形の部屋に閉じこもれたらいいなって思ってたの」
私は木蓮の木を指差した。
「つまり、辻斬りにやられたのか、」
私は首を振った。
「今回は私がやったの、」
そんなつもりじゃなかったんだよ、ただきっちりやりたくって。斬られた心はねもう二度と開かない。だから仕事だって一歩も進まないの。私の心は痛んでうずいた。
「それで、籠るのか?」
お兄ちゃんは近くのベンチに座るように促した。
「ラットはさ、餌の道を探しながら間違い続けるんだ。だけど間違いが多ければ多いほど、探すのがうまくなってゆくんだよ」
「うん、」
うんうん、いいながら私は心が痛んでこわかった。
飛石を渡るみたいにずっと一人ぼっちで歩いてた。だけど今双子のお兄ちゃんがここにいて、出口のないのを吐露してる。
「いろんな道をためしてみろよ」
てお兄ちゃんが言うから、私はまたうんうん言った。
きっと通ったことのない道がいっぱいあって、そこにあるものを私はまだ知らないんだ。
おわり
❄️奇跡的に双子が再会できたのは、問題解決の光明でしょうか、的迷路なお話です。謎解きは得意なのに、加害者的要素が苦境に閉じ込める、的展開です。
残念なのは、時は巻き戻せないこと。でも、行ったことのない道がいっぱいある、みたいな達観が何かを解決するような気配もするんです。また書きます。ろば
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