さようならをするために

波止場にひとりたたずんで
来ない船を待っていたい
いつまでも待っていたい

そして
いつまでも、ひとり
待っていたい

さようならと港の関係

港には
さようならがよく似合う
さようならには
港がよく似合う

どれだけの人がいくど
さよならのことばをかわしたか

さようならと
港の関係を理解するために
わたしの涙は
まだ、足りないらしい

雨上がりの港に
傘を忘れてきた
雨がもう
上がっていたので
うっかり
忘れてきてしまった

雨上がりの港に
あなたからもらった
傘なのに
忘れてきて
しまいました

さよなら、といわずに
さようなら、といった

まんなかの「う」は
その一文字分、だけ
さよならを、遅らせるためと

わざと子どもっぽくして
自分の罪を
軽くするためと

むかし土曜日の夕ぐれに
いたずら小僧とかわした
さようならのまねして
その後に

じゃ、また、あした、と
いいたかった、から

さようなら、という
ことばのために
人類は言語を獲得した
人間は、話すことを覚えた

さようならをするために
人は、港をつくった

さよなら、とは言わず
さようなら、といいたかった

せめて
あなたには
さようなら、と言いたかった

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