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(小説)おおかみ少女・マザー編(四・十四)

(四・十四)地球の警告
「そんなこと言わずに、ラヴ子も瞬間移動で、火星に行ってみれば良いではないか。自分の目で、確かめて来い」
「えっ、でも何だか怖い」
 確かにラヴ子にしてみれば、瞬間移動自体未知なるものである。更にそれによって未知なる火星に行くなどという事も、ラヴ子にしてみれば想像を遥かに越えた話である。
「あっ、そうだマザー!なぜ火星がエデンかって言うとね、今この地球で寒冷化が進んでいるからなの。だから今のうちに、火星に避難しようって話なんだよね」
 しかしマザーの反応は例によって……。
「寒冷化とは、何だ?」
 やっぱり……。予想出来た事とは言え、毎度毎度では流石にラヴ子もガクッと来てしまうもの。
 そんな事も知らずに、今日まで生きて来たのね。きっと狼山という秘境で、ずっと厳しい修行ばかり積んでいたから、世の中の事なんて全く眼中になかったんでしょ?あなたって人は、マザー……。
 それでも気を取り直してラヴ子は、地球寒冷化について、ご丁寧にマザーに説明したのだった。
「ほう、成る程。それで年々寒くなっていたのだな。やっと理解出来たぞ!ありがとう、ラヴ子よ」
 ありゃりゃ、ほんと平和な人ね。て言うか、呑気な地球の化身さん……。
「そうなのよ、マザーお嬢様。太陽さんがすっかりお仕事さぼってらっしゃるもんだから……。困った太陽さん。マザーお嬢様の方から、気合いを入れて上げてもらえませんこと、太陽さんに」
 ふざけるラヴ子に、しかしマザーは真面目に続けた。
「しかし、ラヴ子よ。満更太陽だけが、原因でもないかも知れんぞ」
「えっ!どういうこと、マザー?」
 ラヴ子も真剣になって、問い返した。
「あゝ良く聴け、ラヴ子よ。もしかすると地球規模で、何らかの危機が差し迫っているのかも知れん」
「え、えっ?何らかの危機?」
「そうだ。そしてその事を我等に気付かせんが為、我がいとしきマザーアース、我等が地球が寒冷化という現象を起こして、警告しているのかも知れんぞ」
「ええっ!地球寒冷化が、地球の警告?」
「そう言う事だ」
「じゃ何?地球寒冷化自体が問題なんじゃなくて、その差し迫った危機っていうのが、やばいって事?マザー」
「あゝその通りだ、ラヴ子よ。そこでだ、ラヴ子!何か、思い当たる節はないか?」
「何?何よ、行き成り、マザー?」
「だからその差し迫った危機について、何か心当たりはないか?と聞いているのだ」
「ええっ、ちょっと待って。そんな事、急に聞かれても……」
 オロオロするラヴ子に、冷静なマザーが助け舟。
「だから例えば何か、今人間界で緊急を要するような、重大かつ危機的な問題はないのか?どうだ、ラヴ子よ」
「どうだって、言われても……」
 戸惑うラヴ子を、しかし容赦なく急かすマザー。
「もしかするとその問題を解決せんが為に、わたしたちふたりは地球の化身として、この地上にやって来たのかも知れんぞ」
「ええっ、ちょっと待ってよ!そんな恐ろしい事言わないでよ、マザーお姉様……」
 焦りつつもラヴ子は何とか冷静になって、頭の中を整理しようと試みた。
 ええと、マザーが言うように地球寒冷化自体が危機じゃなくて、それは地球が発する何らかの警告!じゃ、一体何に対する警告なの?地球規模で差し迫った危機、今人間界、ちょっとまた人間界!で緊急を要する重大で危機的な問題……って?
 しかしラヴ子は案外容易く思い付いた。そしてそれは勿論、クローン人間!の事である。
 でも、でも本当かな?地球寒冷化が、地球が発する警告だなんて?やっぱりちょっと荒唐無稽な気がして、不安を覚えるラヴ子。何か科学的根拠とか裏付けが有れば、良いんだけど……。そこでラヴ子は何らかの助言を得るべく、父健一郎に問うてみる事にした。

「ねえ、マザー。ちょっと待っててくんない?お父さんに聞いてみるから」
「あゝ了解」
 マザーを待たせ、ラヴ子は自室を出て、健一郎の許へ。
「ねえ、お父さん。地球寒冷化っていつ頃からだっけ?」
 すると怪訝な顔をして、健一郎。
「どうした、ゆき?そんな事、行き成り聞いて来て?」
「うん。ちょっと、友だちと雑談してて。気になったの……」
「随分と、スケールのでかい雑談だね!」
「うん。ちょっと変わった、友だちだから……」
「良し分かった。ちょっと待って」
 健一郎はすぐさまスマホを取り出し、サクサクっと調べた。
 あっ、ラヴ子もスマホで調べりゃ良かったんだ!後悔しつつ、ラヴ子は健一郎の答えに耳を傾けた。
「西暦二〇三〇年から、始まったみたいだね。その年から太陽の無黒点状態が、始まったんだよ」
「へえ、二〇三〇年かあ。ちなみにお父さん」
「うん、何?」
「同じ時期に何か、大きな問題とか起こってないかなあ?」
「大きな問題って?」
「うん、だからね。例えば今人間界、じゃなかったわたしたちの世界で、直面している大きな問題って有るでしょ?その元になるような、出来事とか?」
「うーん。なんかややこしそうだけど、ちょっと待って」
 そう言うと再び健一郎は、スマホに目を移した。それから間もなくして……。
「あっ、ゆき。もしかして、これかな?」
「何々、お父さん?」
「あゝ。クローン、じゃない人類に関する事なんだけどさ……」
「なあに?クローン、じゃない人類に関する事って?」
「あゝ。こっちも二〇三〇年から始まってたんだよ」
「えっ、どういうこと?もっと詳しく教えてよ、お父さん」
「あゝ良いかい?本格的なクローン、じゃない人類の創造、つまり俺たちの世界が人類と共存する社会へと大きく舵を切ったのが、二〇三〇年なんだよ。つまり地球寒冷化も、クローン、じゃない人類の創造そして普及政策も、同じ二〇三〇年から始まっていたんだよ。凄い偶然だね!」
「えっ、そうだね……。ほんと、凄ーい!お父さん、ありがとう」
 元気に答えつつも、内心ラヴ子が穏やかでないのは言うまでもない。ラヴ子はさっさと自室に戻った。
 二〇三〇年?さあ、大変!両方とも二〇三〇年からって、まじでやばーーっ!て事はやっぱり、マザーが言った通り、地球寒冷化は警告、クローンじゃない、いちいち面倒臭いなあ、人類に対する警告だったって事?凄ーい、まじで凄過ぎるんだけど……。さっすが、マザー。ただの妄想少女なんかじゃ、なかったのね。ごめん!でも、ってことはわたしもやっぱり……地球の化身なの?ま、兎に角急いでマザーに教えなきゃ。

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