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(小説)おおかみ少女・マザー編(四・十六)

(四・十六)改めてオオカミ少女
 そして冬、十二月が訪れた。極寒の中それでも街には、クリスマスのイルミネーションが瞬いた。冬、事実上横浜ではもう、雨が降る事はなくなってしまった。地球寒冷化によって、雨は全て雪になってしまうからである。
 狼山では、マザーとフォエバが語り合う。
「しかし、マザーよ。そもそもクローン人間とは、人間と呼べるのか?生きものと言えるのであろうか?人工物なのだから、あくまでも物体なのではあるまいか?」
 しかしマザーは、かぶりを振った。
「オリジナルの人間に取って代わろうと言うのであるから、それなりに精巧、優秀に創られているのであろう。元々人間をベースにしているのだから、人間の姿をしたロボット、或いは人間モドキとでも言うのか……」
「人間モドキか。そんな連中にこの地球を好き勝手にされてはかなわぬと、この母なる星も、お怒り或いは嘆いておられるのかも知れんな」
「あゝ、確かにそれもあるかも知れんが……。それ以上に被創造物である筈の人間が、あたかも創造主の如く、クローン人間などという生命体を創造してしまった。それは明らかなる神への冒涜!と言わざるを得ん。そっちの方が、より重大な問題なのではないかとわたしは思う」
「成る程な。であれば、であるならばこそ、マザーとラヴ子の使命たるや、責任重大と言えよう」
「確かに……」
 そしてマザーは自らの産みの親であるこの母なる星、地球の心情へと、想いを至らせるのであった。

 フォエバとマザーが語り合う夜更け、ラヴ子よりテレパシーが入った。
「マザー!こちらはラヴ子、応答願います」
 良し。頼むぞ、フォエバ!
 マザーは目配せで、フォエバに合図を送った。フォエバは頷いた。そしてフォエバ自ら、ラヴ子へとテレパシーを送ったのである。
「ラヴ子よ、初めまして。俺はマザーと共に狼山にいる、オオカミ族のフォエバだ」
「フォエバ?」
 マザーが答えて来るとばかり思っていたラヴ子は、大いに驚きかつ動揺した。オオカミ族の、って誰、この人?俺ってことは、男?戸惑うラヴ子を、フォエバがやさしくフォローした。
「驚くのも無理はない、ラヴ子よ!俺はマザーがこの山に来た時から、ずっとマザーと一緒に暮らしている、一匹のオオカミだ。どうか恐れずに、俺の話を聴いて欲しい」
 一匹のオオカミ!うっそ?更に吃驚仰天のラヴ子である。わたし今、オオカミとコンタクトしてるの?テレパシーって凄ーい!
 でも驚いてばかりもいられない。早く返事しないと、フォエバさん、心配してるかも……。
「はい、ラヴ子です。大丈夫、全然驚いてないから。ねえフォエバ、あなたの話を聴かせて」
「良し、では話そう。実はマザーと俺とで、ラヴ子のいる人間界の問題について、いろいろと話し合った」
 ヘーっ、そうなんだ。って、ちょっと待って!
 今更ながらラヴ子は、冷静になって考えた。と言う事はマザーって狼山で、オオカミ族のオオカミたちと一緒に暮らしてる、ってことだよね?
 どっひぇーーっ!
 やっとマザーの生活環境について、朧げに理解出来たラヴ子は、改めて驚嘆。あっ、そう言えば!六甲山脈の何処かの山に、昔オオカミが棲息していたって話を、聴いた事があったような無いような……。でも今もちゃんと、この日本にオオカミはいて、しかもマザーと一緒に暮らしている!
 へえっ……。でも今更だけどマザーって何食べて、どんな服着て生活してるんだろ?学校とか、人間の知り合いとか、どうなってんの?あっ、もしかしてマザーって、オオカミ少女!
 忽然としてラヴ子の中に、何とも言えない感動が生まれた。まだわたしたちが生まれたばかりの赤ん坊だった時、ラヴホテル『エデン』からわたしは母なる大地の聖母院に預けられ、人間たちの中で育てられた。一方マザーの方はどういう事情かは知らないけど、オオカミの世界に行って、狼山でオオカミたちに育てられたってこと?そしてそんなマザーとわたしは、この地球という星の化身……。
 数奇な運命を辿って来たであろうマザーに対して、尊敬の念を抱かずにはいられなかった。そして唯一の姉妹であり双児のパートナーであるマザーに対して、遅ればせながら深い愛情が込み上げて来たのである。
 あゝ、何だかマザーに会いたくなっちゃった。会いたい、会いたい、今無性にマザーに会いたい。会って、見つめ合い、微笑み合い、抱擁し、そして語り合いたい……。双児なのだから、きっとわたしと瓜二つの、そっくりさんの、掛け替えのないわたしのパートナー。オオカミたちの中で育った、逞しいオオカミ少女のマザー……。
 でも狼山って、山なんだよね?寒くないのかな、マザーたち。この地球寒冷化の極寒の中で……。
「良いか、ラヴ子よ?」
 フォエバの問い掛けに、はっとしてラヴ子は我に返った。
「うん。ラヴ子なら、大丈夫だよ!」
 フォエバの直ぐ隣りにいるであろうマザーの存在をひしひしと感じながら、ラヴ子はフォエバのテレパシーを受け止めた。

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