いたいの

いたいの、いたいの、とんでけ

飛んでゆくはずはないとわかっていても
母は、母と呼ばれる人は
祈らずにはいられなかった

子どもの苦しげな寝顔
子どもが風邪をひいた日に一晩中


歳月は流れ
子どもは立派な娘に成長し
ある日激しい恋をして
けれどその恋は破れた

いたいの、いたいの、とんでけ

飛んでゆくはずはないとわかっていても
娘はこんな時あの晩のように
娘は、いつか自分より小さくなった母親に
また祈ってほしい、とふと思った


また歳月は流れ
年老いた母と、母になった娘と病室の窓辺

ここでもない、そこでもない、と
痛がったり、だだをこねたり
また、寂しがる母親のため
娘はつぶやいてみる

いたいの、いたいの、とんでけ
さびしいの、とんでけ

飛んでゆくはずなどないと
わかっています
わかってはいるけど

いたいの、いたいの、とんでけ

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