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(小説)おおかみ少女・マザー編(四・十五)

(四・十五)マザー、フォエバと大いに語る
「ねえ、マザー。分かったよ。クローン……。あっ、ちょっと待って」
 『クローン人間』って言い方は禁止されてるからって『人類』と言い換えてマザーに説明しても、混乱して多分訳分かんなくなるよね?それにまさかクローン人間たちに、このやり取り盗聴とかされてないでしょ?だってテレパシーだよ。盗聴もへったくれもないんじゃない?それとも情報漏洩?そんなの多分、大丈夫だよ……。
 てな訳でラヴ子は多少不安を抱きながらも、マザーとのやり取りでは『クローン人間』と言う言葉を、使うことにした。
「ごめん、マザー」
「大丈夫か、ラヴ子よ」
「うん」
 そしてラヴ子は恐る恐るマザーに告げた。
「差し迫った大きな問題って、クローン人間の事かも……」
 すると例によって、マザーの反応は期待通り。
「一体何だ、それは」
 そう来ると思ったよ、マザーさん!あなたがクローン人間なんて、ご存知な訳ないよね……。
「クローン人間というのはね……」
 早速ラヴ子はクローン人間について、自分の知る限りをマザーに説明した。
「ほう、成る程。確かにそれは、問題かも知れんな。つまり本来被創造物である筈の人間が、己の能力を過信そして超越して、あたかも創造主の如く生命の創造の領域にまで、手をのばしたという訳だ。それは神への冒涜とも、言えるかも知れんな」
 ちょっとマザー、言ってる事が超難しいんだけど……。わたしにも分かるように、もう少しやさしく話してくんない?リアクションに困るラヴ子を、されど気にもせずマザーは問うた。
「でラヴ子よ!そのクローン人間たちが、何か問題を起こしているのか?」
 気を取り直し、語気を強めて答えるラヴ子。
「うん、マザー。それが今、大問題を起こしてんのよ!」
 そしてラヴ子はマザーが言う所の人間界つまり人類社会が、人類(クローン人間)によって乗っ取られ支配されている現状について、マザーに詳しく説明したのであった……。

 狼山である。
 今人間界は実質、クローン人間によって支配されている事。その為旧人類と呼ばれる元々地球にいたオリジナルの人間(つまりクローン人間の生みの親)たちが、差別、迫害されている事。また火星エデン計画で火星に移住するのも、その旧人類だけであると言う事、等々……。
 これらの話をラヴ子から聴いたマザーは、大いに驚嘆した。そしてラヴ子とのコンタクトを終えた後、今度はこの件について、フォエバと語り合った。
「……という訳だ。フォエバよ、どう思う?おまえの考えを聴かせてくれ」
 そこでフォエバは大いに語った。
「先ず火星と言うのが、怪しいな!」
「わたしもそう思う」
 同意し頷くマザー。
「そもそも人間は、この地球でしか生きられない。人間に限らず、この地球に誕生した生きものは全てだ。それが自然の摂理であり、宇宙の法則なのだ」
「その通り。この地球に生まれし者は、太陽を浴び、清らかな水を飲み、清らかな大気を吸い、大地から穫れた食物を食べ、そして風に吹かれながら生きてゆくのが、本来の姿なのだ」
「それを何を好き好んで、他の星へなど行かねばならぬのだ?」
「しかも火星では、野外に出ることが出来ず、火星基地と称する箱の中で、暮らさねばならぬと言う。丸で檻の中に閉じ込められた、哀れな奴隷ではあるまいか!」
「正に哀れなり、人間たちよ!」
 大きく頷くフォエバに、マザーは更に続けた。
「否、そもそもその火星基地なる物からして、怪しいのだ。否それ所ではない!火星に行くロケットなる乗り物すら、怪しいと来ている。そんな物、初めから存在しないと、わたしは見ている」
「ほう、では何か?火星に移動する手段自体が、無いという訳か。ならば火星エデン計画などと称して、クローン人間たちは一体、オリジナルの人間たちをどうしようというつもりなのだ?」
「フォエバよ、それだ!少なくともクローン人間にとって、オリジナルの人間たちは邪魔な存在」
「成る程!ならばこの地球上に於ける人間たちの歴史を振り返れば、オリジナルの人間たちの運命もまた、自ずと分かるであろう」
「それをラヴ子に調べてもらった。人間たちの侵略の歴史と言うやつだ。それによると……元々その土地に住んでいた先住民たちは、後から侵入して来た侵略者たちによって、悉くその地を追放されてしまったらしい。ネイティブ・アメリカン然り、アボリジニ然り、パレスチナ然り……。そしてこの日本に於いてもアイヌ族然り、であると言う」
「ほう。ならば、マザーよ。話は簡単ではないか?クローン人間たちも、オリジナルの人間たちを、この地球から追い出すつもりなのであろう。その為の火星エデン計画……」
「ところがフォエバよ。その火星が、火星基地も無い、火星行きのロケットも無いと来ているのだ。となれば……」
 マザーの言を受け、フォエバは即答した。
「ならば、マザーよ。残る手段は、ただ一つ。この地球上に於いてオリジナルの人間たちを抹殺、即ち滅亡させるつもりなのだ!つまり大量虐殺という訳だ。何と恐ろしい……」
「ジェノサイドと言うそうだ。ラヴ子が言っていた」
「ほう。ではラヴ子も薄々、気付いているのかも知れんな。クローン人間たちの陰謀、即ち火星エデン計画とは自分たちへの、ジェノサイド計画であると!」
 マザーは大きく頷いた。
「フォエバも、そう来たか!わたしも同じ考えだ。そうだ、フォエバよ!この件について、今度、おまえから直接ラヴ子に話してくれないか?」
「俺からだと?行き成り、なぜだ?ラヴ子も戸惑うであろう」
「あゝ、確かにそうなのだが……。わたしからではラヴ子のやつ、ただの妄想よ、それ!などと言って、信じてくれぬかも知れん。自分が地球の化身である事も、まだ信じていないようなのだ」
「そうか。良し、では分かった。やってみよう」
 こうして結論に達したフォエバとマザーは、ほら穴の中でしばし心身を休めた。マザー言う所の地球の警告である地球寒冷化の中、狼山にも極寒の冬が、もう目の前に迫っていた。

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