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(詩)夜を抱きしめて

気付かなかった
今までちっとも
気付かなかったよ

水がなきゃ
海と呼んじゃいけないと
思っていたから
なんだかね、やっぱり

この夜を抱きしめ

ちゃんと目に見えなきゃ
涙だと感じちゃいけないと
思っていたから

だけどもうぼくは愛している

この夜を抱きしめ

この弱々しい腕と臆病な心と
何度も棒にふった運命と
できそこないのぼくの一生をこめて

今せいいっぱい抱きしめるよ
この

いくせんの人がゆきかう
都会の夜の片隅
きみには聴こえないかい

きらきらとまたたく街の灯りは
まるでとわに続く夜の潮騒のようさ

実際ぼくなんか
何度も海と錯覚したことがあるんだ
うんと酒に酔っ払った時とか
うんとひとりぼっちの時

そして今せいいっぱい抱きしめるよ
誰にも何にもしてあげられないけれど
いつも愚痴と泣き言ばかりで
何の役にも立たないけれど

ぼくには見えるんだ
今この夜の中で
たくさんの人が泣いている、と

だからここは海なんだよ
やっぱり
たくさんの人の涙でできた

だからもうぼくは愛している
いくせんの人がゆきかうこの夜を
今はじっと抱きしめて
とわに続く潮騒のように抱きしめて

好きだ、なんて絶対口にしたりしないで

きみの涙を
ぬぐってあげたりはしないけれど
今泣いているきみがいるこの夜を
今きみの涙が生きている
この夜を感じながら

ぼくも生きていくよ

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