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(小説)おおかみ少女・マザー編(四・十二)

(四・十二)マザー、火星に行く
 ラヴ子の話を受けて、マザーは火星に大いに興味を抱いた。
 そこでラヴ子から得た情報を基に、早速火星をイメージしてみたのである。つまり火星への瞬間移動を試みた、という訳であった。
 すると見事、瞬間移動は成功!気が付くとマザーはひとり、火星の地に突っ立っていた……。
「ふう、何て寒いのだ!」
 それが火星での、マザーの第一声だった。その時火星は、無風であった。
「それに息が詰まりそうで、今にも死んでしまうかのようだ。ただ赤く、何とも言えず殺風景で、寂寥とした場所ではあるまいか。こんな所で本当に、人間は生きてゆけるものなのか?たとえ肉体的にはそれが可能であったとしても、心は余りにも寂し過ぎる。想いや願い、夢すらも全て、凍り付いてしまう程に……」
 それが火星に対する、偽らざるマザーの心境であった。地球との余りのギャップに、マザーは愕然とするしかなかった。そして……。
 火星基地とやらは、一体何処だ?
 マザーは視界の全てを見渡してみたが、そんなものは何処にも見当たらなかった。ただ何も無いクレーターと砂漠だけが延々と果てし無く、何処までも何処までも続くばかり……。
 が火星という惑星のほんの一地点において、その一部分のみを観た限りで、火星上に文明など存在しないと断定するのは、余りにも早計である。
 そこで次にマザーは、火星基地をイメージしてみた。ラヴ子から聴いた全ての情報を基に。そして瞬間移動を試みた……。ところがである。マザーの体はピクリとも動かなかった。何処へも移動しなかったのである。残念ながら、瞬間移動失敗……。
 なぜだ?これは一体、どういう訳だ?
 マザーは戸惑った。
 はて……?
 そこでマザーは次に、ロケットをイメージしてみる事にした。人間を乗せ、地球具体的にはアメリカのヒューストンから打ち上げられ、火星へと向かうロケットである。これによって火星行きロケットへと瞬間移動出来るか、試してみようという訳である。これもラヴ子からの情報を基に。いざ、瞬間移動……。
 ところが矢張り、マザーの体は全く反応しなかった。身動きひとつする事もなく、ただその場にとどまったまま。つまり火星基地の時と同様、何処へも移動しなかったのである。またもや瞬間移動失敗……。
 確かにラヴ子から得た情報と、それを基にしたマザーのイメージ、それらの精度に大きく依存するものではあるが、現時点での結論としては火星基地も火星行きロケットも、その両方とも存在しないのではあるまいか?
 マザーの瞬間移動の失敗は、それを意味していた。がその重要性にマザーがまだ気付いていなかったのは、勿論の事である。
 マザーは諦めて火星を後にし、地球の狼山へと帰ったのであった。

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