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(詩)春の海に抱きしめられたくて

海に行くつもりでいたのさ
春の海ってやつかな
やっとぬくもり出した
透き通った空気の中で
まだひんやりと冷たい波が
きらきらと音もなく
押し寄せては引いていく感じの

ちょうど無口な男の背中に
人恋しげな春の風が
もたれかかっちゃ
つれなくてまた離れていくよな
そんな孤独な男の後姿に似た
春の波打ち際で

ひとりぼっちでまだ
潮っ辛くて肌寒い
潮風に凍り付きながら
恋しいあなたの足音なんかを
待っていたかった
ずっと待っていたかったのに

そうさ
海に行くつもりでいたんだ
きらきらまぶしい春の海へと
四月前のだけどまだ
名残惜しい三月

今年もまたスーツケースに
ありったけの夢を詰め込んで
若者たちが
この東京に集まって来るけど
この街が夢の掃き溜めの
海岸線だとも知らないで


海に行くつもりでいたのさ
ほんとうに
そのつもりでいたんだよ
あなたを連れて
或いはあなたを待ち侘びて

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