マガジンのカバー画像

(詩集)きみの夢に届くまで

233
詩の数が多いので、厳選しました。っても多い?
運営しているクリエイター

#風

(詩)きみの夢に届くまで

この夜の何処かで 今もきみが眠っているなら この夜の何処かに 今きみはひとりぼっち 寒そうに身を隠しているから 今宵も降り頻る銀河の雨の中を 宛てもなくさがしている 今もこの夜の都会の片隅 ネオンの雨にずぶ濡れに打たれながら 膝抱えさがしているのは きみの夢 幾数千万の人波に紛れながら 路上に落ちた夢の欠片掻き集め きみの笑い顔を作って 都会に零れ落ちた涙の欠片の中に きみの涙を見つけ出せば 今も夢の中で俺をさがし求める きみの姿が見えるから この夜の何処かに 今もきみが

(詩)冬のカルーセル

止まったままのカルーセル 雨の日だけ カルーセルが回っているのを 見た子どもは カルーセルは雨の日だけ 回るものだと思う 風が吹く時だけ カルーセルが回っているのを 見た子どもは カルーセルは 風が回しているのだと思う 止まったままのカルーセル ひとりの子は 雨が降るのを待ち 別の子は風が吹くのを 待っている 止まったままのカルーセル 雪が降る時だけ カルーセルが回っているのを 見た子どもは もう一度 雪の中で回る カルーセルが見たくて 冬の遊園地のすみで じっ

(詩)きみが星なら

きみが星なら 誰もいない駅のプラットホームで 終電車まで見上げている 何度も何度も大きく手を広げてさ この宇宙のどこかに きみのいる星がある きみが風なら 都会の人波にまぎれて 夜明けまで歩きたい ただぼんやりと 時より口笛吹いたりしてさ この星のどこかに きみの風が吹いている きみが海なら ぼくは名もない港になろう そして夜明け前打ち寄せる きみの涙にしずかに濡れよう いつまでも、いつまでも そしてきみのしおざい 聴いていよう

(詩)風の無人駅

朝の電車に遅れたら次は昼 昼のに遅れたら次は夕方 それにも間に合わなかったら また明日……。 ここはそんな田舎駅 暇だから駅員もいない 時より近所の年寄りたちが ホームのベンチで 錆びた線路を眺めながら 日向ぼっこしているだけ そして老人たちすら いなくなったら あとは草と風と 虫たちの駅になる 時より雨や雪や 潮の香りが訪れ 夜になれば 星も降り注ぐほどの しずけさの中 風だけが 彼らにしか見えない 夜行列車に乗って 銀河へと旅立ってゆく ここは無人駅 風の銀河鉄

(詩)ぼくたちの夢は死なない

たとえば歌が好きなら 歌うことが好きなら 歌が夢なら 歌うことがきみの夢ならば たとえそこが 何万人の観衆のいるステージでも そこがたとえ 誰もいない寂れた路地の裏側でも 歌は 何処でも歌うことができる 歌なら 同じ歌なのだから その路地裏に 風が吹いていて 雑草が伸びていて きみがそして ひとりぼっちで歌っていて やがてきみを含めた すべての生命が 生き変わり、死に変わり めぐりめぐって ある日 ふと何処からか 誰かの歌う声がして 耳を傾けると なぜだか無性に

(詩)柿の木だった頃

いつも山が見えた 田んぼが見えた 畑が見えた 小さな家が見えた 男の子がいて 女の子がいた いつも 風が吹いていた いつか 男の子も女の子も 大人になって 村を出ていったり 結婚したり そしてまた 別の男の子がやってきて 別の女の子がやってきた 人も ぼくから見れば 風と同じなのさ 人も、ただの風 ぼくが柿の木だった頃 少女の手に 柿の実を落としたら 少女は 柿の実にキスをした 柿の木のくせに ぼくはドキドキした すぐに年老いてゆく一生も たまには悪くないな、と

(詩)風

風が吹いてくる やわらかな光が ぼくを包み 潮騒の音や 鳥のさえずり 木々のざわめき 子供たちの笑い声が 聴こえてくる 子供たちは 羽根をなくした天使のよう いつも 泣きそうな顔をしている だから涙は 子供たちに任せておけばいい 永遠について ぼくたちは語ろう 風が吹いてくる 清らかな星の光が ぼくを洗い清め 涙さえ洗い流す頃 ぼくは星たちが どうしていつも あんな風にずっと 微笑んでいられるのか そのわけを理解する 涙はいつか 洗い流されるもの 都会の人波が

(詩)風と草の記憶箱

世界のどこかに 記憶の隠れ家がある 誰も知らない 記憶の隠し方 知っているのは風 風が草を揺らす時 記憶の一片(ひとひら)が 大気中に飛び散って 人はふと立ち止まり 懐かしさに、懐かしそうに ほんの一瞬だけ 忘れた記憶の匂いを嗅いで それから人はまた 何もなかったように 日々の暮らしの中に戻る 風が草を揺らす時 飛び散った記憶の集め方 人は知らない 掻き集め心に閉じ込めておく 術を持たない ただはかなしげに 懐かしいと、つぶやくだけ 風と草の記憶倉庫 風と草の記憶箱

(詩)ゆくあてのないあなたのために

まだ熟する前に 木の枝から落ちた果実を 野良犬が口にくわえ どこかへ運んでゆく 自分の秘密の隠れ家へでも 持っていって 今晩あたりゆっくり 食するつもりなのか どこへも ゆくあてのないわたしのために 食べたあとの残りかすは どうかやさしく 土にうめて下さい そしてどこにも ゆくあてのないあなたが いつかどこかで おなじような目にあう時のために 残りかすはいつも土に眠り 想いだけが風になる かなしみをひきずった風だけが いつまでも歌いつづける ゆくあてのないあなたのた

(詩)一粒の大地の上で

舗装された歩道の片隅に 小さな雑草が生えていた そこに積もった 土だか砂ぼこりだか 分からないそこから 顔を出して その雑草には それが大地なのかしら 一粒のわずかな大地の上で 小さな雑草は 確かに生きていた やがて小さな花も咲くかしら 誰にも気付かれることなく 或いは無残に踏み潰されながら そんな一粒の大地にも吹く風に わたしはなりたい どんな小さな涙の粒にも 花を咲かせる栄養分は 詰まっていると信じて やがてわたしも この地を去ってゆく時 どんな小さな涙に

(詩)心の風

雲は白い風 歌は声の風 虹は七色の風 風にも思いがある 風は 悲しみから喜びへと吹く 望みを込めて 風は 喜びから悲しみへ吹き返す 励ましと祈り 雲は白い風 歌は声の風 虹は七色の風 人は旅する風 夢は心の風

(詩)夏のスケッチ

雲が 山のまねをして 山の上で 雪山の振りをしている すぐに溶けてしまうくせに すぐに雲は風に吹かれ この大空を流れ去るのみ 海に来たら 空を見上げなくて良い 海の中に 空が隠れているから 海に来たら空の青さを 感じなくても良い 海の中に 青がいっぱいに 広がっているから だから 泣きそうになったら 海を見れば良い 代わりに 海が泣いてくれるから 木も汗をかく 風が吹くたび 気持ちいい、と笑っている 風の中で笑っています 木陰に入ったら いつも汗っかきだった き

(詩)風の口付け、草の恋文

秋の日の 穏やかな昼下がりの ちらつく日差しや 空気の中に 見え隠れする わたしたち生命の持つ 永遠のかけら いつかわたしの存在が 誰の胸からも 忘れ去られてゆくように わたしの想いもまた やがて この地上から消えてゆく それでもいつか こんなさびしい 秋の日暮れの残照の はるか遠い 未来の国で 見知らぬ誰かが 風のそよぎや ふるえる草に 消え去ったわたしの想いを ふっと思い浮かべて くれるかもしれない そして かすかに笑ったり 泣いてみたくなったり してくれ

(詩)ぶたになりたい

人間でいることがいやになったり 逆に 人間としての幸せを充分に味わい 人間でいることに満足出来たら ぶたになりたい そしてぶたの苦しみを経験し ぶたの苦しみや羞恥を理解したい そして人間としてもぶたとしても ちっとも 世の中の役に立たなかったわたしは ぶくぶくぶくぶく 肥えるだけ肥え 最後に死んだ時 みんなの肉になりたい 飢えた子どもたちに わたしの肉を食べさせてあげたい その時わたしは 空に浮かぶまっ白な雲になって お腹いっぱいになった 子どもたちの笑顔を眺めているのだ