(詩)風と草の記憶箱

世界のどこかに
記憶の隠れ家がある
誰も知らない
記憶の隠し方
知っているのは風

風が草を揺らす時
記憶の一片(ひとひら)が
大気中に飛び散って

人はふと立ち止まり
懐かしさに、懐かしそうに
ほんの一瞬だけ
忘れた記憶の匂いを嗅いで
それから人はまた
何もなかったように
日々の暮らしの中に戻る

風が草を揺らす時
飛び散った記憶の集め方
人は知らない
掻き集め心に閉じ込めておく
術を持たない
ただはかなしげに
懐かしいと、つぶやくだけ


風と草の記憶倉庫
風と草の記憶箱
どうか
わたしという一片も
その中に
取っておいて下さい

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?