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(詩集)きみの夢に届くまで

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詩の数が多いので、厳選しました。っても多い?
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2023年2月の記事一覧

(詩)夜明けのカルーセル

降り積もる雪 カルーセルの屋根に 降り積もった雪を カルーセルは吹き飛ばさずに カルーセルは じっと抱きしめながら回る 雪がとけるまで 雪がとけて 雨になって カルーセルの屋根を 濡らしながら落ちてゆくまで 降り積もる夜 カルーセルの屋根に 都会の夜の欠片降り積もる こわばった大人たちのため息が 恋に破れた女の子の泣き顔が 降り積もって 都会の夜のカルーセルは いつも 静かに止まったままでいる 止まったままでいてくれる X'masにひとりぼっちでも たいしたことない

(詩)交響曲第5番

マーラー交響曲第5番第4楽章の 第5番は ボクシングの第5ラウンドという 言葉の響きに似ている あくまでも言葉だけの話なのだが 「第5ラウンド矢吹が放った  テンプレーのフック  その時ダウンした際に後頭部を・・」* それから力石を失った矢吹は あてもなくいく日もいく日も街をさすらい おそらくは地理的に近い 土砂降りの吉原のネオン街も歩いただろう 通りで誘うミニスカートの売春婦たちに 少しはときめいたりもしたろうか それから再び泪橋にかえって リングに立った時 顔面を

(詩)手術を断って

幸福なわたしがわたしなら 不幸せのわたしもまたわたし よろこびがわたしの一部なら かなしみもまたわたしの一部 わたしのよろこび わたしのかなしみ ときめくわたしがいとしければ もがくわたしもまたいとし こころがわたしの一部分なら こころの傷もまた わたしの一部分だから もしもこのいのちが 銀河系宇宙から わたしへのおくりものなら このいのちにたくして 銀河系宇宙が わたしへと分け与えてくれた 生きるいたみもまた わたしへのおくりものだと信じよう そしてやがてこ

(詩)マイホーム

安アパートに住むその夫婦は 休日になると 新聞のチラシ広告に載った 新築の家をめぐるのだった 電車に揺られ 駅から案内図にそって ゆっくり、ゆっくりと道を辿り 家の前につくと ふたりよりそい 子ども部屋はあそこで ぼくの書斎は…… あそこに大きなベッドを置いて ああじゃない、こうじゃないと 楽しそうに日暮れまで ふたりはそうやっていつも 一週間分の夢を語り合うのだった 二人の間を過ぎ去っていった 一週間分の あせとなみだ、いかりやぐちを もう一度抱きしめ 抱きしめて

(詩)カンパニー

夜空にまたたく銀河の光を みんな涙の海にかえ あなたに伝えよう もう届かないあなたの心へと いくすうせんの人々が 今も忙しく行き交う 夜の都会のネオン街は さながら地上につくられた 銀河系のようです あてもなく そのまたたきを辿ってゆけば どこかの星でまたあなたと ばったり出会えそうな そんななつかしい 銀河系のにおいがして 思わず空を見上げると 薄暗い都会の空に それでもやっぱり 銀河はまたたいていました どうしてぼくたち 出会ったのだろう いずれ時も空間も引き離

(詩)いつか王子様が

幾年月の時の闇の中に そのあわただしく過ぎ去った 光と虹の彼方に 消えていった幾千万の夢たち あるいは置き去りにしたままの想いの数々 けっして裏切ったのではなく それでも ”いつか”はやがて 諦めの”いつか”に姿かえ 夢と現実との間には もうゆききするすべのない 時の河が横たわり やっと今鏡の中の年老いた 自分の顔に気づく ああもう おまえはこんなに 疲れてしまったのか 疲れるほどの恋をしたわけでも 歳をとるほど情熱を使い果たした わけでもないだろうに そんなに贅沢なお

(詩)旅に疲れた心は

心が旅する海は いつも嵐の中を 突き刺す雨に打たれ いくつもの波に砕け散りながら それでも心は死なない 海に飛び込んでも 心はすぐに浮かんでくる ビルから飛び降りても 心はすぐに風になってしまう たとえどれだけ血を流し 飢え渇き 息を止めても それでも心は生き続ける それでも心は残り、存在し そして 心が旅する海はいつも かなしみの地図でいっぱい いつもおぼれそうになりながら それでも心は かなしみから逃れられない 人はいつも 空の青さや海の広さに 心引かれるけれど 人

(詩)風

風が吹いてくる やわらかな光が ぼくを包み 潮騒の音や 鳥のさえずり 木々のざわめき 子供たちの笑い声が 聴こえてくる 子供たちは 羽根をなくした天使のよう いつも 泣きそうな顔をしている だから涙は 子供たちに任せておけばいい 永遠について ぼくたちは語ろう 風が吹いてくる 清らかな星の光が ぼくを洗い清め 涙さえ洗い流す頃 ぼくは星たちが どうしていつも あんな風にずっと 微笑んでいられるのか そのわけを理解する 涙はいつか 洗い流されるもの 都会の人波が