(詩)マイホーム

安アパートに住むその夫婦は

休日になると
新聞のチラシ広告に載った
新築の家をめぐるのだった

電車に揺られ
駅から案内図にそって
ゆっくり、ゆっくりと道を辿り
家の前につくと

ふたりよりそい
子ども部屋はあそこで
ぼくの書斎は……
あそこに大きなベッドを置いて
ああじゃない、こうじゃないと

楽しそうに日暮れまで
ふたりはそうやっていつも
一週間分の夢を語り合うのだった
二人の間を過ぎ去っていった
一週間分の

あせとなみだ、いかりやぐちを
もう一度抱きしめ
抱きしめては尽きること無い
ふたりの夢の中に
やさしくそれらを忘れゆくように
互いに許し合ってゆくように

そして住むことのないその場所を
ひとときの夢の空間を
暮れなずむ街を

もうすれちがうことのない
人々のざわめきの中を

またしずかに
とぼとぼと帰っていくのだった
いつものあの安アパートへ

わたしたちのマイホームへ

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