(詩)いつか王子様が

幾年月の時の闇の中に
そのあわただしく過ぎ去った
光と虹の彼方に
消えていった幾千万の夢たち
あるいは置き去りにしたままの想いの数々
けっして裏切ったのではなく
それでも

”いつか”はやがて
諦めの”いつか”に姿かえ
夢と現実との間には
もうゆききするすべのない
時の河が横たわり
やっと今鏡の中の年老いた
自分の顔に気づく

ああもう
おまえはこんなに
疲れてしまったのか
疲れるほどの恋をしたわけでも
歳をとるほど情熱を使い果たした
わけでもないだろうに

そんなに贅沢なお願いを
していたわけでもなく
人並にと人並で構わず
ごく普通にありふれて
どこにでもいる、そこにもいる

ほら今私の隣を歩き去った
平凡な恋人たち
絡みつくように
寄り添うわけでもなく
周囲が眉間にしわを寄せ煙たがるほど
はしゃぐわけでもなく
けっして誰かを妬むことなく

ただ秋には枯葉が舞い散るように
冬には粉雪が降りしきるように
少しはなれて
寄り添う影であれたらいいと願った
その夢ともいえない夢さえついえた
夢が夢のままで
終わったことの潔さ
この世界の、冷酷なまでの穏やかさ


それでも今夜も
何処かの街の盛り場に流れている
「いつか王子様が」のピアノ演奏

そしてそれを耳にするのは
皮肉なことに私のような
王子様を待ちくたびれた女ではなく

目の前の王子様と向かい合う
チャーミングな女の子たちだけ

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