「おいしい問題。」突発コバナシ。 それは七月も下旬に差しかかるある土曜日のことだった。 朝から大学の地下書庫に籠って文献を漁り、地上に出てきたところでスマホが震えた。 地下は本気で電波が入らないのだ、うちの大学図書館。 パーカーに突っ込みっぱなしだったスマホを取り出して確認すると、ほづみくんでも院生仲間でもなく、曉子さんからメッセージが入っている。 珍しいこともあるなと思いつつ確認すると、送信されたのは十五分くらい前のようで、「桜子ちゃん、もしかして大学にいる?」
ふと思いついた、おいしい銭湯ネタ。 八月下旬、まだまだ暑い。 家の中や店は空調が効いているからいいけども、外は鉄板の上の蒸し器みたいだし、室内外の気温差でどうにも身体が怠くなってしまう。 私も暑さに弱いけど、ほづみくんがとにかく汗をかくし、暑がりで、私とは別の意味で夏が辛い。 独り暮らしだったときは、ガンガンに冷房を効かせて乗り切っていたらしいが、今は私に合わせているから、冷風機が手放せない。 それでも、仕事中はケロッとしているのが不思議。 そんなほづみくんが、
「おいしい問題。」パリ祭話。相変わらず、ひたすら食べてます。 「では…À votre santé !」 「「「À votre santé !」」」 ほづみくんの音頭に合わせて、店内のそこかしこでグラスが上がる。 グラスが触れ合う高い音が続き、笑い声が満ちた。 七月の初めに、唐突に開催することになったパリ祭。 急拵えになると言ったものの、一度やると決めたほづみくんが、早々手を抜くわけもない。 最初はワンプレートとシャンパンのセットだけ、と言っていたのが、結局サー
「エウロペにさよなら」1のラスト、ドレスが届いてからレストランまでの間のエピソード。カットしたものを、形だけ整えてます。 こんなこともあったんか…程度にお読みください。 夕方というには遅い時間、絵茉は何とも言い難い気分で、自室の居間にいた。 出かける支度は済ませ、あとは出るだけ…のはずだが、マリアにここで待機するよう言われたのだ。 あのあと、マリアは馴染みのサロンに連絡し、時間いっぱい使って、絵茉を磨き上げることにした。 仕事道具一式を抱えてやってきた美容集団は
「おいしい問題。」夫婦の一人娘、桃ちゃんの話の導入部です。 一応、一区切りに見えるところまでは書いていますが、続きがあるかは完全に未定。 桃ちゃんの話とゆーより、おいしいのふたりがどんなふうになっているか、お楽しみください。 御厨桃香、十七歳。高校二年生。 趣味は読書と剣道、特技は料理。 父方の濃い遺伝子をバッチリ受け継いだおかげで、見た目だけはいい女子高生。 中身は…ウーパールーパー? オオサンショウウオ? とりあえずマイペース。 毎日、美味しいものをもぐも
「おいしい〜」のふたりが、ひたすら東京で美味しいもの食べてるだけの話。 「東京に、美味しいもの食べにいかない?」 唐突に、旦那がなんか言い出した。 最近、小松崎さんのおひとり様来訪が多い。 クリニックの昼休みが長めなのと、うちの隣の駐車場が来客用だと知ったことで、ランチタイムにやってくる頻度が上がったのだ。 私が外の仕事や大学院でいない日が多いけど、今日は珍しく私のいる時間にやってきて、カウンターでパテサンドにかぶりついている。 御厨三兄弟に加えて、タイプの違う
年明け三日。 今年の年越しは、ほづみくんとふたりきりで二年参りとご来光見物で過ごし、二日もテレビを見ながら、ほづみくんお手製のつまみと秘蔵の日本酒を楽しみ、特に何をするわけでもなく、だらだらのんびりした。 うち、旦那さんがどんどんおさんどんして、面倒見てくれるんで、本気で座敷豚になってしまうのではと危惧したものの、汲めど尽きぬ酒樽でも買ったのかと思う勢いで出てくる名酒と和洋中取り混ぜて飽きる余地のないつまみの群れの前に完全敗北した。 これぞ、寝正月。 …とリビングの
ヌン茶をネタに、日常徒然。 例の感染症が世界の様相をガラリと変えてしまって、早一年半。 新規感染者が減ったかと思えば増え、増えては効果があるのかもわからなくなりつつある非常事態宣言が出されと繰り返し、そんな日常にも慣れきってしまった。 そんな、ある日のこと。 「桜子さん、これ見て」 スイーツボックスの注文が落ち着いた午後、厨房で休憩のお茶を飲んでいるときに、ほづみくんがスマホを突き出した。 大画面に映っているものに視線を凝らし、首をかしげる。 青と白の背景に
桜子にゃんを拾ったほづみんの世界線のおいしい話です。 「おいしい問題。」作者本人がとち狂って爆誕したセルフ二次創作だと思ってください。 御厨ほづみ、二十九歳。 職業、カフェオーナー。現在独身。 数日前、何人目かの恋人に、「顔は良くても性格キモくて無理」と振られたばかり。 さすがに、当分恋人も結婚もいらない…と思っていたわけだが。 自宅兼職場の近くには、小さな公園がある。 いつも家族連れや学校帰りの中高生で賑わっている場所で、独身の男が立ち寄る場所ではない。
タイトル通り、「自律〜」コミカライズ3の告知すっ飛ばしたお詫びのような、反省文のようなコバナシ。 それは、いつものように樹と雨芽を連れて、御厨さんの店に行ったときのことだった。 「なあ、店長さんって、目玉焼きに何かけて食う?」 カウンター席の男性客が、コーヒーを淹れている御厨さんに話しかけるのが聞こえた。 カウンターに一番近いテーブル席だから、というのもあるが、男性の地声が大きいことも理由だ。 俺の位置からだと、後方から横顔を見る形になるが、十分に判別できる。
季節ものといえば季節ものと言えなくもないコバナシ。 例年とは比べものにならない速さで、梅雨入りした五月。 もう、ダルい。 「桜子さん、へにゃってしてるねえ」 日曜日の午前中、朝ごはんが終わったあとのリビングで、ほづみくんが苦笑いした。 今日のごはんは、チーズがほんのり香ばしいじゃがいものガレットに、パリッと焼けたソーセージ、ツナたっぷりのニース風サラダでした。美味しかった。 私はおなかいっぱいのうちにと、ベッドシーツと布団カバー、枕カバーを洗濯機に放り込んだと
初の「エウロペ」コバナシ。 本編2直後の時間軸。 ファウンデーションクラスが終わるなり、前の席に座っていたエスティアが振り返った。 『ね、今日のランチ、シテ島行かない?』 『シテ?』 ラテン語辞書を入れたタブレットを片付けながら、絵茉は記憶を漁る。 わざわざエスティアが誘うほど気に入りの店が、あの辺りにあっただろうか。 シテ島はサンルイ島と並んでセーヌ川に浮かぶ中州の名称だが、パリ屈指の高級住宅地兼観光地だ。 パリの始まりの地とも言われ、「シテ島に住む者」を意
1、 今年もそろそろ母の日のプレゼント、考える時期だなー。 壁のカレンダーを見て、ふと思った。 曉子さん、今は御厨のおうちにいるけど、最近は感染力強い変異ウィルスが増えてるっていうし、医療も逼迫してるし、私たちが罹るのも嫌だけど曉子さんにうつしたら後悔するどころじゃないし、やっぱ宅配で何か送るのが一番だよねえ。 お花と……お菓子? ほづみくんが焼いたやつ。 お菓子はともかく、花は早めに探して予約しないと、いいやつは売り切れてしまう。 まずは旦那さんに相談だ。
鈴蘭の日に関係あるようなないような、ふたりが美味しいものを食べてる話。 花見がしたい。 でも、外に出られない。 コロナが世界中をガラリと変えて、はや一年ちょい。 自粛要請が出ては解除され、また要請が出ては解除され、最近はマンボウとかウリボウとか言い出している。 勤務先の日本語学校のうち、一校は新学期を迎える前に倒産し、もう一校は辛うじて生きているが、仕事はない。当たり前だ、外国人が殆ど入って来ないんだから。 ビジネスなんちゃらで、弾丸観光してる中国人なんかは別と
2019年に公開した「おいしい問題。」ホワイトデー話。オチとかストーリーとかなく、ひたすらに美味しいものを食べてるだけです。 三月も半ばになって、少しずつ暖かい日が増えてきた。 私もほづみくんも花粉症じゃないから平和だけど、周りはマスクに箱ティッシュ、ゴーグルみたいな眼鏡で重装備、みたいなひとも多い。 今朝も、布団からすんなり出られるくらいの気温だ。 だけど、過保護な旦那さんは、「朝はあったかいもの食べないと、身体に悪いんだよ。特に女のひとは」と言って、野菜のゆるゆ
バレンタイン関係の続きのようなコバナシ。おなかすいてる方は、おやつを用意してからどうぞ。 1、 バレンタインが終わった二月の下旬。 日曜のその日は、昼過ぎから私的楽しい時間を満喫していた。 クローズした店内のカウンターで、エプロンをつけたほづみくんを前に行儀良く座る。 今日は、バータイムの新メニュー、料理とワインのマリアージュセットの試食なのだ。 バレンタイン近くに、かづみさんのお供でモンブランを食べに行った日、夕飯で入った店がヒントになって、ほづみくんはずっとメ