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「嘘つきたちの幸福」第4幕★完結★

初めから読む→「嘘つきたちの幸福」第1幕|青野晶 (note.com)
前回の話→「嘘つきたちの幸福」第3幕(後編)|青野晶 (note.com)

■第4幕 第1場 
シャワル城の一室で、カルロ王子はアビー王子からの手紙を読んでいた。
今、シャワル城にアビー王子はいない。ファイザも。カルロ王子は兵隊長に軍隊の指揮を命じて、アビー王子とファイザをスファン王宮に届けさせたのだった。カルロ王子自身はシャワル城に残ったのである。理由はもちろん、イーシャがシャワル城に残っているからだった。
カルロ王子は長い手紙を次々にめくっていく。内容はこういうものだった。
スファン王宮に帰ったアビー王子はファイザと暮らし始めたらしい。バース王国内はムアに反発した民衆が民主政を訴え始めていたから、アビー王子の帰還に民衆は困惑を極めた。しかしそれも最初のうちだけだった。
ムアの高圧的な態度や腕力に逆らう気力のなかった従者たちはムアが死んだと聞いてほっと胸をなでおろした。おそらく民衆もムアの独裁に苦しんでいたはずだとアビー王子は胸を痛めている。
ムアの帰りを待っていた革命軍の兵士たちは、アビー王子がベリア兵を大勢率いてスファン王宮に突然返ってきたことに飛び上がって驚いた。指揮官のムアは帰国していない。相手はベリア王国軍の大隊だ。とても戦えるとは思えず右往左往していると、アビー王子がじきじきに温情を示した。
「安心するといい。僕は誰も断頭台には送らない。ムアの代わりに、僕が平等な国を作ろう。誰も罪には問わない。だからどうか協力してほしい」
陣頭に立つアビー王子は必死で語りかけた。隣にはファイザもいる。ファイザもまた、スファン王宮の前で訴えた。
「みんな。どうか信じて。ムアはもういないの! ベリア王国のカルロ王子が討ったのよ。独裁者はもういない。私たちで新しい国をつくりましょう」
ファイザはそう言うと、隣に立つアビー王子の手を強く握った。
スファン王宮に戻ったアビー王子はまず奴隷制を廃止した。すべて国民を自由民とする法令は、アビー王子の名と共にバースの隅々にまで轟いた。
「全国民が自由民? 本当にそんなことがあるのか?」
奴隷であった者たちはまったく信じられないと口々に言う。ところがその数日後、アビー王子はファイザとの婚約を発表した。奴隷出身のファイザがバース王家の王子と結婚する。この知らせは全国民をにぎわせた。
ついては、ベリア王国のカルロ王子にも結婚式に出席願いたい。できれば、いや、こんなことを僕から頼めるものなのかわからないけれど……。その、できればイーシャも……。
アビー王子の手紙はこのあたりから要領を得なくなる。
まったく、イーシャはなぜこんな男を……。
カルロ王子は頬杖をついて顔をしかめる。しかしアビー王子のことは憎めない。眉間に寄った皺はほぐれていった。やがて最後の一行に行き当たる。
「親愛なるカルロへ。君の幸福を祈っているよ」
カルロ王子は長い手紙を読み終えると、ジャケットのポケットに右手をつっこんだ。パルミル王宮遺跡に入ったあの夜、カルロ王子はイーシャを導き歩きながら遺跡の亀裂から夜光石の欠片を頂戴した。その欠片はまだ、カルロ王子の手の内にある。カルロ王子はこの宝石を手にこめたまま、部屋を抜け出した。
 
■第4幕 第2場
 イーシャは荷物をまとめていた。今日こそ、アビー王子がファイザとの結婚を知った今こそ、シャワル城を出る時だと思った。どんな気持ちになればいいのかわからない。アビー王子は無事スファン王宮に戻ることができた。しかし今、アビー王子の隣にいるのはイーシャではない。
 アビー王子がスファン王宮に帰ると言い出した日から、イーシャはなんとなく調子が悪い。悪い? 仮病かもしれない。とも思うけれど、心の痛みが身体に反映されていると考えるのなら、それは本当のことのような気もした。きっといつまでも考えてしまう。どうして私がファイザでなかったのだろう、と。アビー王子はイーシャについてきてほしかっただろう。革命以前からアビー王子に仕えていた従者はイーシャひとりなのだから。イーシャはアビー王子についていくことが責任でもあるような気がした。それでもベッドから降りようとすれば、足は重くなって動けなくなる。
アビー王子についていったとしても、隣に立てるのは私じゃない。
 そんなことを考えているうちに、アビー王子はシャワル城から旅立ってしまった。ファイザと共に。アビー王子とファイザの結婚は、イーシャには想像できていたことだ。しかし実際にそれが現実になったとしたら、もっと傷ついたり落ち込んだりするものと覚悟していた。イーシャは自分で意外に思う。二人の結婚を案外すんなり受け入れることができた。
 それでも。
 イーシャは少ない荷物をまとめながら思う。ここにはいられない、と。ただ気持ちをまっさらにしたくて、イーシャは旅立ちの準備を進めていた。行き先にあてはない。まさかスファン王宮に帰るわけにはいかないし、と考えると、しばらくはベリア王国の内地を旅しようか、という気になっていた。バース王国は砂漠の中にある巨大なオアシスのような国だったけれど、ベリア王国には豊かな山があるし、西には海岸があると聞く。イーシャは少ない荷物を抱えると心を躍らせて部屋を飛び出した。
「ああ! イーシャ! イーシャじゃないか! 僕だよ! もう体の具合は大丈夫なのかな?」
 廊下に出た瞬間、背後からそんな声が聞こえて、イーシャは立ち止まった。アビー王子の丁寧な口ぶりに似ている。しかしこの声はカルロ王子だ。イーシャは不機嫌に頬を膨らませて振り返った。
カルロ王子は婚礼衣装をまとっていた。衣装の眩さにイーシャは驚き、めまいを感じた。白いジャケットには黄金の肩章と飾緒が煌めき、右肩から左腰へと水色のリボンがかかっている。一瞬、イーシャはカルロ王子をアビー王子と見間違えた。似ているのは姿だけではない。カルロ王子の身振りも、言葉の選び方も、話し方も、アビー王子にそっくり似せていた。イーシャは呆れて嘆息する。
「それはなぐさめのつもりでしょうか? カルロ王子」
 カルロ王子は口の端を曲げる。心のどこかで「騙されてくれればいいのに」と願っていた。イーシャの瞳に、アビー王子として映ることができたら。一時でもそれが叶うならどんなに幸福なことだろう。カルロ王子は腕を組むとうなった。
「ううむ。どうやらイーシャは俺とアビーを正確に見分けてしまうようだ」
 そう聞いて、イーシャは少し考えた。言われてみれば、アビー王子とカルロ王子を正確に見分けられるのはイーシャだけかもしれない。カルロ王子の従者も、ファイザも、カルロ王子をアビー王子に見間違えたり、アビー王子をカルロ王子に見間違えたりした。ところがイーシャだけは、このミスをおかしたことがない。
「だって全然違いますもの。どんなに上手にアビー王子の真似をしたって、あなたはカルロ王子です。私にはわかります」
「アビーを愛しているからか?」
 イーシャは静かに深呼吸して微笑むと、首を横に振った。細い髪が頬に当たってさらさら鳴る。
「いいえ。もう終わったことです」
 言葉にしてみると、それは本当のことのような気がした。簡単に忘れられるわけがない。そう思っていたけれど。忘れられなくても、過去に送ることはできる。イーシャは心持ちを新たに、次の一歩を踏み出した。
「さようなら、カルロ王子!」
 イーシャは自身の声が軽やかであることに気付いた。私なら大丈夫。根拠はなくてもそう思えた。しばらくはベリア王国の山々を、草原を、港を生きていこう。そう決めて、イーシャは歩みを進める。
 ところが、行こうとするイーシャの袖をカルロ王子がつかんだ。
「待って、待ってくれ」
「なんですか?」
「イーシャ、最後に君に頼みたいことがある。どうか聞いてほしい」
「どうしたんですか、急に」
「俺はこれからスファン王宮に行く。アビーから結婚式の招待があったものだからな」
「まあそれは。アビー王子が喜びますわ」
 イーシャはカルロ王子のつま先に目を落とすと、ゆっくり視線を上げて頭の先まで眺めた。
「しかしカルロ王子、そのご衣裳はあまりにも婚礼に不向きですわ」
「なぜ?」
「だって、それは婚礼の主役の衣装ですもの。賓客の服装ではありません」
 イーシャの言う通りだった。カルロ王子が着ているのは賓客用のものではなく、新郎用のものだ。白い衣装では主役と被ってしまう。
「いいや、この衣装でいいんだ。同じ日に俺も結婚する予定だからな」
 えっ、とイーシャは声をつまらせた。
「カルロ王子もご結婚を?」
「そ、そうだ」
 カルロ王子の唇が小刻みに震えている。イーシャはまじまじとカルロ王子を見上げた。イーシャは自分でも意外だった。今はっきりと思ったのだ。寂しい、と。
カルロ王子は私のことばかりだと思っていたのに。……なんて、今更都合が良すぎるわね。ちょっと夢見すぎてたみたい。私、バース王国で宮仕えをしていただけよ。今はアビー王子の従者ですらない。そんな人が、王子さまなんかと一緒になれるわけないじゃない。
イーシャは当たり前のことに今更気付いたように思って自分を恥じた。
自惚れていたんだわ。ああ、恥ずかしい。さっさとお祝いを言ってここを出ましょう。
 イーシャは笑顔を作る。おめでとうございます。思うことはできるのに、なかなか素直に言葉にはならない。イーシャは胸に矢を受けたムアの姿と、身体の震えを覆ってくれたカルロ王子の力強い抱擁を忘れてはいなかった。
あんなにも勇敢に私を守ってくださった……。
あの時、確かにイーシャはカルロ王子を見直した。案外、悪い人じゃないかもしれない。そう思ったはずなのに。思った時にはもう遅かった。カルロ王子もまた、どこかのお姫さまと結婚する。イーシャは徐々に笑顔を崩してうつむいた。おめでとうございます。言わなくちゃ。唇を動かしても、それは微かな震えになるだけで、カルロ王子には何も伝わらなかった。
「……そういうわけで」
 カルロ王子はひざまずくとイーシャの左手を優しくとった。カルロ王子は微笑んでイーシャを見上げ、右手につまんだ一粒の夜光石を見せる。
「あっ、それは……」
 パルミル王宮遺跡で、カルロ王子が採石してきたものだった。石はよく磨かれ、ベリア王国の海原のように青い光を閉じ込めて煌めいていた。繊細な銀細工が石を縁どり、指輪に加工されている。
カルロ王子はイーシャの細い薬指に、夜光石の指輪を押しはめた。
「共にスファン王宮へ行こう。俺とイーシャの結婚のために」

■第4幕 第3場
婚礼のディヴェルティスマン

婚礼に現れたのはドン・キホーテとサンチョパンサ。同じく招待されたらしいシェヘラザードとシャハリヤール王。カルメンとドン・ホセ。ジャムシードとザッハーク。陽気な客もそうじゃない客も、余興となればダンス・ダンス・ダンス! ブタ、ヤマネコ、マーモット、野ウサギ、オオカミ、イヌワシ。動物たちもお祝いに駆けつけた。バースの兵士もベリアの兵士もお構いなしに肩を組む。全員の手拍子によって音楽は次々に移り変わる。
スファン王宮の王宮前広場では多くの賓客がアビー王子とファイザを待っていた。招かれた人々は楽しそうに立ち話をして、アビー王子がベリア王国から持ち帰ってきたワインを飲んでいる。
そこにランドーの馬車が一台乗り付けた。平らな屋根には黄金の鳥と燃える炎の意匠が凝らされている。黄色く塗られた大きな車輪。ガラス窓には赤いベロアのカーテンがかかっていた。あれは……ベリア王国の王族のための馬車だ!
 降りてきたのはカルロ王子とイーシャ。イーシャはチュチュの胸元と短い裾に羽毛のあしらわれた婚礼衣装だった。胴の前側には金色のカーネーションが刺繍され、パールと宝石が縫いこまれている。似たデザインの白い婚礼衣装に身を包んだカルロ王子が右手を腰に当てた。イーシャはカルロ王子の腕に細い指先を伸ばす。カルロ王子のエスコートで二人はスファン王宮前広場を歩きだした。
バルコニーからカルロ王子とイーシャを見つけたアビー王子とファイザは、急いで王宮前広場に降りていく。アビー王子は胸がどきどきしていた。ファイザと二人で顔を見合わせて笑い、スファン王宮の門を押し開ける。
「イーシャ! イーシャじゃないか! よく帰って来てくれた!」
 アビー王子はそう叫んで駆けていく。ファイザもそれに続いた。新しい王と妃の登場を婚礼客たちは盛大な拍手で迎える。
 アビー王子より先にイーシャに駆け寄ったのはファイザだった。
「ああ、イーシャ。全部私が悪いのよ。本当にごめんなさい。私、あなたが私のために怪我をしたり病気になってしまったんじゃないかってずっと」
「もういいのよ」
 イーシャは首を振ってファイザを見る。
「結婚おめでとう。どうかアビー王子とお幸せに」
 イーシャはファイザにそう言うと、アビー王子の方を見た。
「おめでとうございます。それから、ひとつご報告が」
 イーシャが言い終わらないうちに、カルロ王子がイーシャを抱き上げた。イーシャは驚き、両腕をカルロ王子の首の背に回す。カルロ王子の腕の中では、イーシャの白いチュチュの裾が重なりあう波のように煌めいた。チュチュに散らされた細かなパールが照明の光を弾く。カルロ王子の歩みに合わせて、イーシャの胸元では白く柔らかな羽毛が揺れた。
「アビー、幸福の祈りに感謝するよ。イーシャは俺の妃になった!」
 カルロ王子はイーシャを抱き上げたまま舞台中央に歩み出る。アビー王子はファイザをエスコートして舞台下手へと歩き進み、カルロ王子とイーシャに舞台を譲り渡した。
オーケストラはビゼーの「カルメン」組曲前奏曲を奏で始める。
婚礼のグラン・パ・ド・ドゥ。王宮前広場に流れ出したのはベリアの宮廷音楽だ。カルロ王子とイーシャのグラン・パ・ド・ドゥが始まる。優雅な曲にのせて二人の華やかなアダージョ。そのあとはカルロ王子の勇壮かつチャーミングなギャップの強いソロに移る。グラン・ジュッテ・アン・トゥールナン。アントルシャ。トゥール・アン・レール。(跳躍や回転のダイナミックな技!) カルロ王子の力強い足さばきは音楽がゆるやかになるにつれて中性的にしなやかになっていった。全体的に引き締まり線が細いために、男装のバレリーナが踊っているのではないかという錯覚を起こす。カルロ王子とバトンタッチで踊り始めたのはイーシャだ。まだ少女の面影が抜けきらない可憐な舞である。しかし気品は一級。身軽なフェッテ。パドブレアントルナン。アラベスク・パンシェ(ポアント・ワークをいかした高貴なシルエットを連続して見せる)。曲はビゼー「カルメン」序曲。最後に二人は組んで踊る。快活な音楽にのせて互いに大技を繰り出し盛り上げる(コーダ)。カルロ王子とイーシャはお辞儀を済ませ、カルロ王子のエスコートで二人は舞台袖に向かう。交代で中央に躍り出たのがアビー王子とファイザだ。
アビー王子とファイザが舞台の中央に立つと、オーケストラはグルーグ作曲「ペールギュント組曲」より「アニトラの踊り」を演奏し始めた。アビー王子とファイザのグラン・パ・ド・ドゥが始まる。まずは二人の優雅なアダージョ。アビー王子の踊りに息を合わせるファイザは、気品あふれる舞というより庶民的で元気な踊り方をする。アビー王子は上品でしとやかなお姫さまたちより、ファイザと踊ることの方がずっと楽しそうだ。陽気に舞台を去っていくファイザをエスコートして、アビー王子は気品漂う足取りで舞台下手へと歩いていく。ファイザは笑顔で客席に手を振った。拍手の中、アビー王子だけが舞台に帰ってくる。アビー王子のための小曲が始まった。アビー王子は優雅に長い手足を伸ばして舞台上に円を描くように跳躍し続ける。オーケストラが奏でるのはショパンの「英雄ポロネーズ」的に華やかで優雅な長調だ。アビー王子は全身で拍手を受けるとファイザに舞台を譲った。ファイザはレク(タンバリンのような打楽器。シズルと呼ばれる小さなシンバルが五個ついている)のシズルを包み込むように両手で持ち、鼓面を叩き踊り始めた。素早く手のひらを翻しシズルだけを指で叩くテクニックも見せる。オーケストラの音に合わせて時々シズルの響きを親指でとめた。高く上げた足のポアントでレクを叩く大胆な踊り方も見せる。さすがかつて奴隷市場を賑わせた舞姫だ。曲がタレガ「アラビア風奇想曲」に変わった。舞台にはアビー王子が帰ってきてファイザの大技を支える。フィッシュダイブ!
 拍手と「ブラボー」の歓声にファイザはレヴェランスで応じる。その隣でアビー王子もお辞儀をした。
あれ? と、あなたは気付く。舞台袖からは死んだはずのムアが顔をのぞかせていることに。ムアは舞台から降りてくると客席を見回し、空席を見つけてそこに座った。あなたの隣だ。
「なあ、ちょっと聞いてくれ。俺が見たあんまりにもひどい悲劇の話を! この世で一番の悲劇だ。タイトルをつけるなら……そう、『嘘つきたちの幸福』。嘘つきたちが懲らしめられるどころか、みーんな幸福になる物語だ」
ムアの泣き言を聞くまでもなく、まあまあ、とあなたはムアの肩や背を叩くことになる。ムアは顔をゆがめて婚礼の舞台とあなたを交互に見た。
「お前、俺の気持ちをわかってくれるか?」
 同情したのも束の間、ムアはあなたを肩車して舞台へと走り出した。演奏の主役はギターに変わる。ギターの調べと陽気な手拍子が旋律を作っていった。赤いフリルがふんだんにあしらわれた衣装の男女が舞台で踊り出す。舞台に戻ったムアはあなたを振り回しながら自棄になったように愉快なステップを踏み、舞台を巡り始めた。
ムアはあなたを床におろすとあなたの両手を取り、くるりと背中合わせになった。あなたの右手を高く挙げたまま、ぐるっと強引に腰を回される。ムアの力には抗えない。あなたは何度も回される。舞台の中央で連続回転の大技。これには観客も盛大な拍手! ムアはあなたの回転を止めると、片手であなたを高く持ち上げ、腕の筋肉を強調するポーズを決めた。
 なんだなんだ、何が起きたんだ? というふうに王子と姫と動物たちと婚礼客たちが戻ってくる。
さあ、ファンダンゴを踊る準備はいい? なに、二人組のフラメンコなんか踊れないって? 大丈夫。ムアに振り回されるままにしておけば、あなたは勝手にステップを踏むことになるのだから。舞台の中心はムアとあなたに譲られた。アビー王子とファイザは舞台の上手(かみて)で、カルロ王子とイーシャは下手(しもて)で踊る。三組目の珍妙なカップルを迎え入れて、婚礼客たちは笑い歌い踊った。曲はビゼー「カルメン」序曲のアンコールだ。オーケストラにはウード、カナーン、ナイ、タール、ダルブッカ、ナガラートが加わった。ベリア兵隊長は大きなギターをかき鳴らす。ファイザはアビー王子と組み踊りながらレクを小気味よく叩き始めた。踊りのテンポが速まって、婚礼客たちは目まぐるしい跳躍と回転を繰り返した。おとぎ話の仲間たちも、動物たちも、王子も、姫も、大慌てでテンポを合わせる。婚礼は朝まで続いた。
そういうわけで、バースとベリアの両国は、今でも深い絆を結んでいるのでした。めでたし、めでたし。
さあ、この物語における最高のスターダンサーをご紹介しよう。
そう、お客様。あなたです。あなたの素晴らしい想像力が私の中にしかなかった舞台を、現実のものにしてくれました。心からの感謝と拍手を! ブラボー! 立って拍手をしたって足りないくらいの「ブラボー」を、この世界の全員からあなたに。
ご来場いただき誠にありがとうございました。新作公演が決まるまで、どうぞお気軽に何度でも当劇場にお越しください。次回も必ず、特等席をご用意いたします。

Fin

【創作大賞2024応募作】
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