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「コラムの手前のざっとした文」或いは「小説未満」

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「私」を題材とした創作です。
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2022年7月の記事一覧

さよなら名前のない私

さよなら名前のない私

人差し指の関節を刺されたところが痒い。赤く膨らんで触れると少し熱を持っている。

蚊は血を吸う時に唾液を注入するが、それは彼らが栄養とする血を確実得るために必要な機能である。唾液は針の麻酔、又は血液の非凝固剤としての役目を果たす。私の身体はその異物へのアレルギー反応として痒みを感じる。

刺された人差し指はいつまでも痒い。私のアレルギー反応が過敏だからであろうが、それにしても自分よりもかなり大きな

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夏の夜の灯り

夏の夜の灯り

夜の浅いころ軒先にヤモリが来訪した。

物言わぬやつであるが、狩場が必要なのであろうと思い、玄関の灯りをつけたままにしていた。

その日は締切が近く夜通し仕事をしていた。ヤモリは私が通る度に軒先の屋根の隙間に素早く隠れるので、私がお前の狩場の灯りをつけてやったんだぞ、と逃げ込んだ隙間を見上げて恩着せがましく言ってみるが、先の丸い愛らしい指先だけがチラリと見えるだけであった。

次に見たときは隙間か

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