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送信履歴♭4 どうすればいい?

「あれ? 保存したつもりがどこかに送信されちゃったみたいだ」、黄色い小さな人がタイプしながら首を傾げた。

「どういうこと?」、緑の小さな人が尋ねた。緑の小さな人はリーダー。Readerとつづる、送信されたメールを朗読する人だ。それを聞いてタイピストが記録する。
「今の発言もタイプしておくかい?」
緑の小さな人であるリーダーが唇に人差し指をあて、タイピストに首を左右に降ってみせる。無言で雄弁な「ノー」のサインだ。

リーダーは迂闊なことは口にできない。みんなが共有する会話の中でなら誰よりもお喋りだけど、その歌うように流れる声の大半は、読み上げるために使われていた。

「オレじゃ役不足かい?」
青の小さな人が、その自信に着目されないことがおもしろくないのか、不服を乱暴に表して黄色の小さな人、タイピストに喰ってかかる。
「ありがとう、カットマン。好意は嬉しいし、君に任せればたいがいのことは解決する。だけどこいつはちょっとばかりめんどうなんだ」
タイピストはカットマンの気性をよく知っている。タイピストばかりではない。ほかの3人もカットマンの気性はよく知っている。
カットマン以外の4人がカットマンの気性はよく知っている、を共有する。すると、カットマンも、カットマンの気性はよく知っている、そのことを共有した。

「一度送信されると取り消すことはできないんだ。つまり君の力をもってしても、取り消すことはできない。切り取ることはできないのさ」

カットマンはしばらくあれこれ考えてから、「切っても残るということだな?」と訊いた。頭脳と腕、このふたつを比べれば、前者は後者と違って切れ味は鋭くなかった。

「そういうこと」とタイピストが嘆息を交えて返した。

どうすればいい? とタイピストは頭を悩ませた。どうすればいい? とほかの4人が悩みを共有した。

どうすればいい?

(続く)

この道に“才”があるかどうかのバロメーターだと意を決し。ご判断いただければ幸いです。さて…。