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型の凄み。「日日是好日」を読んで

昔から決められている型にとらわれてはいけない。原理原則を押さえたら、目的に合わせて進化させることが重要である。

そんな考えを根こそぎひっくり返してくれたのが、森下典子氏著「日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ」だ。


著者森下さんは、些細なきっかけでお茶を習い始める。もともとお茶に興味があったわけでもなく、「ただの行儀作法」ととらえていたことが綴られている。

先生である「武田のおばさん」は、厳格に決められているお茶の所作は教えるが、なぜそうしなければいけないのか、その理由は語らない。それどころか「とにかく意味なんてわからなくてもいいから、そうするの」「お茶はね、まず『形』なのよ。先に、『形』を作っておいて、その入れ物に、後から『心』が入るものなの」などと言う。

「形から入れ」という先生に、森下さんは心の中で反発する。形式主義で、人間を鋳型にはめるようなもの。創造性のカケラもない、と。

森下さんに一万票。たぶん私ならここで辞めている。

それでも森下さんはお茶を続けた。「やってもやっても何をしているのかわからない。何年も何年もモヤモヤしながらそのサイクルを繰り返した」とある。それは実に20年以上繰り返されている。

でも、それには理由があった。

長い年月の中で、何度も、見えていなかった世界がぱっと開ける体験をするのだ。こうしなさいと従わされていた所作がある日当たり前のようにできるようになったり、今までに感じなかった音や香りが現れ、昨日と同じはずの空間が全く別のものに見えてくる、そんな場面に巡り合うのだ。

しかもこれらの体験は、人にお茶の楽しみはここにあるのだと教えられていたら、絶対に見えてこないものだったであろうということが特筆すべきポイントだと思う。
意味がわからないまま、がんじがらめの型の中に身を置き決められた所作をくり返したからこそ、森下さん自身が体で理解し解釈したものが、景色として現れているのだ。

この本の凄みは、ここにある。

私たちは何事も、目的ありきで考える。その先に何があるかを知らされず、ひとまず形に従ってみてねなどと言われ、行動を続けることは難しい。

でも、そうすることでしか出会えない、まだ見ぬ世界が存在する、ということなのだ。

自分が知らない世界をゴールに設定することはできない。

でも、先人がつくった「型」や「基本」に、ひとまず従ってみること、続けてみること。これにより、自分の知らない世界にいくことができるかもしれない、ということなのだ。

不自由なイメージが先行する「型」。しかしその懐はとてつもなく深い。

固定観念を揺るがされた、すごい1冊でした。




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