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酸いも甘いも美味しく頂く

11月30日、今日は街をお散歩することにした。

ここ最近コロナの影響で実技レッスン以外はお家でのオンライン授業になってしまって外に出る機会がかなり減った。
天気予報を見たところ、どうやら今日を逃すとしばらく雨続きらしいので、久々にお散歩しながらこの街への想いを綴ってみよう。

私が今住んでいるアパートは街の中心から少し離れた場所にある。今日はお買い物がてら徒歩20分くらいの中心部へ行くことに。

アパートの前の大きな道路に沿って歩いていく。

この新しいアパートに越してきたのは今年7月。気候の変化によって並んだ木の色も変わり、外出の度に季節を感じることが出来て気持ちがいい。
色づいた葉っぱがひらひら落ちてくる道を進む。


この道を進むと以前住んでいたアパートの方へ向かう。
思うと私はこの3年間で3回の引っ越しを経験しているのだ。どの家にも引っ越す理由は出来てしまったが、各々に愛着もあった。

2番目に住んだアパートの近くの教会に寄ってみた。去年はこの広場にクリスマスのスケートリンクが出来ていたので今年はどうかと確認しに来たのだが、案の定何もなかった。しょうがない、来年に期待。

この街に初めて来たのは私が8歳の時だった。

両親と祖母と夏の一ヶ月間この街にアパートを借りて滞在した。私にとっては初めての海外だったので、石畳の道や大きくて古い教会、朝にあちこちから漂うコーヒーの香りさえも新鮮でその驚きは未だに鮮明に覚えている。まさか10年後にその街に住むことになるとは想像すら出来なかった。今はあの新鮮さが少し恋しい。

お気に入りのY字路を振り返って撮影。この通りにはお気に入りのお花屋さんがあるが、まだ3時前だったのでお昼休みで閉まっていた。もし開いていたらクリスマスのリーフを見ようと思ってたのに…

そろそろ中心街に到着する。この通りにある馬肉専門店の上に最初住んでいた。そもそも歴史のある街なので古い建物ばかりなのだが、そのなかでもかなり古い建物だったので冬は死ぬほど寒かったし徐々に天井が崩落してくるような家だった。しかし中心街というロケーションは完璧で学校も徒歩15分ほどで快適だったし、目の前には美味しいパン屋さんがあり下の馬肉専門店ではしょっちゅうカルパッチョ用の薄切り馬肉を買って馬刺として食べていた。
すぐ近くで通っていた文房具屋さんのおばさんとは今も仲良しで、毎年滞在許可証を更新するための書類を山ほどコピーさせてもらっている。

この街のシンボルのひとつでもあるお城へ到着。学校へ行く時にはここの時計で時間を確認する。このお城の中には美術館があって、8歳のときに入った記憶がある。覚えているのは、確か宗教画が沢山あって綺麗ではあったのたが何故か揚げ物をいっぱい食べたときのような胸やけをおぼえたこと…

お城の前の通りは沢山の店で賑わっている。14年前にはこの先の角に小さなレストランがあり、毎日アスパラガスのリゾットを食べていたのだが、今ではadidasになってしまった。

まだ3時前なのにもう夕方みたいな日が差している。
今年もあと1ヶ月だなんて、長いようで本当に本当に短い一年だったなぁと思いながら歩いていると円形競技場のある広場に着いた。

広場の真ん中には噴水のある公園がある。学校が近いのでよくお昼にパンを買ってここで食べていた。
後ろには円形競技場と着々と設置が進められている大きな星のイルミネーションがみえる。

ローマのコロッセオよりは小さいが、夏にはここでオペラフェスティバルが行われる。ヴェローナの一番大きなシンボルだろう。
クリスマスシーズンにはそこから大きな流れ星のイルミネーションが毎年飛び出す。普段はもっとはやくに準備を終えて、12月1日には全てのイルミネーションが点灯するのだが今年はコロナの影響で今になって皆急いで準備をしているようだ。

広場から店のならんだ通りへ入る。通りの奥には塔が見えていて今日は空の青とのコントラストが美しい。
ショーウィンドーを覗く人々は恐らく友人、恋人、家族へのプレゼントを選んでいるのだろう。
私もその中のひとり。ここから目的の店へと向かう。

お目当てのflying tigerに着いた。
ここでクリスマスを彩る何かしらを買いたかったから。
所狭しとならんだクリスマスグッズをじっくりと眺めて回ったが、結局小さな星の電飾のみを購入した。毎年クリスマスグッズを買おうと思うものの、一年のうちに長くても1ヶ月ほどしか使うことのない雑貨を買う一歩がなかなか踏み出せない。

Flying Tigerを出て、もうひとつの観光スポットであるジュリエットの家の前を通る。普段は観光客でごった返すジュリエットの家も、観光客がいない今は閑散としている。当然だが観光客以外は小さなバルコニーとジュリエットの銅像と壁中に落書きされたカップルの名前に興味はない。

また新たな広場へ到着した。ここも急ピッチでイルミネーションの準備が進められている。
ここまで約一時間歩き続けているのでどこかで休むことにしよう。

広場でのイルミネーション作業が見えるバールに入り、いつも通りアメリカンを注文する。アメリカンを注文するときは必ず大きなカップにエスプレッソを入れて別にお湯を欲しいと言う。すると自分でお湯の量を調節出来るのでゆっくりと時間を過ごせる。イタリア人はコーヒーというと一瞬でキュッと飲めるエスプレッソを頼むのでゆっくりと楽しみたいときはアメリカンがおすすめ。

コーヒーを飲み終えて、広場のクリスマスツリーを見に行く。クリスマスツリーのイルミネーションだけはもう点灯していた。

ツリーの下で改めて冬の訪れを感じた。どたばたで先の見えない一年だったがちゃんとクリスマスはやって来た。残り1ヶ月で状況が悪化しないことを祈る。


もうだいぶ日が傾いてきた。そろそろ帰路につこう。

帰路につくはずが、ふと足を止めた店で帽子を買ってしまった。初めて買うタイプの帽子、早速かぶって帰るとしよう。ショーウィンドーにうつる自分の姿を毎回確認してしまう。

帰り道、14年前の夏に一ヶ月間を過ごしたアパートの前を通った。ここで当時横行していた偽ブランド売りの男を警察官が取り押さえる場面に遭遇した。その緊迫した現場をアパートから父と興味津々で覗いたのを覚えている。今では道端で偽ブランドを売る人は全く見ない。

お腹が減ったので晩御飯の買い物をしよう。

今日はにんにくのきいたシンプルなトマトソースパスタが食べたい気分、バジルの鉢も購入した。
よく考えたらなんで残り20分以上歩かなくてはいけないのにその場でスーパーに入ってしまったのか…。しかたなく20分以上の帰路をトマトパスタの材料と共に歩くことに。

行きに通ったお城も、日が落ちたのでライトアップされて雰囲気が変わった。この時間の空が、一番この街をロマンチックに彩ってくれる。

帰りはさっきの教会の裏を通る。そろそろバジルの鉢の重みで疲れてきた。
太陽の残したオレンジが夜の紫に追いやられている。なんとなくだが、完全に暗くなるまでに帰りたいので少し早足で歩こう。疲れたからといってダラダラ歩くと、この街の不安定なでこぼこ道に体力をより奪われてしまう。さっさと歩くのが疲労を溜めないコツである。

横断歩道、赤信号で足を止めた。
綺麗な空。
そろそろオレンジの街灯に街が照らされ始める。

この街で3年間、酸いも甘いも嫌というほど噛み締めた。

酸い、甘い、といってもそれは日本と比べるとかなり大袈裟で、イタリアのピクルスは顔がひん曲がるくらい酸っぱいし、チョコレートケーキは頭痛がするほど甘い。

その時の状況によって、石畳の道が心の底から憎らしくなることもあれば、歴史のある石の道を愛おしくも感じる。

でも、この街は変わっていない。酸味も甘味も感じるのは自分次第なので料理の工夫次第で両方を美味しく味わえるだろう。


家に着いた、お腹が減った。

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