見出し画像

読書ノート|夫のちんぽが入らない

作品名 : 夫のちんぽが入らない
著者名 : こだま
読了日 : 2022年2月2日

オンライン読書会の課題図書だったので手に取った本。
こんな言い訳をついしてしまう破壊力のあるタイトルだ(きっと多くの人が、出版時の話題になったころにしか手に取れないだろう)。
同人誌から話題になって出版されたと噂になっていた2017年ごろ、多忙のため文学フリマには行けなかったが、狭いブースにこの本を並べて座っている作者を想像したものだった。いわゆる告白本だと思っていた。あとがきには私小説と書いてあり、想像通り作者の半生が赤裸々に綴られていた。


比喩が非常にユニーク。主人公が自分を欠陥人間だと思い込む性交の表現が、祭りや山の掘削工事や農業に喩えられており、声を出して笑ってしまった。悲しみと笑いは表裏一体、まさにそんな感じの作品だと思って読んでいたら、主人公が教員の仕事に就くあたりからトーンが変わってくる。繰り返し自虐的に「夫のちんぽが入らない人間だから」と出てくるが、読者を笑かそうとしているのではなく、ものごとが上手くいかないのは自分のせいだとする思考回路なのだ。家族、ど田舎の故郷、同業の夫婦関係、教科担当制ではない小学校の教員、どれも閉じられた世界であって、他人から蔑まされても客観的な視点を持つ術がない。自分が悪いと思う方が楽だとも書いてある。DVなどに遭ってしまう方の共通点はこうしたところかと酷く納得させられた。

掴みどころがなく他人の目を気にしない、やがて夫になる男性に惹かれ、恋仲になり結婚に至るくだりは恋愛ドラマでも使えそうで、時代背景を想像するとキュンのスイッチが入り、夫役に相応しい俳優は誰がいいかとも考えた(私の中では柄本佑でした)。そんな妄想をしながら読み進め、主人公が仕事で最も苦しんでいた時期に、夫が気づいてあげられないのも同業者ゆえのすれ違いだと勝手に解釈していた。しかし、あとがきまで読んで、それは私が日頃そういったフィクションに頭を侵されていただけだと反省した。そんなものはファンタジーだ。この夫も生き辛さを抱えた方で、妻のピンチに手を差し伸べられなかったのは、そうした資質が起因していたのだ。
解釈しやすいストーリーに押し込めず、書かれてある通りに読まなければいけないな、と読書のあり方を問い質された作品でした。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?