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自殺についての誤解 by WHO

9月10日から16日は厚生労働省の「自殺予防週間」です。

自殺予防週間では、自殺について、誤解や偏見をなくし、正しい知識を普及啓発することをおこなうということで、わたしもその心に賛同しまして、情報を紹介していこうと思います。

本日ですが「自殺について誤解されていること」についてお話ししたいと思います。というのもメンタルヘルスの分野では、一般的にこうなんじゃない?って思われていることが実は逆だったりすることが多いんです。

いまではそんなに言われなくなりましたが、落ち込むのは根性がないからだとか、メンタルのことはじぶんのちからで何とかするべきとか、これらは大間違いな事実ということはもう周知の事実ですよね。

自殺についての知識も、誤った知識を持つことで適切な行動をとることができずに、さまざまな結末を招いてしまうこともあります。本日はWHOの報告書の中から自殺についての誤解を取り上げ、研究結果とともに解説していきます(ちょっと長いです)。


◇「死ぬ・死ぬ」という人は本当は自殺しない


これはかなり広く信じられている誤解です。しかし、自殺した人の8割から9割は実際に行動に及ぶ前に何らかのサインを他人に送ったり、自殺するという意思をはっきりと言葉に出して誰かに伝えているのです。

周囲につぶやく方は、自殺を試みることや実際に亡くなる確率が高いです。確かに、ひとの注目を引くために、自殺に関連する行動をとることもありますが、そのあとに本格的に自殺行動をとる場合もあります。

この誤解は、医療従事者もそう思っていることがおおくあります。対応した後で、仮に本気ではなければそれでOKです。対応することに意味がないことはありません。

実際に研究レベルでも実証されています。死にたいと発言する前に生じる要因に絶望感があります。この絶望感は、死にたいという考え(wor = 2.19, 95% CI 1.60-3.00)で、自殺未遂(wor = 1.95, 95% CI 1.59-2.39)と自殺(wor = 1.98, 95% CI 1.46-2.69)のすべてを予測します。

また、自殺によって亡くなる前に死にたいという考えや自殺関連行動をとる場合も多くありました(OR=22.53,95%CI:18.40-27.58)。

◇自殺の危険度が高い人は死ぬ覚悟が確固としている


自殺をしようとする人は死ぬ覚悟がすでに固まっていて、何を言ってももうどうしようもないと考えられています。

しかし実際には、自殺をしようとする人はプライマリーケアの病院をその直前に訪れるなど、援助を求める行動をとっていることが多いようです。

自殺をする人の多くは心理的苦痛を感じています。心理的苦痛から解放されるために死にたいと考えることが多くあると考えられ、言い換えれば、死にたいほどつらい経験をしています。

自殺は複合的な原因で生じるため、本人もどうしていいのかわからないくらい複雑な状況に苦しんでいる場合も多いと考えられます。

もしこの苦痛から解放されるのであれば「生きたい」と考え、苦痛から解放されるために「助けてほしい」という気持ちをどこまで汲み取れるかが重要になります。

◇ほとんどの自殺は予告なく起こる


もしそうであれば助けようがありませんが、データをみると何らかの前触れがある。心身の不調、借金、飲み過ぎ、対人関係、今までとは違う言動(急に優しくなる、いきなり連絡が来る)。

自殺が突然のように見える場合でも、実は自殺に至るまでには長い苦悩の道程があるのが普通です。あるいは最近のできごとが原因のように見えても、それは引き金になっただけに過ぎないことが多いのです。一般に、自殺の動機は深刻で長期にわたる場合が多いのです。

以下の論文では、そのような心理的苦痛が自殺を引き起こすことを示しています。

また、まえぶれの1つはうつ病です。うつ病は自殺についての考え(wor = 2.48、95%CI 1.32-4.67)、自殺未遂(wor = 2.38、95%CI 1.84-3.07)、自殺(wor = 1.50、95%CI 1.04-2.17)の有意な増加と関連しています。

うつ病の症状で外に見えることは、睡眠の問題、だるさの訴え、食欲の問題、ネガティブな考えなどがあります。また興味・喜びの喪失といって今まで楽しめたことが楽しめなくなることがあります。したがって、趣味の活動や対人関係に積極的ではなくなることなども外面的には表れてきます。

うつ病のリスク因子には、対人関係の問題があります。この研究では、集団から疎外されるような経験や対人関係が負担に感じると、死にたいという気持ちが増えるようです。

もう1つはお酒の問題です。アルコール使用障害の人では、自殺念慮(OR = 1.86; 95%CI:1.38、2.35)、自殺未遂(OR = 3.13; 95%CI:2.45、3.81)、自殺(OR = 2.59; 95%CI:1.95、3.23およびRR = 1.74; 95%CI:1.26、2.21)のそれぞれと関連があります。

◇未遂に終わった人は死ぬつもりなどなかった


この誤解は救急医療機関に勤める医療関係者にも見られます。本当に死ぬつもりがあったなら、確実な方法をとったはずだというのです。

現実には、自殺未遂に及んだ人は、その後も同様の行動を繰り返す可能性が高くなります。その結果として、自殺によって生命を落としてしまう率が一般よりも高くなってしまいます。

実際には、自殺の危険の高い人でも、その心の中には「死にたい」という気持ちと「助けて欲しい」という気持ちの2つの相反する気持ちが揺れ動いているのであり、それが自殺行動にも反映されていると考えられます。


◇自殺について話をすることは危険だ


自殺について相手に聞くことで気持ちがエスカレートして死んでしまうのではないか?自殺について聞くことはタブーだから声をかけられない。相手の中で苦しみをエスカレートさせてしまうのではないか。

自殺を話題にすることが、自殺の考えを助長するという研究の結果はいまだにわかっていません。単刀直入に死のうと思っているかを尋ねるほうがよい場合もあり、それで自殺リスクが上がるわけではないようです。

専門家の話では、「むしろ患者が安心することが多い。質問されることによって、これまで必死に秘密にしてきたことや個人的な恥、屈辱の経験に終止符が打たれる」とも言われています(Chiles & Strosahl, 2005; 松本俊彦先生の著書より)。

自殺したいという絶望的な気持ちを打ち明ける人と打ち明けられる人の間に信頼関係が成り立っていて、救いを求める叫びを真剣に取り上げようとするならば、自殺について率直に語り合うほうがむしろ自殺の危険を減らすことになるかもしれません。

実際に、カウンセリング場面では、死についての話を扱います。カウンセリングをうけることで、自殺未遂をする可能性が減ることも明らかになっています。

◇精神疾患を持つ人のみが自殺を選ぶ

もちろん、うつ病や統合失調症などの精神疾患は自殺のリスクがあることは研究データ上も明らかになっています。しかし、精神疾患の人だけに自殺が起こるわけではありません。

精神科以外の救急病棟などを退院した後でも自殺は起こる可能性があることを示す研究が複数あります。

もちろん、うつ病や統合失調症などの集団のほうが自殺が生じるリスクが高いですが、精神疾患ではない人たちの間でも、死にたいという考えが出てきている場合には、自殺リスクは高まるようです。

精神疾患の問題だけではなく、複合的な問題があり、それにより自殺を選択してしまいます。経済的支援や社会福祉の資源などのつながりを考える必要があるかもしれません。


ということでいかがだったでしょうか?もう知ってるーということもあれば、あれこれって誤解してたなということもあると思います。

正しい知識を仕入れることはなかなかにめんどうなことだったりしますし、根拠は?と問われるとなかなか言及することが難しくなります。

今回の記事から、正しい情報を仕入れてもらって、適切な対応をとってもらえるようになったらいいなと思います。

自殺の誤解についてはサイコロサイエンスラジオさんでも取り上げられていますのでもしよろしければご覧ください~。

それでは最後まで読んでいただいてありがとうございました!

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筆者 あおきしゅんたろうは福島県立医科大学で大学教員をしています。大学では医療コミュニケーションについての医学教育を担当しており、臨床心理士・公認心理師として認知行動療法を専門に活動しています。この記事は、所属機関を代表する意見ではなく、あくまで僕自身の考えや研究エビデンスを基に書いています。

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