不安と向き合うコツ
「TENTのお二人は、お金の不安ってありますか?」
「もしあるとしたら、その不安とどう向き合ってますか?」
2022年4月のある日。
20代のフリーランスデザイナーの方から、そんな質問をされました。
その人は、プロダクトデザイナーとして活動しつつ、小さなメーカーとして自分の製品も作っている「うえだ」さん。
そんなうえださん。
実はこの4月から、週の半分だけTENTのお仕事をお手伝いしてくれている頼もしいメンバーでもあります。
お金の不安。
不安との向き合い方。
なるほど。
考えたこともない面白い質問だったので、ちゃんと時間をとって話すことにしました。
そんなわけで今回は、うえださんがTENTのハルタさんと僕にインタビューするお話です。
お給料ではない暮らし
ウエダ
今日はお願いします。
ハルタ
はいはい、お願いします。
アオキ
お金の不安、でしたっけ。
ウエダ
はい。最近めちゃくちゃ不安なんですよ。お金のことが。
会社員のときって決まったタイミングで決まった額が給料として入ってくるじゃないですか。
フリーランスの今は、多く入ってくるかもしれないしゼロになるかもしれない。それが不安なんですよ。でもなぜか今の方が圧倒的に楽しくて。これは何なんだ?って。
アオキ
ハルタさんが大きく頷いてますね。
自分でハンドルを握る
ハルタ
いやいや、それは今の僕たちも一緒ですよ。明日どうなるかなんて誰にもわからないわけで、漠然とした不安は、それはもうずっとあります。
僕は新卒で小さなデザイン事務所に入社したんですけど「もしすごい実力の人が新しく入ってきたら、僕なんてすぐに切られるんじゃないか」ってヒリヒリしながら毎日仕事してました。
ハルタ
あと、僕らの若い頃って、いわゆる長い就職氷河期から始まって大企業がリストラしたり、会社自体がバタバタなくなって。
終身雇用神話みたいなのが消え去って。大きな会社にいるからって安心できなくなった時代で。
アオキ
僕も、新卒で就職した頃にちょうどリストラが大ブームだったんですよ。入社してすぐに「希望退職者募集」という名の肩たたきみたいなのが始まって。
目の前で、高年齢の方々が悲しげな顔をして退職していく様子を何度も目の当たりにしました。
2つめの会社に転職してからも、自分が主に担当していたジャンルの部署がどんどん沈んでいく様子を見てしまったんです。
アオキ
自分がどんだけ一生懸命働こうが「あっちに進むぞ」という偉い人のハンドリングしだいで簡単に沈むこともあるんだ。そんな経験を二回連続でしてしまった。
ウエダ
ほえー、まじですか。
ハルタ
なので、最大のリスクヘッジとして独立することを選んだ感じですね。だって、自動的にお給料が振り込まれることに慣れすぎたら、急に辞めさせられた時に何もできない。それは怖いですよ。
ウエダ
世間の印象からすると「独立する」なんて言ったらリスクそのものだと思うんですけど、お二人からすると逆やったんですね。
アオキ
そうそう。偉い人にハンドルを委ねるよりも自分でハンドルを握ったほうがマシだと思ったんです。
でもね、理屈の上ではそう思えても、実際に辞める時はめちゃくちゃ怖かったですよ。
でかい船で陸が見えなくなるくらい沖に出てて「ろくに泳いだこともないのに、そんな場所から裸一貫で海に飛び込むのか!」みたいなイメージを勝手に抱いてて。
「辞めたいです」って上司に言う時も涙を流してました。
ウエダ
めっちゃ意外です。
アオキ
辞めた後、不安になるたびに自分を奮い立たせるために自分に言い聞かせてたことがあって。
不安定ってゆらゆら動いている状態ってことじゃないですか。一方、究極の安定って停止してる状態とも言えるかもしれない。
屁理屈なんですけど、不安で揺らいでいる、それこそが生きてるってことなんじゃないかなって、そう自分に言い聞かせてました。
ウエダ
うわあ、まさに僕の今の状態です。
怖かったらやってみる
ウエダ
ハルタさんは独立するとき怖かったりしたんですか?
ハルタ
僕はそういうセンサーがどうもぶっ壊れてるみたいで、全然こわくなかったです。
ウエダ
ぶ…ぶっ壊れてる
ハルタ
うーん…というより、不安って何かっていうと「知らない」ってことだと思っていて。
ウエダ
うおお、知らないことが不安につながるのですね…
ハルタ
はい。例えば新しい学校に入ったとして、クラスメートのことは知らないからすごく怖い。そういう時、僕は真っ先に全員と会話して回ってました。知ることで怖くなくなるんですよね。
それと同じように、独立したらどうなるか不安。だからこそ、やってみることにした。不安だったら、それを知るためにやってみる。そんなふうに動いてる気がします。
今日はこれをやる
アオキ
なんか、ふと思ったんですけど、ウエダさんの不安ってお金が入ってきたとしても消えないかもしれないですよ。
ウエダ
なるほど、そうかもしれないです。貯金額の問題ではない気はうっすらしてたんですが。
アオキ
僕はハルタさんと違って、独立してからしばらくガタガタ震えてました。貯金はそこそこあったのに、不安で仕方なくて。
そんな時に何をしたかって言うと、毎朝、真っ白なコピー用紙に頭の中のことを全部書き出してました。
その日の天気とかはもちろん「えっと、今日は何を書こうかな」なんて文字もそのまま紙に書くくらい。不思議なもんで、紙にどんどん頭の中を書き出していくと、やるべきことが浮かび上がってくるんです。
ウエダ
なるほど…
アオキ
そんな大した話ではなくて。「公共料金払いに行かなきゃ」とか「風呂掃除しよう」とか。そういう中に、ポッと思いついた「あれを試作してみよう」とかが入ってくる。
そうして目の前に並んだToDoリストを眺めて
「よし、今日も忙しくなるぞー!」って安心してました。
ウエダ
不安になるのは、暇だからなんですかね。
アオキ
たぶん漠然とした不安に対して何から手をつけていいかわからないことが不安の原因なんだと思います。
たとえ小さなことでも「今日はこれをやる」が定まれば、だいぶ不安はなくなると思いますよ。
世の中に必要としてもらえたら
ウエダ
実は2週間前くらいに比べて、今の僕はだいぶ不安が小さくなったんですよ。
アオキ
ほう、何があったんですか。
ウエダ
自分の製品を世に出して、予約販売を開始したら、多くの人に買ってもらえて。
ウエダ
実際にECストアにお金が入金されたという安心感もあるんですけど、それ以上に実際に買ってくれた人からメッセージが届くっていうのが、ものすごくでかいです。
ハルタ
それはありがたい体験ですね。
アオキ
「世の中から必要としてもらえた!」という喜びだよね。
ウエダ
もうほんと、その通りです。会社員の時に売り上げの数字だけ見るのとは全然比べ物にならないくらい救われるんですよね。
アオキ
それがさ、製品が2つになったら2倍、3つになった3倍になるんですよ。届くメッセージも3倍になる。そうすると、メールに返信するだけでも忙しくて。
気がつけばいつの間にか不安になってる暇なんてなくなる。きっとそれが今のTENTの状態なんだと思いますよ。
全部あとから繋がる
アオキ
僕が独立してすぐの頃って本当に暇すぎて。家具をDIYしてみたり、床の雑巾掛けしたり洗濯したり、奥さんのために晩ご飯を作ったりしてました。
そういう「ただ暮らすために必要なこと」にちゃんと向き合おうとしてた気がします。
ハルタ
僕もそうですね。奥さんの帰宅前に洗濯物を綺麗にたたんでおかないといけない!とかやってました。
アオキ
今になって振り返ると、その経験がフライパンジュウやCHOPLATEの着想に生きてるわけで。
アオキ
ウエダさんがもし今、デザイナーとして何かを成し遂げたいという夢があるとしても、デザインやモノづくりだけに集中する必要なんて全くなくて。
そういう何に繋がるか分からない自分なりのToDoをいっぱいこなすことが大事なんじゃないかなと思います。
ウエダ
なるほど、不安と向き合うコツがちょっとだけ分かった気がします!今日はありがとうございました!
アオキ
いえいえ、お役に立てると嬉しいです。
ハルタ
ありがとうございました。
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