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文学フリマ東京38 読書感想文①

 こちらは2024年5月19日に開催されたイベント「文学フリマ東京38」で買った本の感想です。
 各作者様に御礼申し上げます。素敵な作品をありがとうございました!



海のまぼろし/みたかさん
『Insel』

 各短編に共通するテーマは、「生きづらさ」、そして「海」。
 海は圧倒的なまでに広く大きい。それは時として人を救い、また絶望させもする。そんな相反したイメージを巧みに利用して、仄暗さの中にわずかな希望のあるような物語を書く。それがみたかさんの作品の魅力だと感じています。
 連作「Tiefsee」「Insel」「Schiff」は、おれとアーリーと海とのお話です。海で溺れる苦しみに始まり、小島での休息を経て、大海を泳ぎ始める「おれ」。「全てを飲み込み包みこむ海」へと、彼はそれでも進んでいくのでしょう。「海」というものへの多様な印象が喚起される、素敵なお話でした。「海のまぼろし」のサークル名にぴったりの良作です。


七つ森舎/津森七さん
『やわらかな心中』

 「真令、――私の可愛いぬいぐるみ」というキャッチコピー。何とはいいませんが、大変にエグい。素晴らしいです。毎度のことながら、展開のひっくり返し方・種明かしの仕方に凄みがあります。
 女の子はやわらかい。ぬいぐるみもやわらかい。しかしその内実は……。タイトルがとても秀逸です。
 淡々と描かれる、一見穏やかな、しかし確かな狂気。少女たちはいかにしてその結末を選び取ったのか。それは是非実際に読んで確かめて頂きたい。


トノネコZINE/あかるさん
『PICNIC』


 まずは何といっても、こだわりのブックデザインが良い! リソグラフ印刷にトレペカバー、ゆるかわいいイラスト表紙など、装丁の豪華さと遊び心が素敵です。
 ところどころにある、エッセイと物語の中間のようなお話が印象的でした。「ループ・ギャラクシー・コースター」が特にお気に入りです。
 日常のことばで綴られる非日常が、おかしくて、かわいらしくて、ちょっぴり切なくて。優しく手を引いて日常の裏側へと連れ出してくれるような、楽しいピクニックみたいな読書体験でした。


檸檬yellow/湖上比恋乃さん
『ROAD SIDE DINER』


 「4.7フィート」ではシカゴへ向かう旅、「再会のためのデイ・トリップ」ではシカゴへと帰る旅、「ロードサイドダイナー」では旅人たちが憩うダイナーが描かれます。
 特に「再会のためのデイ・トリップ」が好きでした。序盤に登場する「行きよりも一枚減ったポストカード」が、お話全体のムードを形作るとともに、展開上重要なキーアイテムとなっている。技ありな冒頭部分が印象に残りました。
 付属のステッカーも、ポップでアーティスティックな絵柄が素敵です。裏表紙のデザインも賑やかで良い。大事にします。


『燃え滓と青々vol.2』

行宮見月さん

さよならをただしく告げるための旅アイロンの先静かに進む

不可思議さん

俺を放さないでください / 俺を始末してください

みささぎさん

くたばってください(僕は春らしく花が咲いたと言うべきだった)

瀬志海海さん

ここにだけあるものばかり惹き付けてどうしてわたしの星にいないの

 私は詩が分からない。でも、文章表現を志す限りはどうしても詩的なものから逃れられない。なぜなら、詩とは「ことばそのものを超えた先のナニカに手を伸ばす、触れようとする」行為だと感じているからだ。
 上にお気に入りの一節を羅列したのですが、収録された詩のどれもが、言葉で言い表せないような最も尊いもの、もしくは最もかなしいもの、それらへと繋がる扉であり鍵であるような、たぐいまれな詩情を宿しています。
 詩や短歌は、そのままの形で記憶の中に持って置けるところが素敵だと思います。少しずつ詩を分かっていきたいです。


(②に続きます)


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