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【小説】花束の物語【薔薇編#6】

 私が目を覚ますとそこは保健室のベットの上だった。
 ゆっくり上体を起こし周りを見渡すが誰もいない。
 そのまま、ベットから立ち上がろうとした時、フラッとしてベットにドスンと座り込んだ。

「あら、目が覚めたのね。気分はどう?」

 保健室の扉が開き、若い女性が入ってきた。白い白衣を着ていることから恐らく、保健室の先生だろう。

「まだ少し、眩暈がします…」

「何があったかは詳しく聞いてないけど、かなり疲れていたみたいね。今から担任の先生呼んでくるからもう少し休んでなさい。」

 そういうと、先生は保健室を出ていった。
 ふぅー、っと一度大きく息を吐いた。頭の中を整理すると、神田に抱きしめられた後、気を失って保健室に運ばれたみたいだ。

 暫くして保健室の扉が、ガラガラガラっと勢いよく開けられた。

「棘咲さん!!大丈夫!?」

 そう言いながら神田、林田、田口、そして京谷がバタバタと入ってきた。
 神田は目を覚ました私を見るなり抱き着いてきた。

「よかった…よかったよぉ.....…」

「そんな、大げさな…」

「神田さん、離れなよ。また、棘咲さんが気を失ったらどうするんだよ」

 田口が神田を無理やり引きはがし、神田はごめんね、っと言って私から離れた。

「こらっ!!あんたたち!病人なんだからもう少し静かにしなさい!!」

 怒りながら保健室の先生が入ってきた。後ろには担任の先生となぜか老いぼれ先生がいた。老いぼれ先生は私に近づくなり、急に頭を下げてきた。

「棘咲、申し訳ない…!!私が授業を始める前、お前たちが虐めれれていたことに気づいてやれなかった…」

 担任もその後に続いて頭を下げる。

「棘咲!!担任として、このクラスの虐めを見抜けなかった…!!担任以前に大人として失格だ…本当に申し訳ない」

 もうすぐ60歳になる教師と30歳手前の担任。たとえ虐めに気づけたとしても、止めれるほどの力があったとも思えない。

「先生、その…顔を上げてください。なんだか居心地が悪いので…」

 二人がゆっくり顔を上げたのを確認した後、それにと話を続けた。

「私が、虐めを受けていることを伝えなかったのも悪いですし…言っても何も変わらないと思ったから…」

 私は先生たちの顔を見ることができず、俯いてしまった。

「棘咲、気にするな。言い出せない環境を作っていしまっていた先生達に責任がある。実は、蜂条達の件は度々報告が上がっていたんだ。当然、学校側は調査をしたが、当の本人は証拠でもあるのかの一点張りで中々解決できずにいた。棘咲が言うように今日まで何も変えることができなかった…本当に情けない…」

 蜂条は女王の事だ。他にも虐められていた生徒がいたという事だろう。知らない所で先生たちも動いてくれていたことに少し安心した。だが、現状は何も変わらない。女王たちが私を虐めていた証拠はないし、あの時虐めの一部始終をスマホで撮っていた生徒も名乗り出ないだろう。

「だが、それも今日までだ。そうでしょ?先生」

 私が諦め絶望していた時、京谷はそう断言して先生に問いかけた。私は藁にもすがる思いで先生の方を見た。

「あぁ、その通りだ」

 担任はもう安心だという眼差しで私の方を見た。周りの皆はどこか自慢げな表情をしている。

「でも…証拠は…?」

 私は当然の質問をした。

「棘咲さん、これを見て」

 田口はをそう言うと自分のスマホを取り出し私に見せてきた。

「...っ!?これは…」

 そこに映っていたのは、私や京谷が虐められている写真や動画だった。

「実は俺たち、何度か棘咲さんや菊池の事を先生に報告してるんだ。だけど、証拠がないと先生たちも動けないって言われて証拠を集めたんだ。その…隠し撮りしていたのはごめん…」

 林田、田口、神田の3人は、私を助けるために必死に証拠を集めてくれていた。屋上から教室に戻る途中、職員室に行ったのは証拠を提出するためだったんだと気づく。

「うぅうん。私の為にありがとう…みんな…」

「それに、さっきの授業の一部始終も生徒の携帯を見させてもらって確認した。このことは既に校長先生にも報告済みだ。今は加害者生徒に対しての処罰を協議しているところだ。」

 なんでだろう…老いぼれ先生が私に説明してくれている間、皆の表情が引きつっている様に見えるのは…そういえば、先生はどうやって一部始終を確認したんだろう。言っちゃ悪いが先生はクラスの皆からナメられている。クラスの皆が素直に見せるとは思えない。
 
「あの時の先生、すっごい怖かったよぉ」と、神田が私にしか聞こえない声で耳打ちしてくれた。

 なるほど…この先生、実はすごい先生なのかもしれない。

「恐らく、棘咲と菊池に直接危害を加えた者たちは、退学になるだろう。それ以外の者たちも数週間の停学になるのは間違いない。それから先生も数ヶ月の謹慎になると思う。お前たちには迷惑をかけるが、授業に関しては暫く別クラスで受けれるように手配するから安心してくれ」

「えっ!?退学に停学…?それに先生が謹慎って、どういうことですか?虐めが無くなるのは嬉しいですけど、さすがにそこまで望んでないというか…」

「驚くのも無理はないが、これ以上、被害が広がらないための判断だ。謹慎に関しては、クラスの大半が退学あるいは停学になるという事は、学級崩壊っていう事だ。その責任を取らなければならない。クビにならないだけマシだな」

 担任はサラッとそう言った。女王やボスたちが退学や停学になることは納得できたが、私を含め皆、担任が謹慎することに関しては納得できないという表情をしている。

「お前らそんな顔をするな。別にいなくなるわけじゃないし、謹慎って言っても職員室にはいる。謹慎が解ければまた、お前らの担任としてクラスを任せてもらえる。だから、な?元気出せ!」

「先生…ありがとうございます…」

 もっと早く担任を頼ればよかったと、担任をもっと信用しとけばよかったと、そう思った。

「今日はもう遅い。とりあえず今日は帰ろう」

 気づけばもうすぐ18時になろうとしていた。担任は私たちを玄関まで送ってくれた。靴を履き玄関を出て、それぞれの帰路へと歩き出した。

「菊池ー!お前、棘咲と帰り道、同じ方向だったよな?棘咲はまだ病み上がりだから家まで送ってやれー!」

 急に担任が京谷を呼び止めたかと振り返れば、なぜか京谷に向かってパチッとウインクした。なぜウインク…?

「は、はい!」と、京谷は恥ずかしそうに返事をした。なぜ、顔が赤い…?

「いや、別にいいよ…一人で帰れるし…」

「いやいやいや!ほら、もう暗いし、女の子が一人で帰るのは危険っていうか…それに、先生から送ってやれって言われたから!」

 なぜか、必死な京谷。え、なんか必死過ぎてきもいんだけど…。

「きもいってひどくない…?」

 おっと、心の声が漏れてしまった。ごめんごめん…
 
 そんな感じで私と京谷は初めて一緒に帰ることになった。

続く

 

 




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