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金魚屋の徒然なる日常 御縁叶冬の邂逅

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未練を持って死んだ魂は金魚になる。 石動秋葉は生まれつき、人には視えない空飛ぶ金魚が視えていた。 ある日、自分が金魚になる悪夢を見るようになる。 悪夢を見なくする方法を求める秋葉…
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#ミステリー小説部門

「金魚屋の徒然なる日常 御縁叶冬の邂逅」 第一話 金魚屋との遭遇

 金魚は空を飛ばないと知ったのは、小学校三年生のころだった。  教室に大きな水槽が置かれ…

広瀬由衣
1か月前
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「金魚屋の徒然なる日常 御縁叶冬の邂逅」 第二話 視えない金魚を視る男

 金魚屋という言葉に、俺の心臓が大きく跳ねた。 『金魚屋』という店名は、『金魚すくいとい…

広瀬由衣
1か月前
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「金魚屋の徒然なる日常 御縁叶冬の邂逅」 第三話 御縁叶冬という男

 金魚屋の男から逃げた翌日、一限から授業があるので大学へ向かった。  晴れやかな空とは裏…

広瀬由衣
1か月前
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「金魚屋の徒然なる日常 御縁叶冬の邂逅」 第四話 御縁叶冬の真談

 蔵の中は、たしかに上着が必要なくらい冷えている。玄関のある小部屋は薄暗いが、抜けて奥へ…

広瀬由衣
1か月前
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「金魚屋の徒然なる日常 御縁叶冬の邂逅」 第五話 御縁叶冬の金魚分析

 俺が答える意志を持って向き合うと、店長は笑顔でカウンターの中に飛び込んだ。アンティーク…

広瀬由衣
1か月前
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「金魚屋の徒然なる日常 御縁叶冬の邂逅」 第六話 石動秋葉の真談

 金魚がいて困ることは、金魚になる夢と、もう一つある。母の異常なまでの過保護さだ。 「小…

広瀬由衣
1か月前

「金魚屋の徒然なる日常 御縁叶冬の邂逅」 第七話 石動秋葉の就職活動

 店長と実家へ行くことが決まった翌日、俺はいつも通りに大学へ行った。一限目から始まり、三限で終わりだ。授業が全て終わって十四時半になると、俺は店長にいわれた『任務』をやりに指示された場所へ向かった。  正門手前を左手に曲がると煉瓦作りの建物があり、半地下に目的の場所がある。授業を終えて帰っていく生徒の波から横に逸れ、七段しかないを下りた。片開きのガラス扉で、人とすれ違うこともできない。半地下なので薄暗くて狭苦しい気分になる。  清々しいとはいえない場所へ入ると、中には高校生く

「金魚屋の徒然なる日常 御縁叶冬の邂逅」 第八話 空飛ぶ金魚を管理する企業

 空飛ぶ金魚の店なんて、なんとなく言っただけだったのに、またも斜め上の回答が出てきた。金…

広瀬由衣
1か月前
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「金魚屋の徒然なる日常 御縁叶冬の邂逅」 第九話 母の虚言

 一人暮らしをする際に、母からいくつかの条件を出された。どれも、俺を遠隔操作するためのル…

広瀬由衣
1か月前
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「金魚屋の徒然なる日常 御縁叶冬の邂逅」 第十話 藤堂叶冬という男

 店長に見惚れていた両親は「お時間があればご挨拶を」と言われて、すんなりと家にあげた。女…

広瀬由衣
1か月前

「金魚屋の徒然なる日常 御縁叶冬の邂逅」 第十一話 魂の片割れ

 玄関を開けて家に入ると、また母がはしゃいで出てくるだろう――と思ったが、存外静かだった…

広瀬由衣
1か月前
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「金魚屋の徒然なる日常 御縁叶冬の邂逅」 第十二話 金魚を食う出目金

 ようやく平日が終わり、土曜日の朝になったら黒猫喫茶へ向かった。  店長は金魚屋の正装で…

広瀬由衣
1か月前
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「金魚屋の徒然なる日常 御縁叶冬の邂逅」 第十三話 もう一人の死者

 母が出産したのは《榊友愛総合病院》という創立五十年を超えた大病院だ。歴史の長さに反して…

広瀬由衣
1か月前

「金魚屋の徒然なる日常 御縁叶冬の邂逅」 第十四話 黒猫喫茶の店長、棗累

 月曜日になり、俺は四限が終わるのを待っていた。梓川はコンピューター系の授業が充実していて、四限はコンピュータリテラシという、コンピュータの基礎知識を学ぶ必修科目だ。授業用ノートバソコンにテキストを表示させているが、読めば解る程度の内容でつまらない。教師の退屈な解説を聞き流し、右肩で泳いでいる二匹の金魚を観察する。  金魚になる夢は二匹が魂を食っているせいだと店長は言う。正直にいえば、そうだろうなとは思っていた。だが十九年以上の共生者には少なからず情があり、苦しむ原因だと判断