カナリヤ
ママの誕生日に、毎年、造花の美しい薔薇が送られてきていた。
薔薇はママの好きな花。
私が、小学校にあがって引っ越しても
パパのママへの暴力は止まらなかった。
ママが、私と弟の手をひいて
私は、夜だというのに何故かランドセルを背負っていた。
どこへ行くのか?ただ、とぼとぼと歩いていた。
川沿いを歩いていたと思う。
ママは、川を見ながら立ち止まって
「死んじゃおうか・・・」
と、ぽつりと言った。
うん・・・いいよ。
一緒に死んでもいいよ・・・
まだ、理解できない弟が、お腹がすいたと言った。
ママは、そうだね・・・
帰ろうか・・・
と、言って家に帰った。
中学生になった私は、もうパパの暴力が許せなくて
なんで、パパと結婚したの?
と、聞くようになった。
ママの両親は、幼い頃に離婚して
ママの母親は、東京に働きに行くために
ママをばあちゃんたちに預けて別々に暮らしていた。
私を、とても可愛がってくれた優しいばあちゃんは
ほんとは、ひいばあちゃんだった。
ママは、中学を卒業したら
すぐに働いて
母親と一緒に暮らそうと思っていたらしい。
でも、ママの母親は再婚した。
ママが、中学生の時。
ママは、裏切られたキモチになって
海に、自殺しに行ったそうだ・・・
私は、ずっと、そこはママの田舎だと思ってたけど
違うんだ、ということに大人になってから気づいた。
ママが、ずっと海を見ていたから
自殺するんじゃないかと心配して声をかけてきた人がいた。
その人は、ママの話を聞いてくれて
死んじゃダメだと説得されて
文通をするようになって
つき合うようになったらしい。
とても、優しい人だったと。
毎年、送られてくる造花の薔薇のプレゼントは
その人からだと、その時、知った。
どうして・・・
どうして、その人と結婚しなかったの?
その人と結婚してたら、幸せになれたよ?
なんで、暴力男と結婚しちゃったの?
その人と、結婚してたら
もちろん、私も弟も生まれていない。
それでも、いいと思った。
私たちが生まれない未来でもいいと思った。
ママは、そうだよね・・・
まだ、若かったから、ただ優しいだけのその人を
フッてしまったんだよね・・・
ママから、フッたのに
その人は、ずっと、ママの誕生日を忘れずにプレゼントを送ってくれる。
その人も、別の人と結婚して子供もいて
幸せに暮らしてると、ママが言ってた。
パパから、もらったのは最初で最後
ママの好きな歌手のレコード1枚だけだった。
それも、つき合ってすぐに買ってくれたもので
結婚してから、一度も、ママの誕生日を祝ったことがない。
ケーキすら買ってこない。
パパと離婚してって、何度も言った。
ママは、お前たちがいるから、ひとりじゃ育てられない。
自分の親が離婚してるから、絶対に離婚したくないと言った。
私たちが、ママの足かせになっているのか・・・
私たちが、生まれなければ・・・
そう・・・
思った・・・
ママが、暴力を受けずに幸せなら
よかったよ・・・
私たちが、生まれない未来でも、よかったよ・・・
ママがいなくなったリビングには
今も、大切に造花の薔薇が美しく飾られている。
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