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【小説】いかれた僕のベイビー #40

 向井さんの部屋を訪れ二人で話をした日の翌日から、オレは自宅に籠って曲作りに没頭していた。
 これまでは仕事の合間に無理矢理曲を作ってきたけど、実験的に楽曲制作のための期間をスケジュールに組んでもらいまずは五日間、ひたすら新曲を考えていた。
 一日目、二日目は順調でこのやり方が自分には合っているかもなぁなんて、調子に乗っていたんだけど、今日三日目の夕方、問題が起きた。
 まずは、食事。籠るためにあれこれ買っておいたは良いけどカップ麺すら面倒で食べる事を後回しにしていたら二日目まではなんともなかったけど、さすがに三日目には体に堪えた。なのにそういう時に限って食べたいと思うのはカップ麺やインスタント食品じゃなくてコンビニでも行こうかと思ったけどもうそんな体力も無さそう。
 それから、食事より体力より圧倒的にオレに足りないのは、潮音ちゃんに会えない事……。
 もう限界だぁ。
 何より、以前この部屋で、あのベッドでキスをしようとしたオレを拒むどころか、Tシャツの裾を握ってきた、あの意図は何だったのか、いまだ確かめられていない。
 単に雰囲気に流されていただけなのか、それとも、潮音ちゃんの中で何かが、変わり始めているのか……。

 そんな事を思いながら少しでも飢えを凌ぐため這うようにして冷蔵庫に向かい水を飲んでいるとインターフォンが鳴った。
 モニターを確認すると、

「潮音ちゃん!?」



 嬉々として潮音ちゃんを部屋に迎え入れる。
 二日間風呂にすら入ってなかったけど、今日の昼過ぎに起きてからさすがに限界でシャワー浴びといて良かった。

「どうしたの?何か急用?」

「いえ、あの、……川西さんに藤原さんの様子を見てきてと言われましたので……」

 なんだ、川西さんの指示か。
 まぁそれでも嬉しいしやっぱり川西さんは良い仕事してくれる。

「……あの、何をどうしたら、こうなるんですか?」

 潮音ちゃんは立ち止まり部屋の様子を見回しながらそう呟いた。
 そりゃ、そうか。
 今オレの部屋は飲みかけのペットボトルやら昨日飲んだ缶ビールの空き缶、適当に口に放り込んだ酒のつまみの袋、三日間で着て脱いだ服、タオルその他諸々が雑多に床に散りばめられている。
 事前に来ると連絡くれてればもうちょっと片付けたのに。

「あー、まぁちょっと曲作りに集中し過ぎて……」

「私片付けるので、藤原さんは引き続き作業しててください」

「あー!いや、片付けはオレがやる!……それで、潮音ちゃんにお願いがあるんだけど……」

 早速ゴミを片付けようとした潮音ちゃんを静止する。

「なんですか?」

「潮音ちゃんの、手料理が食べたい」

 そうすればオレの作業効率は確実に向上すると断言出来る。


 潮音ちゃんがキッチンで冷蔵庫や引き出しを開けては怪訝な顔をしている。

「食事作ろうにも、材料が何も無いじゃないですか」

「オレ料理しないからね」

「……調理道具は、一通り揃ってるんですね」

「あぁ、一人暮らし始める時にうちの母ちゃんが置いていってくれた。ほぼ使ってないけど」

「……他の、女性に、作って貰う事も無かったのですか?」

「この部屋にそういう女の子入れた事ないよ」

「……そう、ですか」

 しばし険しい顔でその場に立ち尽くしていた潮音ちゃんが短い溜め息をつく。
 あれ、もしかして呆れられた?

「買い物に行って来るので藤原さんは部屋綺麗にしておいてください。何か食べたい物とか、好き嫌いはありますか?」

「何でも食べる、けどマジでちょっと腹減って死にそうだからすぐ出来そうな簡単な物で良いし、強いていえば、米?」

「…………わかりました。では行ってきます」

 間が長かったし、なんならちょっと睨まれた?
 図々し過ぎたかな。
 とりあえず言われた通り部屋は綺麗に片付けておこう。


 しばらくして潮音ちゃんが戻って来てそのままキッチンで料理をしてくれている。
 やばい、この光景、幸せ過ぎる、写真か動画に収めていいかな?
 部屋の片付けはあらかた終わったのでオレはギターを手にソファに座って曲作りをするふりをして時々潮音ちゃんの様子を眺めてはバレないようにニヤニヤしていた。
 そして潮音ちゃんが戻ってから三十分もしない内にオレの前に潮音ちゃんの手料理が運ばれて来た。

「……こんな物で良ければ、どうぞ召し上がってください」

「オムライス!オレ大好き、旨そう!いただきます!」

 綺麗に包まれた卵を崩すのなんだが勿体ないけどはやく食べたい。ケチャップで彩られたベーシックなオムライスにがっつく。

「旨い、マジで……」

 三日ぶりにまともに食べた食事が潮音ちゃんの手作りオムライスなんて、嬉し過ぎて涙出そう。

「足りますか?どのくらい食べるかわからなかったので多めに作って、あとお惣菜も適当に買って来ちゃったんですけど……」

「まだ全然食べるられるよ、潮音ちゃんは?一緒に食べよ」

「……はい」

 オムライスの残りと買って来てくれた惣菜をテーブルに並べ、車で来ているからと潮音ちゃんは持参したお茶、オレは缶ビールで乾杯をする。
 真面目に曲作り頑張ってて良かった、最高のご褒美だな。……まだ終わってないけど。

「潮音ちゃん、マジでオムライス美味しいよ、ありがと。ごめんね?急にお願いして」

「……本当ですよ、急に料理作ってなんて言って、冷蔵庫には水とビール以外ほとんど何も入ってないし、簡単な物って言ってお米とか言うし、炊飯器はあるけどお米無いから買い物から戻ってから炊いてたら時間かかるし、結局パックご飯使う事にして、……ちょっと悩みましたよ」

「あ、それで買い物出る前顔顰めてたんだ」

 嫌がられてたわけじゃなかったのか、良かった。けど困らせた事には変わりないな。

「……そんなに顔に出てました?」

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