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【小説】いかれた僕のベイビー #46 最終話

 二年ぶりのフェスを思いっきり楽しもうと早めに会場入りしたので、まずは先にステージ登場する杉浦のバンドをアミちゃん、玉田、そして潮音ちゃんと一緒に観に行く。
 前から思っていたけど、杉浦のバンドはギターボーカルの杉浦を中心に、リードギター、ベース、キーボード、ドラムと五人編成なので音のスケールも大きくジャンルも多彩でとにかく自由で、特にこういういろんなバンドが集まるフェスだと他のバンドとの違いを上手く活かしいつもかなり目立っている。
 あんまりいい曲作ってオレを焦らすなってたまに思う事もあるけど、それでも同世代でお互いをリスペクトし、ここまで刺激し合えるバンドは他にはいない。

「あ、新曲、この曲良いんだよねぇ、杉浦くんにしては珍しくストレートなラブソングで」

 次の曲のイントロでアミちゃんがいち早く反応する。

「あぁ、それだけあいつも落ち着いてるって事だろうね。けど、アミちゃんもでしょ?」

「まぁね」

 嬉しそうに頬を緩める。
 ちなみにアミちゃんの彼氏はこのバンドのドラムで、最近ついに同棲を始めたらしい。

 変わり行くもの変わらないものの中で、みんなそれぞれがそれぞれの想いと夢と幸せを抱いてここまでやって来た。
 良いことばかりじゃなくて、嫌になる事も当然あったし、これまでの道のりは決して平坦ではなくて、そしてそれはきっとこの先もずっと繰り返し続いて行く。
 だけど、オレは一人じゃないから、みんながずっと一緒に走り続けてくれたから、ようやくここに辿り着けた。

 次は、オレの番だ。



 ステージのセッティングとリハが終わりスタートの時間をステージ袖で待つ。
 いつも先にステージに出て行く玉田とアミちゃんはオレたちより少し前でうずうずしながらその時を待っていた。

「……いよいよ、ですね」

 相変わらず、ライブのスタート直前はオレより緊張している潮音ちゃんがステージの方向を見ながら呟くように言う。

「うん。その緊張した顔をこうやって見るのも、これで最後かぁ、……そう思うと、やっぱ寂しいかな」

「……そう、ですね」

「本当に潮音ちゃんにはたくさん助けてもらって、いっぱい力もらって、ようやくここに来る事が出来たよ、本当に、ありがとう」

「いえ、私はマネージャーとして出来る限りの事をやっていただけです。一つ一つ夢を叶えて来たのは、全部あなたの力ですよ。……そうやって、約束通り、このステージにみんなを連れて来てくれた」

「……覚えてたんだ」

「覚えてますよ。……正直、最初はなんだかチャラチャラしてて、いい加減そうな人だな、なんて思ってましたけど、あの言葉とその後にあなたのライブを初めて観て、何の確証も無く、あぁこの人は夢を夢で終わらせず、言葉にしてちゃんと叶えていける人だなって思ったんですけど、……やっぱり間違いじゃなかった。その手助けが出来た事、私は誇りに思います」

「潮音ちゃんがオレを信じてくれたからだよ」

「……え?」

「オレも正直、あの日の潮音ちゃんの第一印象は地味で真面目そうな子で色気無いなぁ、なんて思ってた。……けど、あの時、潮音ちゃんが、いずれはあのステージに行くんですよね?って、当たり前のように初対面のオレに言ってくれたから、絶対にみんなを、潮音ちゃんをこのステージに連れて行くって決めた」

 今日オレたちはついに、この思い入れのあるロックフェスのメインステージに立つ。

「一年待たせたけど、最後に、約束守れて良かったよ」

「………はい」

 会場に流れている曲が変わり、馴染みのSEが大音量で流れ始めると客席から拍手と歓声が自然と巻き起こった。
 まずは玉田とアミちゃんがステージに出て行く後ろ姿を潮音ちゃんと二人で見届ける。

「ちゃんと観ててね、マネージャーとして、最後まで」

「もちろんです」

 いつものように潮音ちゃんの頭をひと撫でして、手を頭に乗せたまま……、

「まぁ、でも次からも一緒に来てもらうけどね、……これからは、オレの家族として」

「……はい」

 オレの大好きな柔らかい笑顔で応えてくれる。

「……行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 唇が触れるだけの軽いキスを交わしてオレは約束のステージへと向かう。
 オレたちの夢に終わりはない。
 この先やりたい事もやらないといけない事もまだまだたくさんあるんだ。
 そのためには形は変わっても、彼女の存在がオレには必要不可欠で、それを守るためにオレに出来る事は結局、歌を描いて歌う事。
 ステージに登場したオレを拍手と大歓声で迎え入れてくれる客席に深々と一礼して愛用のテレキャスターを手に取る。

 みんなごめん、今日だけは、この大きなステージで潮音ちゃんのためだけに歌う事を、許してね。



 ずっと、一緒にいようね……。





《完》





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