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【小説】いかれた僕のベイビー #44

 今、……それ言う?

「ほんと今更だね、この状態のオレにお預け食らわせて今度手加減無しで無茶苦茶に抱かれるのと今おとなしく抱かれるの、どっちがいい?」

 せっかく優しくしてあげようと思ったのに、両腕を押さえ付けたまま手首にキスをし、そのまま強く吸って赤い痕を付ける。
 以前、向井さんに付けられた両手首の縛られた痕はもうすっかり綺麗に消えていた。
 もう片方の手首にもオレの印を刻み付けてから耳から首筋にかけて舌を滑らせる。

「もう一秒だって待てないよ」

 唇で身体をなぞりながら胸まで移動し、ようやく腕を解放して舌と手で両胸を執拗に攻めると、さらに甘い声を響かせた。

「……はぁ……、もう、……ダメ」

「ん、嫌?……潮音ちゃんのおっぱい、サイズも形も感触も感度もすべてが最高でずっと触ってたいんだけど」

 耳元で囁くように言ってから舌先で胸の先端を転がすように味わうと腰をくねらせて反応してくれる。

「……ほら、すごい感じてる、……でも、……コッチも、もう触って欲しいの?」

 片手を下半身に向かって伸ばし下着の上から指の腹でそっと触れると更に身体を大きく仰け反らせた。

「……すごい、もう濡れてる?」

「……や、言わないで……」

 イヤイヤと首を振る仕草が可愛過ぎてやっぱりもっと困らせてみたくなる。
 下着を脱がして直に触ると一度切なげな声を上げた。

「声、我慢しないで、もっと聞かせて?」

 オレの指の動きに合わせて胸を上下させ荒い呼吸をしながらやがて身体を震わせる。

「……イッたの?……可愛い」

 堪らず潮音ちゃんに覆い被さり、素肌を密着させて口内を犯すようにキスをするとオレの背中に腕を回して必死にしがみついてきた。

「……はぁ、……もう、限界、………入れていい?」

「…………はい」


 身体を起こして手早くゴムを装着すると先端をあてがいゆっくり彼女の中に入っていく。

「………全部、入ったね」

 掠め取るように唇にキスをすると、潮音ちゃんはオレと目が合ってふわっと柔らかく微笑んでくれた。
 その笑顔を見て、これまで感じた事の無い、狂おしい程の愛おしさが込み上げてくる。
 セックスの経験は人並みにある。
 人数は多いとは思わないけど、回数はそこそこに。それもどちらかというと経験豊富な女の子を相手にしていた。だから彼女たちとのセックスはそれなりに楽しかったし気持ち良かったけど、こんなふうにセックスの相手が愛おしくて胸がいっぱいになるなんて無かった。
 好きな子とのセックスって、こんなに違うんだな、そんな事もうずっと忘れていた。

 ふと彼女の顔を見ると、瞳からすっと涙が一筋こぼれ落ちる。

「え、どうしたの?………ごめん、痛かった?」

 慌てて身体離そうとしたら彼女の細い両腕が首に絡みついてきて引き止められた。

「や、違う、……このままで……」

「…………でも」

「………大丈夫だから、……その、」

 オレにしがみついたまま上目遣いで顔を覗き込むようにしてオレの様子を伺っているようだ。

「ん?」

「……ううん、なんでもない、です……」

「いや、ちゃんと言って?……言わないなら、止めるよ?」

 そんなのオレが無理だけど。

「やだ、……止めないで……」

 止めたくないよ、だから何かあるなら早く言ってほしい。

「……嬉しくて」

「え?」

「……こんなに、違うんだなって、……こんなふうに、優しく丁寧にして貰った事無くて、……その、き、気持ち、良過ぎて……」

 今、なんて?

「………怒った?」

「え、なんで?」

「……だって、こんな他の人と比べるような事考えてたなんて……」  

 まぁ、潮音ちゃんの場合は該当する相手が一人しかいないからまったく気にならないわけではないが、……とゆーか、これまでどんなセックス強要されてたんだよ。

「全然いいよ、……それに、オレも似たような事考えてたし。それなりに経験してきたつもりだけど、まったく比べものにならない程潮音ちゃんとのセックスは気持ち良い。……むしろ同じように感じてくれてて安心した。……ってゆーか、そんな事言われたらもう、止められるわけないっ!」

 せめて最初くらいは優しくしようと思っていたのにもう無理だ。

「……潮音ちゃん、好き、大好き」

「……あっ、……私も、……藤原さん」

「……大成、……名前で、呼んで?」

「でも、……下の名前で呼ばれるの、好きじゃないんじゃ……」

 家族以外でオレを下の名前で呼ぶのはこれまで優菜だけだった。優菜と別れて以降特に女の子から『大成』と呼ばれる事には軽く嫌悪感すら覚える程でずっと拒否していたけど、自ら名前で呼んで欲しいと思える日が来るなんて。

「潮音ちゃんならいい、……むしろ名前で呼んで欲しい」

「………大成、さん」

「“さん”いらないから」

「……大成……」

「………うん」

「………大成、…………好き」

 やばい、今のは想像以上に心臓にきた。

「潮音ちゃん、……潮音……」

 後はもう、ひたすら夢中で抱き合った。
 体勢を、角度を変えて何度も、本当に何度も。
 それでも足りなくて、一晩中身体を寄せ合っていた。
 心が満たされなくて無駄に求めては余計虚しくなるなんて事も以前ならあったけど、今は心は満たされているのにどうしてこんなに求めてしまうんだろう……。

 夜更かしが苦手で早起きな彼女はオレの腕の中で何度もウトウトしながら、それでもオレと目が合うと嬉しそうに自らオレに腕を伸ばしてくる。
 そんな潮音ちゃんがただ愛おしくて、ずっとこうしていたい。
 ずっと、他人と心で繋がる事を拒んできた。
 どんなに隙間を埋めて身体を繋いでも心は簡単に離れていってしまう。どんなに愛していても所詮は他人なんだからそれを止める事だって出来ない。
 もう誰も愛さなくていい、誰からも愛されなくていい、そう思っていた、はずだった。
 彼女に出逢うまでは。
 恋を知らない彼女に恋をして、彼女を想うだけで胸が苦しくて、だけど愛されたくて、彼女が苦しんでいるなら誰よりもオレが力になりたくて、そんな気持ち、ずっと忘れていた。
 全部、潮音ちゃんが思い出させてくれたんだ。

 例えようのないこの幸せを言葉に出来たなら、すごく良い歌詞が書けるような気がするのに、どんな言葉にも置き換えることが出来ない。
 オレやっぱり作詞の才能ないのかな。
 でもいいや、今日だけは、今日の彼女だけはオレだけが覚えていて、そんな彼女へのオレの想いも誰にも教えたくないから、二人だけの秘密にしておこう……。



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