【小説】いかれた僕のベイビー #37
腕の中の彼女が動く気配で目を覚ます。
ベッドサイドに置いてあるデジタル時計を起き上がる事なく確認するとAM6:52を表示していた。
「……いつも早起きだなぁ、オフなんだからまだ寝てられるでしょ」
「私は休みでも何かとやる事が、そんな事より、起きたのならもういい加減離してください」
「んー、……やだ、もうちょっと」
抱き締める腕に力を込める。
「藤原さん!そもそもなんでまた、一緒に寝てるんですか?」
「……なんでって、また潮音ちゃんが寝ちゃったからに決まってるでしょ」
「なら、起こしてくれたら、もしくはソファにそのまま寝かせておいてくれたら良かったのに……」
「ソファだと一緒に寝るには狭いじゃん」
「なんで一緒に寝る事前提なんですか。……だいたい、何もしないって、言ってたのに」
「……何もしてないよ?」
「してるじゃないですか」
「前にも同じ状況あったんだしここまではセーフでしょ、それ以上は本当に何もしてないよ」
「そういう問題じゃ」
「むしろ自分の部屋の自分のベッドで好きな子と二人で寝てて本気で何もしなかったオレを褒めてほしいくらいなんだけど?」
「何言って……」
「……そうは言ってもオレだって男だし、好きな子とくっついて寝てたらカラダは勝手に反応するしもっといろんなとこ触りたいって思うし、このまま力ずくでどうにかする事だって出来るよ?……で、きっと潮音ちゃんは流されてカラダ許しちゃう」
そう言って服の中に手を滑り込ませて素肌に直接触れると、潮音ちゃんは体を硬直させた。
「……や、……ダメ……」
「けど、心が付いてこないセックスの虚しさはもう充分知ってるから、潮音ちゃんとセックスする時は体だけじゃなくて心も全部欲しい」
手を引っ込めてもう一度背中から包み込むようにそっと潮音ちゃんを抱き締める。
「だからそれまでちゃんと待つよ、これ以上は何もしません、……今は」
そう付け足しておく。
「………あの」
「ん?」
腕の中の潮音ちゃんが体勢を変えてオレと潮音ちゃんはベッドの上で向かい合う形になった。
そのまま潮音ちゃんが何か言いたげにオレの顔をじっと見つめてくる。
待つって、何もしないって言ったばかりなのに、ちょっとマズイかも。
「……いえ、なんでもないです」
「いや、そんな顔されてなんでもないは無い」
「……もう、帰ります」
「ダメだって」
起きあがろうとした彼女を静止し引き寄せて向かい合ったまま抱き合う形になってしまった。
「もうちょっと、一緒にいて?」
こんな機会次はいつあるかわからないんだ。
もう少しだけこうしていたい。
オレの腕の中で身を固くしながらも嫌がる素振りもなく潮音ちゃんは大人しくオレに抱き締められている。
「……なんだか、余裕ですね」
「え?それ潮音ちゃんが言う?」
「だって……」
「さっきから、ってゆーか昨日からずっとドキドキしてるし、オレもういろいろギリギリなんですけど?」
「……とてもそんな風には」
「……わかってないなら、もうちょっとわからせてあげようか?待つって言っても、オレにも限界があるよ?」
身体を起こして潮音ちゃんの顔の横に手をつき覆い被さる。
「余裕なのは潮音ちゃんの方じゃん、こんな事されても平気な顔して、嫌ならちゃんと拒まないと、……これ以上は何されても文句は言えないよ?」
そう言ってもう少し顔を近付けても拒むどころか身動き一つせず息のかかる距離でオレを見つめ返してくる。
「……藤原さん、あの、……私」
目を逸らす事なく何かを訴えかけるように口を開くと、彼女の手がオレのTシャツの裾をキュッと握り締めてきた。
我慢なんて、もう、無理だろ。
ゆっくりと、さらに顔を近付ける。
それでも潮音ちゃんは動かない。
唇が触れるまで、あと数センチ、……その時、
「………!」
ソファに置きっぱなしにしてあった潮音ちゃんのバッグの中でスマホが鳴っている音がする。
我に返ったオレが潮音ちゃんから離れると彼女もすぐに起き上がりスマホを取りにソファへ行く。
「………電話?」
誰だよこんな時間に、……まさか。
「はい、……あ、川西さんからです、……はい、折坂です、おはようございます」
チーフマネージャーの川西さん?
今日はオレたちメンバーはもちろん、マネージャーの潮音ちゃんも川西さんも休みのはずなのに、朝の七時に何の用だ?
「……はい、大丈夫です。…………はい、………え?」
川西さんとの電話の最中、潮音ちゃんの表情が一変する。
そして、その電話で告げられた内容が、オレたちを取り巻いていた状況を大きく変える事となった……。
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