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フォーカシング ―やさしさの関係に包まれる体験過程― その1

「フォーカシング」とは、自分にやさしく接触(コンタクト)する態度で、自分の身体に注意を向け、「フェルト・センス」と呼ばれる、言葉になっていない、微妙で意味を含んだ身体感覚を丁寧に感じて、それを言葉で表していくプロセスです。

フォーカシングの創始者ユージン・ジェンドリンは、シカゴ大学のロジャーズの元で学び、ロジャーズの研究グループによるカウンセリングの成功と失敗の比較研究に参加し、この研究から、成功と相関性があるのは、クライアントが「何を」話したかではなく、「いかに」話したかであった、という結果を得ました。

カウンセリングで成功したクライアントは、どのように意識が変化していくのか?

成功したカウンセリングでは、クライアントが話をする時、一度自分の内に向かって自分の感覚を確認している――自分との内的対話をして、今、ここに生起する心身の感覚を感じながら、言語化しようとしている作業を行っており、彼はこのプロセスに着目し、この体験過程を促進する方法として「フォーカシング」を開発しました。

ジェンドリンのフォーカシングもロジャーズの「クライアント中心療法」がベースにあります。クライアントの中心――今の自分がいる状況を身体の感覚としてどのように受けとめ、どのように体験しているのかは、そのクライアント独自の体験の仕方であり、その体験過程を中心に置くというものです。

今回、フォーカシングの概要や方法は割愛していますので、方法等が記載されているサイトを参考に挙げておきますね。
日本フォーカシング協会
池見陽先生のサイト(オンライン・マニュアル)
ザ・フォーカシング・インスティチュート(TFI)The Focusing Manual
フォーカシング(仙台心理カウンセリング)

今回の記事の参考資料です。

・「心のメッセージを聴く」池見陽(講談社現代新書 1995)
・「僕のフォーカシング=カウンセリング」池見陽(創元社 2010)
・「ロジャーズ―クライエント中心療法の現在」村瀬孝雄/村瀬嘉代子(編集)(日本評論社 2004)
・「フォーカシング入門マニュアル」アン・ワイザー コーネル(金剛出版 1996)

フォーカシングの体験過程

ジェンドリンから薫陶を受けた日本のフォーカシング第一人者である池見陽さんは、最初から理論やテクニックの解説書ではなく、まず体験をお薦めすると言われています。
本当にその通り!
先にあまり頭に理論を詰め込みすぎず、まずは体験するのが一番。
フォーカシングは、まさに、今、その場で生起する感覚(フェルト・センス)をありのまま実感することができるか――そこが要諦だと思います。

フォーカシングを取り上げたのは、
池見さんの言われるように、フォーカシングでは「心の実感」を「感じる」「話す」「聴く」という、最も身近な行為により実践可能な技法だからです。

この情報過多の時代に生きていると、常に思考・観念で頭をフル稼働し、身体として体験している感情や感覚は意識下に抑え込み、日常のタスクに追われながら過ごしています。
こうした日常で遭遇する苦悩や問題に対して、どうやって対応したらいいのか――?
さらに情報や知識を詰め込み、さらに思考を駆動させるより、
フォーカシングのように、外側ではなく内側に意識を向けて自分の「身体」の感覚に触れてみること、フェルト・センスを感じ、そのメッセージを傾聴してみる
そして、その実感に触れ続けて、開かれるとき、知識を超えた「知恵」が現れてくる自分の本質に沿った生き方を実現できる力を取り戻していく、という心の成長過程を重視して実践していくことが、今後重要になってくると思います。

わたし自身、日々の内省時間にセルフ・フォーカシングを取り入れてみて、とても良かったと感じています。もちろん、すぐにプロセスが進むというわけではなく、難航することも多々あります。。
日常生活の中で思考を鎮め、静かな時間をつくり、
やさしく「わたしは、何が気になっているの?」と問いかけて傾聴する、身体に意識を向ける――こうした意識的な行為の積み重ねで、自分自身との関係性が深まっていることが実感できます。

やはり、痛みや不快な感覚として現れている場合、早く消去したい!解決したい!と焦りが出てしまいがちですが。。
フェルト・センスは、自分の今の状況や人生経験と何か関連がある、意味を含んでいる感覚です。
フィルト・センスを怖がらずに、自分に何か知らせようとしていることがあると、友好的に接することがプロセスの展開の鍵となる、ということです。

やさしさ1

やさしさに満ちた内的関係を形成すること

池見さんは、フォーカシングも含めて内面を観察する際に、自分の内面には嫌なものがあると思い込んでいる場合、その通りに体験することがある、
そのため、フォーカシングや心理療法で「自分の嫌な部分を直すという認識はもたないこと」である、と言われています。そして、そのためには自分に対するやさしさが必要ということです。
確かに、過去の自分を振り返ると、自分を変える=嫌いな自分を修正して、好きな自分になる、という自己否定が潜んでいました。。自分の影(シャドウ)も受け容れていく過程が大切なのですよね――
以下に、池見さんの言葉を紹介します。

カウンセリングやフォーカシングが育もうとしているのは、まさに「やさしさ」そのものであるかのように思えた。
ロジャーズのカウンセリング論における三条件は、クライアントとの関係において「やさしさ」に満ちた関係を築いていくために必要なのである。
フォーカシングでは、さらに一歩進められている。
そこでは、カウンセラーとクライアントの関係がやさしさの関係に包まれるだけでなく、クライアント自身の中でフィルト・センスや内面的な体験全般に対して、やさしく接していくことが求められるのである。
このような「やさしさ」に満ちた内的関係が形成されていくからこそ、自分自身が自分のカウンセラーになっていくのである。

こうして自分との内的関係性が成立していくと、潜在的な創造性や知恵が徐々に解放されていく。
本当に、この「やさしさ」は重要な鍵になるのですね。
実際に、フォーカシングをされてみるとわかると思います。
自分に語りかける時の自分の態度、在り方は、フォーカシングのプロセスに影響します。

わたしも、まず自分自身の「声」にとても気を遣うようになりました!
どのような「声」の質で、どのような「言葉」で問いかけられると、自分は安心するだろうか。
そして、「待つ」という行為――信頼して待つこと、傾聴することは、忍耐を伴う「やさしさ」だと思います。
まだまだ納得いくようにはできませんが、続けていると、何らかの手応えがあります!長い道のりではありますが、今後も続けていきたいと思います。

また、セルフ・フォーカシングと、カウンセリング・フォーカシングはそれぞれに気づきがあり、わたしは両方ともに大切だと思います。
フォーカシングは奥の深い技法ですので、また数回に分けて記事を書きたいと思います。

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