短歌 2023年12月 44首

暗闇で炎を抱いた一瞬が暖かいなら死んでもいいよ

こんなにも壊れやすいと知ってたら見ているだけで幸せだった

粉吹いた電池を捨てずとっておく君の見せる残酷さが好き

陽が昇り沈んだ後と君と会い別れた後は両方暗い

気付いたら枯野に花が咲いている気楽な夢を種も蒔かずに

ハッピーにラッキーだけが人生だ なんて月夜にホッピー飲んだ

目覚めたら何も言わずに降りていた薄情ものと夢見たいつか

沈黙に電子レンジが鳴ったからその場を離れることができた

ダイヤルを1から順に回したらいつかは開く箱を見ている

どうしたら泣ける? 泣けたら前向ける? 答える僕はここに残るね

なんとなく生きてきたのにふと急に手を握るなよ恋しちまうよ

いなくなる前の最後の鳴き声を忘れないよに今日もまねして

煮崩れたじゃがいもの角の数だけ諦めてきた夢もあるよね

ああ言えばこうと返してくる君に「はい」と言わせてみせるリングだ

雨粒でいいから下を向いた彼女の顔を上げてよ神様

降り立って胸いっぱいに吸い込んだ空気がしみるふるさとの駅

静寂に時計の針の音がして君をなくしたことがわかった

目を逸らしこたつの中で触れる足その指先が一番熱い

「もういいよ」口に出さずに隠れてた私のことを君は見つけた

車窓から見える景色が変わってもずっと心に君はいるから

All I want is you ささやいた 聞いてる君の英語は1だ

今だけは座高が高くてよかったと思う右肩もたれる寝顔

世界が明日終わるから言うよ世界で一番きみを愛してる

開いたら折り目がついてしまうから閉じたページをまた開く夜

友情と恋を隔てる縁石をそろそろ降りる時が来たのね

さよならにイミテーションの花束で「だいっきらい。」とカードを添えて

もみの木のてっぺん星を突き刺した背伸びの君が一番星だよ

黄昏を前を行くからついてきて長い夜にも朝は来るから

ワンカット月のない夜笑う君オリオンの砂時計よ止まれ

自販機が暴力的に吐き出したあたたか~いが欲しい夜も末

くさはらに君と寝そべる一日がなんでもないけどなんでもある

なんだってやれるんだって見せてやるでもちょっとだけ眠ってからね

ふと君の驚いた顔見たくって最終電車に飛び乗ってみる

ねえどんなものでも切れるはさみなら私の髪ごと未練を切れる?

Waiting for love 暗い宇宙を行く小さな鉄の貴方さながら

幸せの詰まったようなカゴを見て空っぽのカゴを見栄で埋める

朝露に濡れた草木のかたわらで頬を濡らした君はいつから

諦めて笑うあなたを見た僕があなたで笑うことはもうない

飛ぶ鳥を見て憧れた僕たちは上手に羽を畳めず死んだ

前を見た私の背中にあなたから責任の無い言葉が刺さる

飲みかけのペットボトルに差し込んだ光も溶けて腐ってゆくんだ

歩くことに疲れたからいっそもう涙で海にしてしまおうか

もう二度と言わないと決めた言葉を言いたくなるあなたを見てたら

出し抜けに夜の東で鐘が鳴る 消えゆく今を打ち付けるよう

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