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変な人たち。

近所のディスカウントショップでお会計をしてたら、私の前ですでに会計を済ませた女性がいきなり声を張り上げた。
「聞こえなかったのかな!?スプーンが1本欲しいんだけど!」

怒りの矛先は、既に私の商品のレジ打ちに取り掛かった若い男性店員だ。風貌からしてなんだか学生っぽい。女性に突如大きな声を出されて、その彼は少し狼狽の色を見せつつ、スプーンを1本差し出した。
差し出されたスプーン(アイス用の木製のやつ)をぶんどるようにして女性は受け取り、彼女の隣では息子らしき少年が無表情で会計済みのカゴを運び出していた。

スプーン下さい、と言ったのだろうがその声が店員に届いていなかったらしい。にしても、スプーン1本でそんなに怒ることかねと私は財布からクレジットカードを取り出す。

変な人だなぁと思いつつ、ふと今までの変な人が脳内に蘇ってきた。

◆お誕生日がどうしても知りたかった人
2、3年前のことだったか、駅のホームでベンチに座って電車を待っていたら、痩身の坊主頭の中年男性に「誕生日いつ?ねぇ、誕生日いつ?」と顔を下から覗き込まれながら何度も聞かれた。

誕生日?なんで?

いきなりお誕生日を聞かれて私は頭が真っ白になった。
あぁいう時ってどう対処したらいいのかわからない。
無視がいいのだろうか。でも無視してその場にいるのも気まずいのでその場を立ち去ったほうがいいのだろうか。だが、無視してその場を立ち去ろうもんなら、追っかけられて刺されるのではという懸念もある。きっと、動機は「無視されたから」とか言うやつだ。
かといって素直に答えたとて、ズブリ、とナイフで腹部を簡単に刺せそうな接近戦状態でその場に安易に留まっておいていいものだろうか。

ほんの0.数秒の間にそうぐるぐると考えた結果、私は率直に「〇月〇日です」と自分の本当の誕生日を答えてしまった。
「へぇ、そうなんだぁ」
と男は立ち去っていった。なんだそれ。


◆回転焼きが食べた過ぎる人
学生の頃3年間和菓子屋でアルバイトをしていた。
おはぎと回転焼きがその店での主な売り上げを占めていて、私はその販売をする担当。
回転焼き、というのは冷凍食品でも売っているようなアレで、今川焼だとか大判焼きだとか呼び名は様々だがメジャーな和菓子である。
中身は粒あん、白あん、カスタードの三種で、一番売れるのはやはり粒あんだ。そしてとにかくこれが寒くなってくると飛ぶように売れるわ売れる。片田舎の小さなショッピングモールの一角にずらりと行列が出来るのだ。
そんでなぜか来る客来る客のキャラが濃い。

「5個買ってんのに割引とかないワケ?」
そんなジャパネットたかたみたいなシステムは残念ながらない。5個買ったら1個ついてくる的なやつのことかな。
でも、スーパーで「魚どれでも3パック買ったら1000円」には助けられたことはある。単品600円やら700円ばっかりのものを選んで買ったりした話はどうでもいいか。
でもこんなのまだかわいいほう。

「チョコ3つ」
「すみません、中身はこちらの三種類でして……」
「なんでだよ!二度と来るか!」
チョコがないことに突如キレる人。ないもんはない。

「ちょっと焼きたてが欲しいんだけど。どれ?これ?」
ガラス越しに手を伸ばし、焼きあがった売り物の回転焼きを直に素手で触ろうとする人。案外このタイプの人は数人いた。焼いている店長がブチ切れる案件。

「これ冷めてるじゃん。返す」
ひとくち齧った回転焼きをそのまま差し出して返品する人。もちろん返金。

「1個だけやし。並ばんでいいでしょーが」
10人近い行列を目の前に、平気で行列の反対側から100円玉を1枚指し出してくる人。もう保育園からやり直してほしいレベル。

「えぇーー。もう売り切れちゃったじゃーん!最悪!」
ラスいちのカスタードを目の前で買われた腹いせに、会計中のカスタードゲット者を前にわざと聞こえるように言う人。


みんなそんなに食べたいんやなぁとぼんやり考えながら、黙々と注文を取り、回転焼きを包み、レジを打つという作業を私は延々と繰り返していた。
時給安かったなぁ、あの店。


◆人のものが欲しい人
中学生の頃、何人かのお弁当が何者かに食べられるという事件が数回起きた。どうやら体育なんかで教室に誰もいないときに犯行に及んでいるらしかったその事件は、完食はせずにつまみ食い程度で何人もの弁当をつまんでいるという手口だった。そしてそれはやがて私にもやってきた。

昼時になって弁当袋をカバンから取り出すと、すぐに異変に気が付いた。
丁寧に風呂敷は結んである。しかし、几帳面な母親がやるともっとぴったりきっちり結ばれているはずの結び目がやけにヨレているのだ。
「あっ」
弁当箱を開くと、メインだったのだろうと思われるおかずだけが食べられていた。

あちゃー。ついにやられたか。

白飯は食べられてなかったのでもう食べてしまおうか、と思っていたら「やめときなよ」と友達に止められた。
私のほかにも数名、ほかのクラスにも食べられた子はいたようで、先生たちは飽きれた顔をしていた。

田舎町やけんこんなことがあるんやろうか。

そんなことを考えながら配給のようにほかの子に交ざって並び、先生が買ってきたコンビニのおにぎりひとつ受け取った。

弁当全ておじゃんになったのに、おにぎりひとつってわびしいなとも思いながら。
私がこの「弁当つまみ食い事件」を思い出したのはそれから6年後のことである。


「お金、結構取られてる子多いらしいよ」
そんな話を友達から聞いたのは文化祭の練習をやっていた秋口の頃で、その日も披露する予定のアカペラの練習かなんかを講堂でやって教室に帰ってきた時だったと思う。

えー、まじかと思いながらも念のため自分の財布をチェックする。

「あっ」

またもややられた。

財布に5枚入れていたはずの1000円札は2枚しか入っていなかった。
全部抜き取らなかったのは罪悪感からか、はたまたバレないように全部は抜かないという手口なのかはわからないが、もともとケチ臭い性根の私はすぐに気が付いたのだった。
もうここまでくれば立派な窃盗罪である。

田舎だろうが街中だろうがどうやら関係ないようだと「弁当つまみ食い事件」を私は思い返しながらそう思った。


……

そんなこんなでほかにもいろんな変な人には遭遇しているわけだけど、きっと私も誰かに変な人だと思われているに違いない。



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