仕方なかったことなんて、ひとつもない。 『プラダを着た悪魔』
メイクアップアーティストの小田切ヒロさんがYouTubeの中で、「新人アシスタントには必ず『プラダを着た悪魔』を観るように言っている。あれこそまさにアシスタントの仕事」と言っていたので、久しぶりに観てみた。
ジャーナリストを目指してNYにやってきた、主人公のアンディ。
一流ファッション誌「ランウェイ」の編集長ミランダのもとでアシスタントとして働くのだが、鬼のようなミランダに朝から晩まで無茶振りばかりされる。
一生懸命頑張ってるのに認めてくれない。
自分はこんなにも努力しているのに。
無茶振りや意味があるのかわからないことも、たいして教えられないまま放り出されてできないと怒られる。
そんなの理不尽だ。
そう嘆くアンディに、良き相談役であるナイジェルは言う。
「じゃあ辞めなさい。あなたのかわりは5分で見つかる。あなたは頑張ってない、ただ愚痴を言っているだけ。ここで働けるなら命を捧げるという人がいる、そういう場所なんだ。」
私が憧れた世界は、まさしく『プラダを着た悪魔』の世界だった。
きらびやかな憧れの中に身を置くことに誇りを持ち、毎日の激務を
遥か遠くの希望を胸になんとか乗り切る。
とにかくがむしゃらに喰らいつく姿を見て、これが仕事というものだと教わった。
大好きな作品なのでもう5回以上見ているが、
今回印象に残ったシーンはこれまでとは少し違った気がする。
①自分のもとを去る人あなたへ 背中を押すという愛のカタチ
ジェーン・スーさんがポッドキャスト「OVER THE SUN」の中で
「あれはミランダとアンディのラブストーリーだよね」と語っていたのを聞いて、そういう見方があったのか!と目を丸くしていた私。
改めてその視点で見てみると、ミランダが「あなたは私に似ている」と
アンディに言った後、「あなたのようには生きたくない」と言われたショックがデカすぎる…。
唯一信頼できると思ったアシスタントに別れを告げられる、
というか何も言わずに突然自分のもとを去っていったアンディ。
後ろにいないアンディを探すミランダの姿が寂しい。
しかしその後、ジャーナリストになるために面接を受けたアンディは、
自分がミランダから高く評価されていたことを聞かされる。
ミランダは、アンディが自分のもとを去ってもきちんとその頑張りを認め、アンディの望む道を進めるよう、背中を押してあげた。
恋人のようにお互いを見つめ合うことはなくとも、
別々の方向を向いて頑張る相手に敬意を払う、そういう愛なんだと思った。
②仕方なかったことなんて、ひとつもない
先輩アシスタント・エミリーに代わりパリに同行しなさいと命じられた
アンディ。
エミリーに申し訳なく思い断ろうとするが、
「将来のことを考えてないのね。ここでも、他所でも」
と言われパリ行きを決める。
アンディが恋人や友人との約束に遅れる時、
そしてエミリーにパリに行くのは自分だと説明する時、
彼女はいつも「仕方なかった」と言う。
「仕方ない」って、言う側にすればちょうどいい言い訳なのだ。
自分が決めたんじゃない。そうしなさいって言われたんだもの、
と逃げられるから。
「でもあなたはエミリーに言って、パリに来たんでしょう。」
ミランダはこの言い訳をズバッとぶった斬った。
誰かにそう言われたとしても、選んだのは私。
行先を決めて行動したのも私。
じゃあもうそれは、仕方なかったじゃないよね。
自分が決めたならその責任は私。
ましてや自分の人生、自分以外にだれも責任なんて取ってくれない。
『プラダを着た悪魔』は相変わらず私の憧れの世界だし
オープニングの曲を聞くだけで毎回ワクワクする。
でも今回は憧れだけじゃない、私の生き方に喝を入れてくれた気がした。