ついに呼吸が切れて、耳が聾されてしまいそうなくらいにカーンと冴え渡った冬の空気が肺臓につめたく刺さってきた。倒れこんだ雪の中で心臓がどかどかと傷んだ。白く廓寥たる空にはぼっかりと抉られた三日月が高貴な月白の微笑みをうかべていて、雪の野はその下できらきらと上品な白金色をひからせていた。それは死を柔らかく包む、慈しみの白だった。その白の中で、裾野に立ちならぶ真木のシルエットの墨色が一層強く際立っていた。
不意に、私は白と墨だけで描かれた水墨画のような寂寞たる雪の野が、仄かに舂く斜日の優しい赤白橡にゆっくりと染まって行くのに気が付いた。蕭条たる雪白は、秘密を明かすかのようにそっと色調をかえていった。そのコントラストが私の瞼をとじた。