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本屋大賞は裏切らない話〜「お探し物は図書室まで」を読んで〜

小町さんに会いたい。会って人生相談、いや人生が変わるほどの本をおすすめしてもらいたい。

小町さゆりさん。2021年本屋大賞の第2位に選ばれた作品「お探し物は図書室まで」に出てくる登場人物のひとりです。

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本屋大賞って?」という人に説明を少ししておきます。

「本屋大賞」は、新刊書の書店(オンライン書店も含みます)で働く書店員の投票で決定するものです。過去一年の間、書店員自身が自分で読んで「面白かった」、「お客様にも薦めたい」、「自分の店で売りたい」と思った本を選び投票します。
出典:本屋大賞

全国の書店員さんが選ぶ作品、つまり本についてのスペシャリストが自信を持っておすすめするものが本屋大賞にはつまっているんです。

今回は小説好きな私が「うわ、久々に鳥肌が立つくらいの作品に出会った……!」と、読み終わってから感動の余韻がおさまらなかった作品を紹介します。

本にいちばん近い人が選ぶからこそ信頼できる

みなさん、本は好きですか?本といっても小説やエッセイ、生活や暮らしに関する実用書、スポーツなどの専門書、ビジネス書、漫画に絵本……と、ジャンル分けすると多種多様です。

これまでは小さい頃に絵本、学生時代には村上春樹の作品にどっぷりハマり、そのあとは作家にこだわらず気になる作品があれば読んでみるというかたちで本と関わってきました。

今回おすすめしたいのが、作家・青山美智子さんが書いた「お探し物は図書室まで」。本屋大賞に選ばれたのをきっかけに知った作家さんで、読む前は文章の特徴や雰囲気は全く知りませんでした。

手にとるきっかけになったのが、本屋大賞です。毎年4月頃に受賞作品が発表され、本屋に足を運ぶと入り口の目立つ場所や、大きくスペースをとって売り場に並んでいるのが目に入ります。

本屋大賞に選ばれた作品が並ぶ棚の前に立ち、タイトルと本の表紙に惹かれて手にとってみました。図書室という懐かしい響きに、積まれた本の上に置かれた小物たち。

本の帯には書店員さんからのコメントがいくつか載っていて、温かさや優しさ何度も泣いたすべての働く人たちにおすすめ、といった内容が書かれていました。仕事の休憩時間に立ち寄った本屋で「これだ!」と思いました。私にとってぴったりかも、と迷わず購入。結果、大当たりでした。

本をきっかけに人生を見つめなおす

背景

作品は短編が集まったオムニバス形式で、年齢も性別も違った人物たちが登場し、同じ図書室を訪れることをきっかけに物語が動いていきます。

そしてどの短編にも出てくる重要人物、司書である小町さゆりさん。司書は本に関する業務を行う専門の職員で、たとえばタイトルがわからなくても内容などの断片的な情報から探している本を見つけてくれます。

小町さんは主人公たちが図書室に訪れると、「何をお探し?」と毎回聞きます。それからものすごい速度でパソコンのキーボードを叩き、該当する本の情報が印刷された紙と一緒に渡してくれる付録。読んでいくと、小町さん手作りの付録は欠かせないアイテムになっていることがわかります。

どの話の主人公にも共通しているのが、毎日を普通に生きている身近にいそうな人物だというところです。なんとなく就職した会社で働きながら今後について悩む21歳の女性から、定年退職により会社員ではなくなった自分と初めて向き合う65歳の男性までさまざまな人間模様が描かれています。

誰もが一度はこういう経験があるだろうな、と共感する部分が多く、よりリアルに感じられる物語になっています。とくに細かい感情描写にはつい感情移入してしまい、どのストーリーも涙なしには読めませんでした。

年齢も性別も違う主人公たちがそれぞれ自分の人生について悩み、小町さんからすすめられた本をきっかけに人生を見つめなおします。世代が違うからこそ主人公に自分を重ねて過去を振り返ったり、未来の自分に思いを馳せながら私自身も人生について考えられるきっかけをもらいました。

自分らしく生きるということ

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この本に出会ったとき、今後の人生について一番悩んでいるときでした。この2年ほどで世界ががらりと変わり、生活環境が大きく変化した人も少なくないと思います。そのなかで必死に生きようと、でもどうすればいいのかわからない人にとって「自分だけじゃないんだ」と偶然にも思わせてくれる作品でした。

フィクションだけれどきっと多くの人が感じていることを、物語にしてわかりやすく伝えてくれた作品に出会えてよかったです。本をなかなか読む機会がない人にも、少しでも人生について、自分自身について考えていることがあればぜひ読んでもらいたいです。

そして本を身近に感じたり、本屋に行って自分の好きな作品に出会ったり、本を通してみなさんの生活が豊かになるといいなぁと思っています。

本屋大賞でこの作品を投票してくださった書店員さん、素敵な作品に出会わせてくれてありがとうございます。


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