見出し画像

「コイザドパサード未来へ」 第20話

桜が散る頃に、僕たちは中学3年生になった。
義務教育最終学年、受験生だ。

アキラにはもうすぐ弟が生まれる。

学校へ向かう途中、半歩先を行くアキラに聞いてみる。

「弟が生まれたら会いに行くの?」
「まだ決めてない。どうしたらいいか、分かんないよ」
「そうかあ」

アキラは言わなくても分かっているだろうけど。
自分の気持ちに従って、後悔のないようにね。
僕はアキラの背中に向かって、心の中でそっとつぶやく。

道路の端には散った桜の花びらが群れをなして、息を潜めている。
春が終わりを告げているようだ。

^^^^^^^

週末、興奮したアキラから電話がかかってきた。
いつもより声がうわずっているので一瞬、何事かと思った。

「とうとう生まれたって!生まれた日、いつだと思う?」
「4月12日?」
「違うよ。4月15日。ミライと同じ誕生日たったんだ」
「そうなのか。おめでとう」
「すごいことだよ。もうこれは兄弟仲良くしなさいね、っていうお導きのようだよな、神様の」
「そうかもね」

神様がどうしていいか分からないアキラに、ミライと同じ誕生日を弟に授けてくれたという解釈だった。
僕はただの偶然だと思うけど。本当に単純なやつだ。
でもそれでいい。

僕と同じ誕生日に生まれたことがきっかけで自分の心に従うことができたんだから。
人生のこっちだよ、という神様のサインに気づけたのかな。
それを縁というのかなあ。
そうだ。アキラと弟にはきっと何かしらの縁があるんだ。
兄弟なのだから。

多分というか、絶対にアキラは弟をかわいがる。
これは予言のようだが、断言できる。
年の離れた弟はかわいいに決まっているし、僕と同じ誕生日なんだから、
余計にかわいいはずだ!

^^^^^^^^^

あれから僕たちは中学最終学年を満喫している。
1学期の初めの学校は何かと忙しく、新しいクラスにもようやく慣れてきたところだ。
僕とアキラはまたもや違うクラスだ。

アキラは弟の面倒を積極的に見ているため、時々、僕の誘いを断ってくる。
なんてつれないやつなんだ。
弟に会うか分からないって言っていた人と同一人物とは思えない。
小さな赤ちゃんはとにかく毎日一緒にいたいほど、かわいいらしい。
そりゃそうだろうよ。

ちなみに弟の名前は春陽(はるひ)。
4月生まれの代表のような春ネームである。
春の穏やかな太陽の光に照らされている情景が浮かぶ、そんな名前だ。

いつもの朝、通学路
昨日夜明けに雨が降ったので道路は濡れている。

遠くの道路の端で、手を挙げるアキラが見える。
1年後も僕たちはこうして一緒に学校へ行くのだろうか。
同じ高校を目指しているので来年もこうやって一緒に通学しているのかもしれないなあ。

家族の話もいいけど、高校生になったら、好きな人の話とかしてみたい気もする。
コイバナってやつ? やっぱり恥ずかしいからやめておこう。
やばい。いろいろ想像したら、顔が緩んでしまう。

アキラにハイタッチして、横に並ぶ。

「何ニヤニヤしているんだよ。朝から気持ち悪いぞ」
「何でもないよ。ちょっと未来の妄想」
「何だよ、それ。早速ダジャレか?
 とうとうミライは老成してお爺ちゃん化が始まったか」
「赤ちゃんを猫可愛がりするアキラほどじゃないぞ」

こうやって憎まれ口を叩きあうのは僕たちらしい。

もしいつか、好きな人が出来たら、一番にアキラに言おう。
少し照れるけど、相談したら真剣に答えてくれそうな気がする。

^^^^^

時々、僕たちが見たあの光の点を考える。
あの点は家族を繋ぎ直すために僕たちの前に現れたのではないか?

アキラはこの世の中には解明できないことがたくさんあるから
無理に分かろうとしなくてもいいのでは?と言っている。
意外とクールな性格だ。
そうだよな。この世界には説明できないような超常現象や不思議なことが起きたりする。
分からないことはわからないままで、自分なりの理由や意味を見つけたっていいのかもしれない。
心が軽くなるなら、自分に都合良く解釈してもいいんじゃないかな。

光輝く金色の点はもうどこにもない。
過去を振り返ることはあっても、もう過去には戻らない。
僕たちは今を生きる。後悔をしないように。
明日は今日よりいい日になるって思えるように未来へ少しずつ進む。
今も過去も未来へつながっているから。
こうしている今も1秒後にはすべて過去になるのだから。

ハッとして前を見ると、アキラが5歩くらい先を進んでいる。
僕は慌ててアキラを追いかけるように走った。
「少しは僕のこと待ってよー」と叫びながら、距離を詰めていく。

雨で濡れたアスファルトにキラキラと反射した朝日はまぶしく、
いつもより世界が綺麗に輝いて見えた。


(つづく)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?