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#6 raindrop-揺れる心


--揺れる心

「いってきまーす」

父親に挨拶をして家を出るその姿は、以前のような暗い雰囲気とは一転していつもの明るい彼女に戻ったようだ。

今日は休日、彼女はデパートに洋服を買いに行こうとしていた。
楓にも以前この日、デパートに買い物をしに行くから付き合ってほしいと連絡したが別件で行けないと断られてしまった。

以前の彼女だと落ち込んで悲しい表情を見せるが、楓と買い物をした一件以降悲しい表情はあまり見せなくなった。

理由は明確で、楓と二人で買ったストラップ。

「(あんまり最近、春香と喋れてなかったし、遊びにも頻繁に行けてなかったから。そのお詫びもかねて…私たちはずっと一緒だっていう証明で!)」

カバンに付いたストラップに目をやった。

「(…このストラップがあれば、私たちはどこにいても気持ちは伝わってるよね?)」

ストラップが光の反射でキラリと光ったのを見てまるで返事をされたのかと思い、ニコッっと微笑みながらショッピングモールへ向かった。

お目当てのお店に到着すると、店内をグルっと一周して物色をするものの、気になっていた洋服は既に売り切れていたようで、ありゃー…と小さく独り言につぶやいた後、店員に声をかけられるのを避けながらお店を出た。

「(うーん、どうしよう)」

同じフロアを目的もなく歩いていると、1つのお店が目についた。

「(あ、このシュシュかわいい)」

店前の展示されているシュシュを手に取り眺めていると、ふと楓の顔が目に浮かぶ

「(これ、楓ちゃんに似合うかも。)」

思えば春花自身、楓に対して誕生日以外で何か物をプレゼントした事がない。

「(このシュシュ、楓ちゃんが付けたらきっと可愛いな…)」

もし楓がこのシュシュを着けたなら、と想像してみる。
このシュシュをあげた時の楓のリアクション姿。
陸上の際、このシュシュで髪を結んでいる姿。
普段は腕などに巻いてオシャレにしている姿。
なぜかそのまま春花と裸同士でベッドインしている楓の姿。

「(って、ラストのは無し無し!全然関係ないじゃん!)」

首を横に振って想像を掻き消す行為をした後、そのシュシュを手に取りレジに向かう。

「(ふふっ、よろこんでくれるといいな。)」


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買い物を済ませて帰ろうとした後、デパートを出ると見覚えのある姿が遠くに見えた。

楓の姿だった。

「(あ、楓ちゃん。楓ちゃんも用事って言ってたもんね、)」

「(声かけて驚かせちゃおうかな?)」

普段、自分があまりしない行動をすると予想もつかない事が起きるというのはよくある事で。
その事に対して何故か今妙な自信に溢れている春花はそっと楓の歩くほうへ近づいた。

「(楓ちゃん、驚くかな?…ふふふっ)」

「(このプレゼント、喜んでくれるといいな)」

その思いと同時に、楓に近づくにつれて何か嫌な予感がする。
いや、気のせいだろう。

でも。

声を発すれば、もう楓にうっすら聞こえるくらいの距離まで近づいた所で、気づけば良かった。

ただ、何物にも目をくれず、ただ楓だけを見ていた。

「かえでちゃー…ん?」

楓と歩く一人の女性。

以前、楓と二人で相合傘をしていたあの女生徒の姿だった。


「(え、どうして…)」

ドクン   ドクン

と鼓動が早くなるのが明らかに分かる。
呼吸も少しずつ乱れてきて、チクチクと胸をさす痛みが出てくる。

考えてみれば、楓に誘いを断られた時点で誰と、何処に等聞いておけばこんなことにならなかったかもしれない。
でも、普通の友達ならそこまで聞くものじゃない。
彼女にも彼女なりの友達がいるし、彼女なりのプライバシーもある。
そこまで聞くのは、カップルならまだしも
普通の”友達”だから。


発声してしまったのが運の尽き、楓は声のする方に顔を向けてきた。
私の存在に気づいたようにこっちに近づいてくる。

やめて  来ないで  

咄嗟に逃げようとする動作を取ろうとしたが相手は陸上部、こっちは運動神経が悪い帰宅部。勝てるはずがないと頭の中で悟り、その動作を止めてただ後ろを振り返り、楓に背を向けるように歩き出した

「あれ、春花?」

やばい、気付かれてしまった。
無視をしようか、いや、そんな事をしたら私と気付かれた時より気まずい状況になるに違いない。

「春…花、だよね?あ!春花じゃーん!何してるの?こんな所で、買い物?」

私と確信した楓は嬉しそうに話しかけて来る。

「あ、あはは…や、やっほー楓ちゃん…」

「買い物してたの?私達も今そこのお店で買い物してたんだよねー!あ!この子、紹介するね?私の友達の香奈!私と同い年で、違うクラスの子なんだ!」

話している楓が腕を彼女の方に向けて、その腕が指す奥からゆっくり歩いて来る女の子を、楓は怖い物を見ているよう小さく上目で見ていた。

「こんにちは、始めまして。上田香奈って言います。気軽に香奈って呼んでかまわないから、よろしくね?」

始めまして。

始めましてと言われたが、春花にとっては初めましてではない。
何度あの光景が目に浮かんだであろう。
何度あの後ろ姿、あの横顔を思わせたのだろう。

「あ、は、始めまして、青葉春花です…」

スッと香奈が握手を求めてきたのに対して身体をビクッと震わせた春花を見て、楓が後ろから笑っている

「あっはは!春花緊張しすぎだよ、私の友達の香奈ちゃん、仲良くしてね?」

そういって楓は春花の手を優しく取り、香奈の手に握手させるように近づけた。

「大丈夫だよ、春花。ね?」

手に伝わる温もりから僅かな安心感を感じる。
でも。

「よ、よろしくお願いします…」

「ほら、この子少し人見知りだけど、凄い良い子で優しい子だから。可愛いでしょ?」

「(可愛いって、言ってくれた…)」

「うん…可愛い子、だね。よろしくね春花ちゃん」

グッと握られた手。
楓ちゃんよりも少し小さくて、少し冷たい手。
他の人の手を握ったのは久しぶりかもしれない。

「か、可愛くなんて…あ、ありがとうございます!」

気持ちが少し落ち着いて、香奈の方を改めてよく見てみる。

長い綺麗な黒い髪の毛。
楓と同じくらいの身長で、でも楓よりも細くすらっとしていて、モデルのような体型をしている。

私に比べて、凄い綺麗で。

「あれ、楓がよく言ってる春花ちゃんってこの子の事?」

「そうそう!昔から一緒にいるんだ!幼なじみってやつ?」

「(楓ちゃん、私の事話してくれてるんだ。
どんな風に言ってるんだろう…悪口とかじゃ、ないよね…?)」

「ふーん…ねえ、春花ちゃん」

何かを考えてるように、春花に話しかける香奈。

「ふぇ!?な、何ですか…?」

「楓とは仲良いの?」

「あ、うん…私が小さい頃からずっと仲良くしてくれて、遊びにもいっぱい連れて行ってくれて、お姉ちゃんみたいな、憧れで、かっこよくて…」

楓が片手を自身の後ろに置き「いやー恥ずかしいなー」なんて頭を掻きながら照れ臭そうにしている。

「へぇ…そうなんだ」

「楓ちゃん家にも遊びに行ったり家に来てもらったり。凄いお世話になってて。」

「へぇー、なるほどね」

周りに聞こえないように独り言の如く小さい声で感想を言った香奈はオズオズ喋り続ける春花の首元から手を伸ばし後ろ髪を優しく触り始めた

「ひゃっ!」

突然の出来事にビックリしたであろう声と、体をビクンと震わせる春花に対してお構いなしに髪を触り続けた。

「綺麗な髪の毛…これ、染めてるの?」

「いや、地毛で…」

「へぇ、珍しいね。あ、春花ちゃんにいいこと教えてあげようか?」

「え、な、なんですか…?」

髪の毛を触り続ける手に自身の口を近づけ、春花の耳元に囁くように呟いた。

「私ね、楓と…キス、したんだ」

その時。私が住んでいるこの世界が、長い間止まったように感じた。


- - - - -


「え…」

「だから、楓と…チューしたんだよ」

ドクン   ドクン  

「う、嘘…」

苦し紛れに、否定をする。嘘であってほしい願望も込めて

「嘘じゃないよ、楓に聞いてみな…ふふっ」

耳から口を遠ざけ春花の肩をポンッと叩き、未だに照れてる楓の方に歩いていく。
楓と香奈は二人して話し込んでいるがその会話は春花の耳には一切入ってこない。
春花の世界は、さび付いたネジのようにゆっくりとしか動き始めてない。

「(楓ちゃんが…キ、キス…)」

今、私は何をすれば。

どんな行動を取るのが正解なんだろう。

テレビで見たように、「この、泥棒猫!」と香奈に突っかかっていくのか?

楓ちゃんになんで香奈ちゃんとキスをしたのか、事細かに聞くのか?

その場で泣き崩れた方がいいのだろうか?

わたしは、どうしたらいいんだろう。

街中で一点を泣き出しそうに見つめる彼女は、周りからみれば不思議でしょうがない。
そんな春花を不安に思い、後ろから楓が声をかける。

「おーい春花、どうしたのー?」

どうしよう、楓ちゃんが話しかけてきた。

目をみたら確実に泣いてしまう。

「んーん、な、なんでもないよ」

「そうかー?でもちょっと元気ないよ?」

「だいじょうぶだよ、ほんとに、すこし、かん…がえごと、してて…」

心配する楓を背に、顔は見せないように会話をする春花

「(少しでも、落ち着かないと…)」

「何かあったら言ってね?あ、そうそうでさー、今香奈と話してて良かったら春花も一緒にショッピング行かない?って、どう?」

何を考えているんだろう、香奈ちゃんは。

怖い。

「あ、いや、よ、用事思い出しちゃって。私、帰るね!バイバイ!」

半ば強引に二人から距離をとるように走り出した春花。

「あ、おい!春花!」

声をかける楓をよそに、関係ないとばかりに駅に向かう春花。

どうして、どうして、どうして!どうして!!

何に、こんなムキになってるんだ。

香奈ちゃんは、楓ちゃんと付き合ってるんだ。

ただ、それだけの事なのに。

私が

もう、何も

楓ちゃん

ピロン♪ 

携帯が鳴る。

誰が連絡をしてきたかは見なくてもハッキリわかる。
何故なら1時間前から必要以上に携帯がなり続けているからだ。
差出人も最初は確認したが、楓と分かっていてあえて無視をしている。

もしも、ここで連絡を返すとして、どう返せばいいんだろうか。

何事も無かったように元気に振舞えばいいのか。

考えているだけで苦しくなる。

家に帰ってきても自分でも何したらいいか分からない春花は、自室の布団に帰ってきた服装のまま潜り込んだ。


「(私ね、楓と…キス、したんだ…)」

やめて

ドクン   ドクン

「うぅぅ…うっ…グスッ…」

苦しみながら自然と涙が出てくる。
流してる涙をよそに春花の脳内には様々な嫌な妄想が膨らんでいる。

手をつないで楽しそうにしている二人の光景。

キスをしている二人の光景。

二人が裸で、行為に及ぼうとしている光景。

「やめて…楓ちゃん、やめてっ……!」

「じゃあね、春花。」「私、香奈と一緒にいくから。」「だから、春花は一人でこれから頑張ってね。」

やめて。  やめて。

やめて!


行かないで!! 「楓ちゃん!」

ガバッと飛び起きた春花は周りを勢いよく見渡す。
暗い部屋で、いつもの見慣れた私の部屋。

ハァ  ハァ  
息を切らせながら見ていた光景が夢だと確信した。

「ゆ、夢…?」

息を整わせながら深呼吸をしていると、携帯が再び鳴る。

ピロン♪

体をビクンと震わせて携帯の画面表示を確認する。

[楓ちゃん 13件]

「(楓ちゃん…あれからずっと連絡してくれてたんだ)」

落ち着きを取り戻した彼女は画面表示された楓の名を見て、少しの申し訳なさも考えだした。

「見るだけ…」

「(一番新しいのだけ見てみよう)」

「(怒ってないかな…)」

恐る恐る携帯を開く。

[いつもの公園で待ってるね]

「(いつもの公園…)」

いつもの公園は、初めて楓と出会った春花にとっては思い出の公園。

「(今の気持ちで、会いたくないけど…でも、楓ちゃんに謝らないと…)」

支度も特にせず携帯だけ持ち、玄関へ向かう。

「お父さん、ちょっと出かけてくるね」

「こんな時間にか?」

「う、うん。楓ちゃんに呼ばれて」

「春花お前、その顔…分かった、気を付けてな」

「うん、行ってきます」

玄関を開けて公園に向かって歩く。
その間、不思議とお昼の出来事は頭に浮かばなかった。
考えていたのは、楓への申し訳なさだった。


公園に着いた春花は周りを見渡す。

「(あ、いた。)」

公園の端にあるブランコで、寒そうに携帯を弄っていた。
恐る恐る近づいて楓に声をかける。

「か、かえでちゃ…「あ!春花!」」

声に気づいたのか、瞬時に反応され春花の声に上書きするように話しかけてきた。

「お昼どうしたの?大丈夫?香奈になんか酷い事言われたの?」

「い、いや。ただ本当に急な用事思い出しちゃって、香奈さんにも今度あやまらなきゃ……楓ちゃん」

「ん?」

「あ、あの…本当にごめんなさい!」

ブランコに座ってる楓に対して頭をさげて誠意を示す春花

「せっかく誘ってくれたのに、突然帰る感じになっちゃって…楓ちゃんの事も変に無視する感じになって、連絡も取らなくて」

「いや全然気にしなくて大丈夫だよ、何年付き合ってると思ってるの?こんな事じゃ怒らないって! うーん、香奈…ねぇ…」

少し遠くを見て香奈の名前を呟く楓に対して春花は少しの疑問が残った

「香奈さんが、どうかしたの?」

「いや、春花が急にあんな態度取るから絶対何かあったと思って、あの後香奈と少し言い合いになったんだよね。」

「え?」

「そしたらさ、なんていうか…」

言葉を選んでいるのか、首を傾げながら下を向く楓。
春花は何も言わず、何もせず、ただ次の言葉を待っていた。

「あ、春花も座んな」

「あ、うん」

楓の横のブランコに座る春花。

「でさ、そのー、香奈にね?告白された…ん、だよ…ね」


「え…」

「(告白…告白って、あの…)」

頭の中に再びあの光景が目に浮かぶ

ズキッ   ズキッ   

徐々に呼吸が乱れてくるのが自分でも分かった。

「(お、落ち着かないと…)」

「へ、へぇ…香奈さんが…」

「うん…」

「か、楓ちゃんは…ど、どうする、の?」

「(聞きたくない。
キスをした、相合傘をした。そんなに…なんて)」

「(もう、ダメだ…泣いちゃう。 楓ちゃんに…見られちゃう)」

あと数秒もすれば涙をこぼしたであろう春花の表情を他所に、楓は答えをだした。

「…断るよ」

「グスッ…え、あ そう、なんだ…」

「(断るんだ…そっか)」

「うん、だからちょっと色々考え事も兼ねて春花を待ってたんだ」

「そう…なんだね」

「あ、春花なんか飲む?自販機で飲み物買ってくるよ」

「いや、大丈夫だよ、ありがとう。」

「そっか、いや…告白なんてされたの始めてだからさ、告白された時ってこんな気持ちなんだなって。」

「……」

「ほら、香奈って何考えてるか分からない子なんだよ。
だから春花が帰った時香奈に「春花に何言ったの?」って言ったら「いや、何にも」って。」

「そんな訳ないじゃん?だから「正直に言って」って言ったの」

「そしたら、何だかんだで私の事が好きって言ってきて…」

「…そうなんだね」

「…んー!あー!もう本当あの子何考えてるか分かんない!悪い奴じゃないし、いい子なんだけど、こういう所が本当に良くわかんない!」

「あ、あは、は…で、でも、香奈さんは楓ちゃんとキスしたって」

「はぁ!?あの子そんな事言ってたの?んー!もー!」

「…」

「してない!いや、したとは言えるんだけど、でもあれは事故で!」

「じ、事故?」

「ほら、私去年修学旅行行ったじゃん?」

「あー、京都だっけ?」

「そうそう、ほら、春花にお土産あげたじゃん」

「木刀と龍のキーホルダーでしょ?あれどうしようか困ってるんだよ…」

「まぁまぁ、でさ、そん時にお茶屋さんで偶然ぶつかってお互い倒れちゃってキスするような感じになっちゃったんだよ…」

「そうなんだ、そんな事あるんだね…」

「そうそう、あー、なんでそんな事春花に言うんだろう…」

「あ、あはは…」

「(よかった、あれは事故だったんだ…)」

内心ホッとした春花は、長くため込んでいた不安やストレスを吐き出すように溜息を一つ付いた。

「告白かー…春花だったら、どうする?」

「え、どういうこと?」

「いや香奈ってさ、ほら…女の子じゃん?もちろん私も女の子なんだけど。
あんまり、人を好きになる。 ましてや相手が女の子っていう感覚が分からないんだよね。」

ドクン

「(私に言ってるのかな…?)」

「わ、私もあんまり分からない、かな…?」

「うーん。なんて言うんだろう…普通に女の子同士ってありえないっていうか。」

ドクン

「(……えっ?)」

「普通に、女の子は男の人を、男の人は女の人を好きになるもんじゃないのかな?
気持ち悪いって訳じゃないけど、いまいち、分からないんだよね………」

「(気持ち、悪い…)」
先ほど吐き出した不安とストレスが、一気に戻ってきたような感覚。
背筋が凍るように冷たくなって、唇が震えてくる。

「春花はさ、どう思う?」

楓は春花の気持ちに気づいていないだろう。
純粋な気持ちで聞いてきているのが春花にとっては苦しみでしかない。

「(そんなの…なんて言えば)」
「…ぁ、ぁぅ…ぁ、ぅぅ…グスッ…」

言葉が出ない。
出そうとしても言葉が出ることがない。
口が言葉を発するのを拒絶しているようで。

自然と涙がでる

「気持ちは嬉しいんだけどね、でもどう反応したら良いかわかんなくて。」

「(なんで私だけが、こんな目に…苦しい。)」

「(もう、嫌…)」

この場所から逃げ出したい。
今だけは、楓ちゃんを見たくない。
その思いだけで、春花はブランコからゆっくり立ち上がった。

「お、お父さん…待たせてるから、帰る、ね」

今日だけで、春花自身はどれだけの苦しい思いをすればいいんだろうか。
恐らく、今日が人生で一番悲しい日になるだろう。
歩き出しそうとする彼女は涙を隠しながらそう思っていた。
 
「え、ちょ…春花?」

声をかける楓に申し訳なさも感じながら歩き始めた。

「まって…まって!春花ぁ!」

普段の楓から発せられない程の大声。
待ってと言われた言葉に反応して一度足を止める。
振り返らずに、ただ立ち止まる。

「も、もしかして…」

嫌な予感がする。
その続きを言うことによって、何かが崩れてしまうような気がする。

「(言わないで、言わないで…その先は)」

沈黙が数秒続いた後、楓の続きから終わりを告げる言葉が聞こえてきた。

「春花、私の事…す、好き…なの?」

夜の静かな公園。

頬を冷たい風がなぞるように吹いている。

時が止まるように感じる。

あぁ
世界は私のことが嫌いなんだな、
私はこれ以上の幸せを求めちゃいけなかったんだ。


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NEXT→https://note.com/aohal_graffiti/n/nfc6a96757e8f

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今回の[raindrop]に関わった皆様

VOCALOID楽曲
https://nico.ms/sm37739332

Youtube
https://youtu.be/xRzQUA2C5RA

Music:AoHalGraffiti
https://twitter.com/AoHal_GZ

作曲:GK
https://twitter.com/gkaohal

作詞/動画:みゃ
https://twitter.com/ChaaaaaaaaaanZ

Story:AoHalGraffiti

Illustration:noru
https://twitter.com/noru_sumi

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