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#7 raindrop-困惑



------------困惑

「おはよー!」「あ、おはよー!」「昨日の番組見た?」「あー!見た見た!」
「ていうかさー、マジあの先生うざくない?」「あーわかるー………」
「化粧品没収されたわ-…マジむかつく」
「昨日さ、ゲーセンで佐山と清水見かけたわ!」「え!?マジかよアイツらデキてんの?」


教室のドアを開けると変わらないクラスの友達の声。
友達、と言えるかは分からないけどたまに話すくらいの知り合い。


「おはよう…」

誰かに向けたわけでもない、ただ業務的に発した言葉。

元気が無いのは朝だから。

違う

今日のテレビの占いが微妙な順位だったから?

違う

先週の出来事を、まだ引きずっている?

当たり

先週の夜の出来事、つい1週間前。
公園での楓との出来事以来、彼女とは連絡を取っていない。
半ば逃げる形になってしまったんだ、気まずくて仕方がない。
最初の内は連絡が来ていたが、内容も見ず春花は削除をしてしまった為何が書かれているかも分からないまま、楓との連携を絶ってしまった。
楓もそれを察したのか、ここ4日位画面に[楓ちゃん]と表示されることは無くなった。

朝も時間を春花がずらしたからなのか、楓が部活で忙しいのか、正確なところは分からないがこの1週間楓を見かける事は無かった。

学校では時々顔を見るが、目が合ってもお互いに決まづそうに無視をする。
その時どれほど心が痛いか。

普段は家族のように仲良く接する二人が、突然会話も、何もなくなる事がどれほど辛い事なのか。

春花の精神はもう限界に来ていた。

「(春花、私の事…す、好き…なの?)」

楓の言葉が頻繁に脳裏をよぎる。
もうやめてほしい、そう思い頭を横に勢いよく振っても飛ぶことはない根付いた記憶。

答えてあげれば良かったのか。

思い出すたびに正解が分からず、不完全燃焼。
自分が情けなくて涙がこぼれそうになる。

「(もう、あの頃みたいに戻れないのかな………)」

楓と始めて出会った記憶、一緒に公園で遊んだ記憶。男子にいじめられてたのを助けてもらった記憶。一緒に買い物した記憶。夏祭りで一緒に花火を見た記憶。二人で年越しをした記憶、等。

これまでの様々な記憶が彼女の脳内を染めあげていく。

「(どうしよう…)」

周りから見ているだけでこっちの気分も落ち込むような暗い雰囲気を漂わせながら机に向かう春花に声をかける一人の女の子。

「はーるか!」

背中をポンと叩かれ振り返る

「あ、夏美ちゃん…おはよう…」

話しかけてきた女の子の名前は桜井夏美。
桜井夏美、橘千秋、高木夕梨花の仲の良い3人グループでまだ春花が中学1年生、クラスに馴染めていなかった頃、席替えで桜井夏美が春花の横になったのがきっかけで話すようになった。

普段から明るく、誰にでも仲良くなれる桜井夏美
いつも寡黙だが、喋るときはトコトン喋る不思議なキャラの橘千秋
グループのまとめ役で、二人のボケにツッコミをいれる高木夕梨花

春花にとってはとても居心地の良いグループだ。
最近は春花も含めてバンドを組みたい等を常日頃話している。

「どしたー?朝から、最近元気ないぞー?」

「大丈夫だよー」

「そうかなー?また、いつものみんなで遊びにいこうぜー!」

「うん、また誘ってね。」

「あ、そうだ春花、これ見てよ」

「?」

首をかしげる春花に対して、ポケットからゴソゴソと何かを携帯を取り出して何かを探し出す夏美。

「ほら!これ見て!超面白くない?」

画像に表示されていたのは雪だるまから夏美が顔を出して、真顔の表情を貫いている写真。
シュールな画像、という訳だ。
普段の彼女は明るく、みんなを笑わせているムードメーカーみたいな女の子。

「っ………ふふ………」

思わず笑ってしまう。
それに気づいたのか、嬉しそうにからかいだす夏美

「あ!今笑ったでしょ?笑ったね!これさ、めっちゃ面白くない?この前連休にお婆ちゃんち行った時に雪積もってたから妹に取ってもらったんだよね!」

「あはは!面白いねその写真!」

「でっしょー?春花送っておいてあげるから、元気ないとき見てよ!」

「(夏美ちゃん…私が元気ないからって、優しい)」
「あ、うん。ありがとう」

「どう?元気になった?」

「うん!少しだけ嫌なこと忘れそうだよ、ありがとう。」

「へっへー、どういたしまして!」

そうこう会話しているうちに他の仲のいい友達が入ってきた。
夏美は元気よく友達たちに詰め寄る。
その光景を見ながら春花は彼女たちとの関係が、ずっと続きますように。
そう一言願いを込めて、彼女達の会話に混ざりに行った。


学校が終わると一遍、また気分は落ち込んで来る。
何かある度楓と行動を共にしていた彼女は一人で何かをするのが、寂しくて仕方がない。
ただ、最近は

「あ、春花ー今日またどっか行く?」

夏美から声を掛けられる。後ろには千秋や夕梨花が共に一緒に付いてきていた。

「あ、うん。行きたい!」

「おっし、じゃあどこ行こうか」「私は、海がいいかな」「嘘だろ、寒すぎるわ………」

「私は、特にないかな?みんなとどっかに行くだけで楽しいんだ。」

「はぁー!可愛い奴め!」「う~ん、マンダム」「何歳なんだよ千秋は………」

じゃあ昇降口で待ち合せねーという夏美の言葉に返事をして昇降口に向かう。

「(本当に優しいな、みんな……)」

最近は連日遊びに誘われている。
ふざけあいながらも何だかんだ春花が心配なのだろう、これが彼女たちの優しさだった。
何かをして気を紛らわせた春花も断ることはなく、連日一緒に遊びに行っていた。

昇降口に付くと自分の下駄箱に手をかける。
扉を開けると見慣れた自分の靴と、一通の手紙が入っていた。

「(え?!)」

「(ラ、ラブレター…ってやつなのかな?)」

ドキッとした彼女は咄嗟に隠す動作をして周りを見渡す。
誰もいない

「(み、見ちゃっても…いいよね? 私宛なんだし…)」

手紙には[青葉 春花さんへ]とどこか見慣れた筆跡で書かれていた。

「(あれ、この字…どっかで)」

恐る恐る手紙を開け中を確認する。

「(…っ!)」

[今日の夜20時、いつもの公園で待ってます。
来てくれるまで、ずっと待ち続けます。紅葉 楓]

「(か、楓ちゃん…)」

携帯だと連絡がつかないからと判断して手紙を書いて下駄箱に入れたんだろう。
それだと春香自身も確実に目につくから。

「(今日の、20時…)」「おっまたせー!春花!」

急な夏美の声に驚きに声をあげながら咄嗟にカバンの中に手紙を押し込むように入れた。

「およ、なんか今隠した?」

「い、いやいや!何にも!」

「怪しいな~?」

「本当だって!」

「そうかー?ま、いいや!行こ?」

こっちこっち!と手を招いて案内する夏美にホッとした表情で歩いていく。

「あ、うん!」

歩いて玄関に向かう春花を目で追いかける一つの影。


「……春花…」

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---------迷路


デパートの中で笑いあう一つの集団。

「いやー!本当楽しかったー!」「大量…♪」「千秋、それほぼ一発で取ったのマジでスゲーわ」「いる?」「いいの!?」「夏美も、」「え!嬉し!」

「(ふふっ、楽しいな…)」
騒いでいる3人を見ながら微笑んでいた春花に気づいたのか、千秋が春花に近づいた

「ん。」

ゲームセンターで大量に獲得したプライズ品を一つぬいぐるみを春花に渡す。

「え?」

「ん。」

グイっと押し付けるように春花に渡してきた。

「あ、ありがとう…」

「ん!」

微笑んだ千秋も、渡せて満足そうな表情を見せた。
普段は無口な彼女なりの、気遣いなんだろう。

「(あ、これって…)」

手にしたぬいぐるみを見る。
以前、楓と一緒に買ったクマのキーホルダー。
そのぬいぐるみバージョン。

「(楓ちゃん…)」

「おし!じゃあ帰るかー!」「もう晩飯時。」「だなー、お腹すいたー!」

携帯で時刻を見る。

19時30分。

「(……どうしよう)」

春花自身、まだ行くかどうか悩んでいた。
行って何を話せばいい?
謝るのか?怒るのか?

彼女が悩んでいた時、ふいにぬいぐるみを見てみる。

「(あんまり最近、春香と喋れてなかったし、遊びにも頻繁に行けてなかったから。そのお詫びもかねて…私たちはずっと一緒だっていう証明で!」)」

「(いつもの春花が私は好きだよ!)」

「(それはね、恋ってやつだよ)」

「……楓ちゃん」

ボソッと呟いてみる。

「(そうだよね、やっぱりこのままじゃダメだよね…!)」

電車を降りて3人に別れを告げた春花は、約束の公園に向かった。

公園に付くと携帯を取り出して時間を見る

19時55分

「(楓ちゃんは、まだ来てないのか…)」

楓が居ないのを確認すると先日彼女が座っていたブランコを目にする。
無言でその横のブランコに座る春花。

ギィ   ギィ    

さび付いた鉄がこすれる音が公園内に静かに響く。

「春花……」

「…楓、ちゃん」

「こっちの、ベンチ座んない?」

「あ、うん…」

お互い口数を最小限にしながらベンチに座る。

誰もいない、この公園で。

一つのベンチに二人で座った。

「あ、これ、ほらっ」

ポケットから缶のお茶を取り出して春花に渡した

「え、あ、ありがとう…」

缶からぬくもりが伝わってきた。
買った時間からそう時間は経ってないように思える程、暖かい。

「わぁ、あったかい…」

「……ごめんね」

不意に出てきた謝罪の言葉に春花はドキッとする。

「え?…何が?」

「ほら、前…ここで変な事言っちゃった、じゃん?」

「あ、う、うん で、でも!元々無視しちゃってたの私だから…私こそ、本当にごめんなさい!」

「いや、春花は悪くないんだ…私さ、この年になって…色々あってさ」

「…」

「香奈の事もそうだし、春花の事もそうだし…あとは、さ」

「…」

「私…」

長い沈黙。風の音がハッキリ聞こえるようになる程の沈黙の時間。

「…ど、どうしたの?」

「…」

「私に、言えない事…なの?」

「いや…」

「言えないなら、無理に言わなくても、大丈夫だよ」

「違う、言わせてほしい…」

「っ…」

「私さ……引っ越すんだ」

「……え」

「……」

「え、引っ越す…って」

「……うん」

「ど、どこ……に?」

「……北海道、お父さんの仕事の都合でね」

「そっか…遠いね…」

「うん…いつ、こっちに帰ってこれるか分からないんだよね」

「…そ、それって…いつ頃決まったの?」

「……去年の夏、二人で夏祭りに行った次の日」

「そんな前から…どうして……」

「ごめん、春花…」

「どうして…どうして言ってくれなかったの!…グスッ、うぅぅぅ…」

「…」

貯めていた感情が。
決壊したダムのようにあふれ出てくる。

「なんで…ひどいよ…!」

鼻をすすりながら、涙を袖で拭きながらも精一杯訴えかけるように話し続ける

「ごめん…春花を悲しませたくなくて…」

「グスッ…そんな、どうして決めつけるの…そんなのって、酷いよ…」

「…」

「いつ…引っ越すの?」

「…卒業と、同時に」

「同時って…あと2ヶ月もないじゃん…!」

「…ごめん…」

「…謝らないでよ…!」
「(楓ちゃんが悪いんじゃない。 私に、気を使ってくれたのに…)」

「私も…さ、このままじゃダメだなって思ってたんだ。 だから、春花に」

「そんな…自分勝手だよ……楓ちゃん…」


「行かないで…」


ボロボロと涙をこぼしながら話す春花に、楓はジッと黙っていた

「…」

「行かないでよ…私を、一人にしないで…!」

「…」

静かな公園に、ただ佇む。

街灯が照らして出来る、二つの影

「……ねぇ、楓ちゃん」

「…なに?」

「前に私が電話で話した、相談の内容って覚えてる…?」

「あ、えっと…アニメみたいな恋の話し、だっけ?」

「そう…」

「うん、覚えてるよ。タイトル思い出したの?」

「違うの、あの話…」

このままだと本当に戻れない気がした。

「あの話…」

でも、言うタイミングは今しかない。

「…あれ」

もう、会えなくなるなら。

「…私の話、なの」

数秒の沈黙が訪れる。

その間春花の鼻をすする音だけが公園に響く。

「……どういう事?」

「ま、前にね…下駄箱で楓ちゃんが一緒に帰れなくなった時、香奈さんと帰ったでしょ?あれ、私見てたの…後ろで。
そしたら、胸がギュって締め付けられて、痛くて、痛くて、泣きそうになって…なんでだろうって、思ってたの」

「…」

「そしたら、楓ちゃんが…電話で「恋だよ」って」

嗚咽交じりで必死に言葉を出していく。
もう彼女は戻れない一歩を踏み出してしまった。 

「もう私、どうしたらいいかわかんなくて、こんな気持ちになった事ないし…これが恋だなんて、楓ちゃんは女の子だし…でも、あれから楓ちゃんの事を見るたび、その事を思い浮かんじゃって…わたしにとって、楓ちゃんは…いちばん大好きな人で、これからもずっといっしょにいたい」

「…」

「わ、私と…」

「…付き合って…ください」

泣きながら。
彼女は一生懸命に、悔いのない意思を伝えた。

「…ごめん」

ごめん。

その言葉で視界がすべて黒に染まる。

世界は私を否定したんだ。



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「そう、だよね…」

「…本当にごめん」

「いい、謝らないで…ほら、元々私って可愛くないし、人見知りだし…楓ちゃんにも迷惑掛けちゃうし」 

「違う…春花は可愛いよ」

「私が見てきた世界で、一番…」

「じゃあ、どうして…」

「…女の子同士だからだよ。 私もどうしたらいいか分かんない…たとえ付き合ったとしても、社会は、世界は認めてはくれない。幸せになれないんだよ…」

泣いている春花に釣られ、楓もボロボロと涙をこぼしていく。

「…楓ちゃん」

「ごめんね…でも私たち、これからもずっと…一番の親友だから!」

半ば強引に立ち上がり、肩を震わせながら背中を向ける楓

「待って、楓ちゃん」

「本当に嬉しかった、本当の本当に…でも、ごめんね」

「楓ちゃんっ!」

春花から出た大きい声に思わず振り返る

「これ…」

カバンから何かを取り出す春花
それを何も言わずただ眺めている楓

「楓ちゃんに…似合うと思って…」

渡された小さい紙袋を開けると、中にはシュシュが入っていた。

「これって…」

「前にね、買い物した時見つけたんだ。楓ちゃんに絶対似合うって思って…」

唇を噛みしめ、これ以上泣いては行けないと涙をこらえる楓

「離れていても、これからも私たちずっと友達だよね…?」

「あ、当たり、まえだよっ!」

「えへへ…よかった」

「…春花」

「ん、なに?」

「ありがとう、ごめんね」

そう言って楓は自分の涙を拭いてる春花の手を退けて

静かにキスをした。

「んっ!?」

一瞬の出来事に、春花は動揺を隠せずに目を大きく開いた。

唇と唇が離れると楓は何も言わず背中を向けた。

「じゃあね…」

歩き出した楓を春花は止めようとせず、ただ泣きながら、気の済むまで彼女の名前を呟き続けた。

じゃあね、なんて言わないで。

もう今の関係が終わってしまう気がするから。

またね、って言って欲しい。

でも。

「楓ちゃん…うぅ、グスッ…かえ…で、ちゃん…」

冷たい風が頬をつんざく、彼女にとって初めての恋。

楓からもらったお茶はすっかり冷めきっていた。

飲み口に口を付けるとあの時の感触を思い出す。

柔らかかった、暖かい唇。

彼女は一人公園で泣いていた。

誰もいない公園で、ただ一人で。


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NEXT→?

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今回の[raindrop]に関わった皆様

VOCALOID楽曲
https://nico.ms/sm37739332

Youtube
https://youtu.be/xRzQUA2C5RA

Music:AoHalGraffiti
https://twitter.com/AoHal_GZ

作曲:GK
https://twitter.com/gkaohal

作詞/動画:みゃ
https://twitter.com/ChaaaaaaaaaanZ

Story:AoHalGraffiti

Illustration:noru
https://twitter.com/noru_sumi


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